電力改革法で電気代は本当に安くなる?
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電力システムの改革が本格的に進められることに
電気事業法の改正案が11月13日に自民、公明、民主各党などの賛成多数で可決、成立し、電力システムの改革が本格的に進められることとなりました。この「改革」は三段階で行われ、(1)全国で電力の需給を調整する「広域系統運用機関」の設立(2)電力の小売の自由化(3)発電と送電の分離、というの手順で進められます。
まず、「広域系統運用機関」は2015年に設立予定で、地域間の電力需給調整、すなわち、余力のある地域から足りない地域へ電力を送りやすくする役割を果たします。次に、現状では大手電力会社により「地域独占」されている家庭や商店向けの電力供給について、2016年には参入が完全自由化されます。そして、最終段階として2018~2020年には、大手電力会社から「送電・配電部門」を独立させた上、発電・送電の分離が実現される見込みです。
競争促進で電力10社の「地域独占体制」は崩壊へ
すでに2000年以降、大口顧客への電力販売が自由化されており、PPS事業者(新電力)と呼ばれる「特定規模電気事業者」が、大手電力会社との間において、企業や自治体などの大口顧客の争奪戦を繰り広げています。PPS事業者の多くは「発電能力の増強」を武器に大手電力会社に攻勢をかけていますが、他方で、発電施設を持たずに電力を「転売」する形で参入する事業者もあって「電力の自由化」は多様な形で進んでいます。
一方、大手電力会社は、これまで「地域独占」が許されてきた家庭や商店向けの電力小売が、2016年には完全自由化されることを見据え、自社の「独占地域」を超えて他社のテリトリーへの「越境販売」を開始する動きを見せています。たとえば、中部電力と関西電力は、すでに首都圏で電力小売に乗り出すことを公表しています。東京電力よりも割安に価格設定する見通しで、これにより電力10社の「地域独占体制」は崩れることになるでしょう。
「発送電の分離」なくして「電力の完全自由化」はない
このような形で、大手電力会社やPPS事業者などの競争が厳しくなれば、電気料金が安くなる見込みが高く、消費者にとっては大きなメリットになりそうです。ただし、最後の砦となるのは「発送電の分離」です。
大手電力会社から「送電・配電部門」を独立させ、「発送電の分離」を実現させるためには、新たな法案を提出する必要があります。大手電力会社にとって「発送電の分離」は経営に直接的な影響を及ぼす大問題ですので、反発が極めて強いところです。今回の電気事業法改正案においても2018~2020年などと幅を持たせているのは、そのあたりの事情を踏まえてのことでしょう。
最終的に「発送電の分離」が実施されなければ、「電力の完全自由化」は望めません。東日本大震災の直後、一部のPPS事業者は十分な供給電力を持っていましたが、東京電力の都合でPPS事業者と契約していた大口顧客までもが「計画停電」に巻き込まれた事実を忘れてはならないのです。
職人かたぎの法律のプロ
藤本尚道さん(「藤本尚道法律事務所」)
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