報じられない特定秘密保護法の必要性
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外国と秘密情報を共有でき、国際的な責任を果たすために役立つ
特定秘密保護法は、12月6日(正確には7日未明)に閉幕した臨時国会の会期末に、巨大与党の強引な議院運営によって可決されてしまいました。私自身は、特定秘密の指定に恣意的な判断が紛れ込んだときに、それを監査・是正する仕組みが甚だ不十分であるため、成立した法律では賛成できないとのスタンスですが、そのような法律を与党がなぜ強引に成立させてしまったのかという視点から、この法律の必要性について考えてみます。
まず、賛成派の論拠とされていることのひとつは、外国との秘密情報の共有という点です。「あの国に情報を提供したら、秘密情報を守る仕組みが不十分なため、どのように流出するかわからない」となると、外国から重要な軍事・外交上の情報が入ってこなくなります。そのような事態は、我が国だけでなく、情報を共有して連携して問題に対処しようとする外国にもマイナスです。日本が国際的な責任を果たせないということにもつながります。
現在の「特別管理秘密」からは一歩前進したという見方も
また、軍が使用する武器の設計図や暗号、外交交渉の手の内などは、どの国にでもトップシークレットとして保護されている情報です。このような情報が流出することを阻止する必要性は、多くの国民が認めるでしょう。これまでは、「特別に秘匿すべき情報」は「特別管理秘密」として管理されており、秘密を漏えいした場合には、公務員法違反で処罰されることになっています。ただ、「特別管理秘密」の具体的な指定は各省庁によって独自になされています。法律に根拠を持たないでなされる秘密指定の方が、特定秘密保護法による指定よりも官僚の恣意的な運用がなされる恐れは大きいといえます。
「特別管理秘密」は、内閣情報官や各省の局長など官僚が政務三役に知らせることなしに特別管理情報を指定することができました。しかし、特定秘密保護法では、大臣が特定秘密を指定することになっています。そして、現在、指定されている「特別管理秘密」には、特定秘密保護法の保護対象とならないような事項も多く含まれているとの指摘もありますし、一歩前進という見方もできます。こう考えると、このような法律の制定に積極的に評価できない部分が無いとはいえないでしょう。
とはいえ、為政者の驕りには注意。改正する努力は続けるべき
ただし、もちろん注意は必要です。上記の説明では、特定秘密保護法が制定されることで「特別管理秘密」が無くなるかのような印象もありますが、そのような運用になる保証はありません。むしろ、防衛、外交、外国の利益を図る目的で行われる安全脅威活動の防止、テロ活動防止といった特定項目については、「特別管理秘密」よりも高度の「特定秘密」として指定されるだけで、「特別管理秘密」は存続するという可能性は十分にあります。そして、秘密指定を監査する第三者機関の内容もあいまいなままですから、その第三者機関が「特別管理秘密」の適合性まで監査することなどは全くわからないのが現状です。
さらに注意すべきは、為政者の驕りです。国民の判断を待っていては政策が迅速に進められないと内閣と官僚の認識が一致したようなときには、判断に必要な情報を特定秘密に指定して、外国と「密約」を交わすこともあり得るということは意識しておく必要があるでしょう。「特定秘密は多くの国民には関係のないこと」といった説明からは、「国民は国政の重要事項を知る必要がない」といった為政者の驕りすら感じられます。
法律が成立したとはいっても、施行は今月13日の公布から1年内とされ、制度が整備されるまでに一定期間の猶予があります。より国民の知る権利(政治に参加する権利)に配慮された法律に改正する努力は続けるべきでしょう。
弁護士と中小企業診断士の視点で経営者と向き合うプロ
舛田雅彦さん(札幌総合法律事務所)
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