秘密保護法案、国民の「知る権利」は本当に守られる?
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「知る権利」に配慮も抽象的な「訓示規定」に過ぎない
政府が閣議決定した「特定秘密保護法案」は、当初の原案に比べ、いくつか変更が加えられましたが、従来から指摘されていた問題点については根本的な見直しはされていません。
とりわけ、私たちの暮らしに大きな影響を与えると思われるのは、「知る権利」の問題です。法案には、「国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない」との規定が加わりましたが、これは抽象的な「訓示規定」に過ぎません。これによって「報道又は取材の自由」が保障されると考えるのは、いささか早計です。
いかなる取材活動も、逮捕・刑事訴追に直結する恐れがある
法案では、「出版又は報道の業務に従事する者」の取材行為について「専ら公益を図る目的」で、かつ、「法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限り」これを正当業務行為として認めることとしています。しかし、「公益目的」という要件は、いかようにも解釈が可能ですし、「著しく不当な方法」という文言が具体的に何を指すのか、事前に予測することは困難な上、捜査側の恣意的な解釈もできます。つまり、取材を行う側は常に逮捕・刑事訴追の可能性を考えながら活動せねばならず、そのために生じる「萎縮効果」は半端なものではないでしょう。
また、一般市民は言うに及ばず、市民運動家、市民ジャーナリストなどは、「出版又は報道の業務」に従事する者ではありませんから、たとえ「公益目的」で「不当でない方法」による取材活動を行った場合でも、正当業務行為としての保護は受けられません。一般市民にとっては、いかなる取材活動も逮捕・刑事訴追に直結する恐れがある、という点を十分に注意する必要があります。
特定秘密を覗くと容赦のない刑事罰。旧時代への逆行が懸念される
他方、罰則が大幅に強化されることから、公務員側から取材側に対する情報提供について、必要以上に強いブレーキが掛かると予測されます。思えば、「個人情報保護法」が施行されて以降、法律の規定する「枠」を大きく超え、何もかも「個人情報だから」という「理屈」が付けられ、情報公開されない弊害が嵐のように巻き起こりました。
これと同様に、「特定秘密」とは全く関係のない事項にまで「鉄のカーテン」が引かれてしまうことが起こり得ます。そして、私たち市民・国民が、国の引いた「鉄のカーテン」の向こう側を覗こうとすると、容赦のない刑事罰が待っているのです。「よらしむべし、知らしむべからず」という旧時代への逆行が懸念されます。
職人かたぎの法律のプロ
藤本尚道さん(「藤本尚道法律事務所」)
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