上司から部下だけじゃない!同僚間でもパワハラに
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パワハラ被害で元同僚に慰謝料の支払いを訴え
千葉県八千代市で佐川急便の配送集荷業務を担当していた40代の元従業員の女性が、勤務当時にパワハラやセクハラ行為を受けたとして、先日、会社と元同僚に慰謝料など計約398万円の支払いを求める訴えを千葉地裁に起こしました。
パワーハラスメント(パワハラ)というと、「上司や先輩が立場を利用して力による嫌がらせを行うこと」と思っている人も多いかもしれませんが、同僚や部下からのパワハラもあるのです。セクシャルハラスメント(セクハラ)については、男女雇用機会均等法で定義されていますが、パワハラについては法律による定義がありません。そもそもパワハラが問題になり出したのは、2010年6月に労基署より労災認定を受けた下記事案からです。建設会社に勤務する営業担当の男性従業員が、2005年3月、マンション建設の請負契約を施主と締結するも、工事代金が予定より3,000万円超過。上司は「お前が払わないなら、関係者全員が解雇される」などと言い、男性に360万円支払う旨の覚え書きにサインをさせました。男性は払えずにうつ病を発し、2007年10月に自殺。遺族が自殺について労災認定を求めていました。
様々な優位性を背景に行われるパワハラの6つの行為
この事案から、パワハラ相談が増え、厚生労働省としても対策を構築すべく、平成24年1月30日、職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告にてパワハラの定義づけがなされました。ですから、つい最近のことなのです。定義された内容は下記の通りです。「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(※)を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」※上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる。
この定義だけだと抽象的でわかりにくいので、さらに具体的な例として下記の6つの行為を挙げています。 (1) 暴行・傷害(身体的な攻撃) (2) 脅迫、名誉毀損、侮辱、ひどい暴言(精神的な攻撃) (3) 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し) (4) 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求) (5) 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求) (6) 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
職場内の優位性とは同僚・部下も含まれるとあります。例えば、「異動してきた新任の課長に部下全員で指示・命令を無視する」「同僚に対して『お前みたいな三流大学出てる人間に何がわかる!』などの発言をする」「Facebookで同僚に友達申請して、あれこれ干渉する」などの行為が該当します。序列や年齢で一番下でも、パワハラ加害者になってしまう可能性は大いにありえます。
パワハラのない職場環境をつくるサイクル
パワハラ被害者においては精神的苦痛により精神疾患になり職場離脱を余儀なくされることもあります。また、企業においては安全配慮義務(快適な職場を提供しなければならない)違反として、被害者から損害賠償請求されるかもしれません。加害者においては、被害者からの損害賠償、会社から懲戒処分を受けるなどの制裁を受ける可能性が大です。被害者、企業、加害者、三者ともに全く得をすることがありません。
パワハラなどを起こさせない職場環境をつくることが大事です。そのためには、対策として下記のようなサイクルが必要です。
(1) パワハラがあってはならない方針の明確化と周知・啓発を行うこと
→ 就業規則の服務規律などで、パワハラの定義、パワハラがあってはならない旨、そのような行為を行うと懲戒処分になることを記載し、それを社内で周知・啓発すること。
(2) 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること
→ あらかじめ相談窓口を設置し、広く相談に応じること。そして適切に対応すること。
(3) 起こってしまった場合には、事後の迅速かつ適切な対応をすること
→ 事実確認を迅速かつ正確に行い、実際にパワハラが認められたならば、行為者に対し、必要な懲戒処分その他の措置を講じること。被害者の地位の回復等を行うこと。
(4) 再発防止措置の実施
→ 再度、(1)に戻り、周知・啓発を改めて行うこと。
パワハラなどのない、明るい職場をつくりましょう。
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