TPP、重要5項目の関税撤廃で食費はどう変わる?
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高い輸入関税率に起因する農産品の内外価格差が家計を圧迫
一般に、エンゲル係数が高いほど生活水準は低いとされています。総務省の家計調査によれば、2011年度のエンゲル係数は23.7%でした。主要先進国の中ではスペインやイタリア並みの高さです。考えられる原因として、食料自給率の低さや高品質の食材を求める国民性が挙げられますが、高い輸入関税率等に起因する農産品の内外価格差が大きく影響していることは否定できません。
関税撤廃で、コメは2分の1程度、国産牛は7%弱の価格下落
どの程度、価格差があるのでしょうか?「聖域」とされる重要5項目のうち、コメを例に見てみます。コメの主要輸入先は米国とタイで、全体の9割を占めています。米国の生産コストは日本の6分の1に過ぎません。品質はどうでしょうか?カリフォルニア産やオーストラリア産などは、品種改良を進めた結果、国産米と比べても遜色がない出来栄えといわれています。このため日本政府は、778%もの高率関税を賦課し、水際で流入を阻止しています。この代償として年間77万トンのミニマムアクセス米(最低限、買付ねばならない外国産米)の輸入を余儀なくされており、この財政負担が年間200億円を超えるとも指摘されています。
環太平洋経済連携協定(TPP)の原則通りに、コメの関税を撤廃したらどうなるでしょうか?内閣官房・農水省が影響度の試算を出していますので、これを参考にします。日本人にはコメに対する独特の宗教観があります。また、ブランド米への根強い人気があるため、生産量の減少は全体の3分の1程度に止まるとの予測です。国産米への価格面での影響ですが、全銘柄平均価格と米国・豪州産価格の差異の2分の1(125円/kg)程度の下落を余儀なくされるだろうと見ています。
コメに次いで影響が大きい牛肉はどうでしょうか?主要輸入先はオーストラリアと米国です。生産コストは国産の3分の1程度で、現行関税率は38.5%です。生産量の4分の1を占める肉質4・5等級の高級国産牛はほとんど影響を受けず、3等級以下の国産牛の大部分が外国牛に置き換わるとの予測です。高級国産牛については、7%弱(195円/kg)の価格下落を余儀なくされるだろうと見ています。
年間24,000円の家計負担減。消費税3.4%の引き下げに相当
次に消費者側から見た家計への影響についてですが、日本経済研究センターが最近発表した「農業保護はどの程度家計負担を増やしているか」と題する論文を参考にします。この論文は、TPPに参加すれば農業生産が打撃を受ける、乗り遅れれば輸出産業が機会損失を被るといったサプライヤー(供給者)サイドの損得議論ではなく、農業保護政策による農産品価格維持で消費者が不利益を被っていること、農産品輸入自由化は低所得者に対する所得分配の逆進性軽減にも有用であるとの視点で書かれています。
重要5項目を含む主要6品目(精米・小麦粉・製糖・牛枝肉・豚枝肉・乳製品)に係る価格押し上げ率を、食材として割高な購入を強いられる「直接効果」と、これらを使用した加工食品・外食・中食等のコスト転嫁による「間接効果」に分類し、これを可処分所得別の個票に反映して家計負担を計測する手法を採っています。これによると、1人当りの月間負担額は直接効果が1,432円、間接効果が571円となります。年間約24,000円が、主要6品目の関税撤廃による家計へのメリットになりますが、これは消費税3.4%の引き下げに相当します。安倍内閣が懸念する消費増税による景気腰折れ対策としても有効でしょう。
老後に備えた資産形成や不動産活用を顧客目線で考える税理士
松浦章彦さん(<Office MⅡ>松浦章彦税理士事務所)
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