秘密保護法で「デモ」は「テロ」になる?
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「単なる絶叫戦術はテロ行為」。石破発言が物議
自由民主党の石破茂幹事長が「特定秘密保護法絶対阻止!」を叫ぶ市民のデモについて、自身のブログに「単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらないように思います」と書いたことで物議を醸しました。後日、「テロ行為とその本質においてあまり変わらない」の部分は「本来あるべき民主主義の手法とは異なる」と訂正されましたが、「一般市民に畏怖の念を与えるような手法に民主主義とは相容れないテロとの共通性を感じる」という自身の持論は撤回していません。
石破幹事長は「ただひたすら己の主張を絶叫し、多くの人々の静穏を妨げるような行為は決して世論の共感を呼ぶことはない」とも書いていますので、「絶叫戦術は一般市民に畏怖の念を与える『暴力的な手法』であって、このような手法は民主主義とは相容れない」と言いたかっただけでしょう。ただ、それがなぜ、「テロとの共通性」につながるのかは明確には示されていません。
「デモもテロに該当」は、条文の読み方としては明らかに誤り
先日、成立した「特定秘密保護法」において、法律として初めて「テロ」の定義が規定されました。そこでは「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他を破壊するための活動」と定義されています(同法12条)。
「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要」することが「テロ」の一つの定義であると拡大解釈して、特定秘密保護法のもとでは「デモ」も「テロ」に該当するといった解説や意見も飛び交っています。しかし、条文の読み方としては明らかに誤りと言わなければなりません。
この条文における定義の解釈として、「テロ行為」とは最終的には「人を殺傷したり重要な施設等を破壊する活動」を指しますが、それは「政治的な主義主張」に裏打ちされている必要があり、さらに「主義主張を国家や他人に強要する目的」あるいは「社会に不安若や恐怖を与える目的」を持って行うことが必要ということになります。
条文の拡大解釈で社会に混乱をもたらすのは「立法テロ」ではないか
条文の中から「主義主張の強要」だけを取り出して、これを「テロの一種」と解釈することは、石破幹事長が「絶叫デモ」を「テロと本質的に同じ」と批判したことにつながるようにも感じられます。しかし、このような形で法律の「拡大解釈」を許すことは、逆に、市民生活を脅かしかねないため、注意しなければなりません。
要は、この条文の起草者が、同じ言葉の繰り返しを避けるという「美学」を貫徹する余り、おかしな解釈を許す余地を作ってしまっただけの話です。この条文では「国家若しくは他人にこれを強要する目的で、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で」と「目的」を二度繰り返せば、おかしな解釈は出来なくなるのです。
同じ言葉の繰り返しを避けるという「主義主張」を貫くことで、条文の拡大解釈を可能にし、もって社会に混乱と不安をもたらすのは「立法テロ」にあたる、とでも言うべきでしょうか。
職人かたぎの法律のプロ
藤本尚道さん(「藤本尚道法律事務所」)
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