辞職で回避?百条委員会の存在意義
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猪瀬問題で話題となった「百条委員会」とは?
辞職した猪瀬直樹東京都知事が医療法人「徳洲会」グループから5000万円の資金提供を受けた問題で話題となった「百条委員会」。猪瀬知事の辞職を受け、都議会最大会派の自民党と第2会派の公明党は、百条委員会の設置を見送る方針のようです。
地方自治法100条1項は、「普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の事務(括弧内省略)に関する調査を行うことができる。この場合において、当該調査を行うために特に必要があると認めるときは、選挙人その他の関係人の出頭及び証言並びに記録の提出を請求することができる」と定め、普通地方公共団体(地方自治体)の議会に対し、自治体の事務に関する調査権を与えております。国会(両議院)の国政調査権(憲法62条)と同じ性質のもので、調査権の主体はあくまでも議会です。ただ、調査を機動的に行うためには、これを委員会に付託し、委員会にて調査することが多いことから、同条に基づいて調査を任される委員会のことを「百条委員会」と呼ぶようになったのでしょう。
正当な理由なく拒否や虚偽をすると刑事罰に問われる
では、このような百条委員会を設置ないし開く意味はどこにあるのでしょうか。それは調査の対象となった「選挙人その他の関係人」を出頭させて証言を求め、あるいは記録の提出を求めた場合に、その「選挙人その他の関係人」としては正当な理由がなければこれを拒否することができず、これに反した場合には「6箇月以下の禁錮又は10万円以下の罰金」(同条3項)という刑事罰が定められていること、さらに、その「選挙人その他の関係人」が嘘をつかないという宣誓をしたにもかかわらず、虚偽の陳述をした場合には「3箇月以上5年以下の懲役」(同条7項)という刑事罰が定められていることにあります。しかも、このような刑事罰の対象となる行為があったと認められる場合には、議会としては刑事告発をしなければならないものとされているため(同条9項本文)、調査の対象となった「選挙人その他の関係人」は非常に厳しい状況に置かれることになります。
刑事罰の制裁のもとに調査対象者に真実を語らせる
しかしながら、他方で憲法38条1項は「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と定めておりますので、供述を求められた内容が自己に不利益な場合には、供述を拒否することに「正当な理由」があることになり、刑事罰の対象とはなり得ません。ただ、これは,あくまでも「不利益な供述を強要されない」という消極的な権利を保障したに止まり、積極的に虚偽の陳述をすることまで保障したものではありません。供述を拒否するだけに止めておくことが必要であるにもかかわらず、そうすることで「やましいことがある」との疑いを招いてしまいかねないため、それを避けようとして、より深刻な偽証をしてしまう人もいるのではないでしょうか。
結局のところ、このような刑事罰の制裁のもとに調査対象者に真実を語らせ、真相を究明しやすくし、地方行政を監視する役割を担っているといえるところに「百条委員会」の存在意義があるということになります。
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