遺族年金、受給資格の男女差は違憲。法改正の必要性
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地方公務員災害補償法の男女差は「違憲」。ライフスタイルの変化で
夫が死亡した場合、夫の収入により生計を維持されていた妻は、その年齢に関係なく遺族補償年金を受給できます。しかし、妻が死亡した場合、妻の収入により生計を維持されていた夫は、妻の死亡時に55歳以上であって、なおかつ60歳になるまでは受給を停止されるといった制限が設けられています。この地方公務員災害補償法で定められた規定について、大阪地方裁判所が2013年11月25日、このような男女間の格差は憲法14条に定める法の下の平等に反し、「違憲」との判断を下しました。
この法律が制定された1967年当時の夫婦は、正社員の夫と専業主婦の妻といった組み合わせが一般的で、しかも、夫が死亡した場合に妻がすぐに就職できるといった労働環境にはなかったため、このような男女間の格差も一応の合理性がありました。しかし、その後の社会情勢やライフスタイルの変化が進んだ中で、格差を設けることの合理性がいまだに維持されているのかが問われたものということになります。
判決が指摘しているように、「女性の社会進出が増加し、90年代には共働き世帯が専業主婦の世帯を上回ったこと」「男性の非正規雇用が増え、女性よりも男性の完全失業率が高くなっていること」「母子家庭の8割以上が就業していること」「2010年には母子家庭のみが対象だった児童扶養手当が法改正により父子家庭にも支給されるようになったこと」「専業主夫の世帯が現れていること」などを鑑みると、格差を設けることが合理的と国民を納得させるための事情は今のところ見当たりません。
同様の規定が他の法律にも。厚労省は法改正に取り組むべき
被告となった地方公務員災害補償基金は、国の政策となる社会保障関連の法律は立法府たる国会の大幅な裁量が認められていることを理由として、直ちに違憲とまではいえないなどと反論して争っていたようです。しかし、同様の規定が、国家公務員災害補償法、労災保険法、国民年金法、厚生年金法などにもあることから、違憲無効と判断されることの影響は大きいため、被告が控訴してくることも当然に想定されるところです。
仮に最高裁まで争われることになったとしても、このような社会保障関連法が定めている男女間の格差について、裁判所から違憲であるとの判断がなされた以上、厚生労働省としては問題のある法律であることを十分に認識することが必要です。今後も同様の紛争が相次いで生じることのないように、最高裁判決が出る前に先んじて法改正をしてしまうことが期待されているといえるのではないでしょうか。
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