岩波書店の応募条件、コネ採用の明示は法的にOK?
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「著者の紹介状あるいは社員の紹介」を応募条件に
2015年の新規採用に向けて、企業は動き始めています。多くの企業は、能力のある有益な人材を発掘し、なおかつ効率的に採用できるための工夫を凝らしています。企業の顔ともいえるホームページには、社長や先輩社員の声を動画で見せるなどの採用専門のページをよく目にするようになりました。
このような状況の中、大手出版社の岩波書店の2013年度の社員募集要項が大きな波紋を呼びました。
問題となったのは、2013年度定期採用の応募条件として「岩波書店から出版した著者の紹介状あるいは社員の紹介があること」を掲げ、事実上、縁故採用に限る方針を示したことによるものです。ネット上で賛否両論あり、岩波書店は世論から批判を受け「あくまで応募の際の条件であり、採用の判断基準ではありません」と説明しました。また、紹介状保持者に限った理由を「出版不況もあり、採用にかける時間や費用を削減するため」とし、入社希望者には「自ら縁故を見つけてほしい」としていました。
法律に抵触しなければ、どのような条件で雇用するかは事業主の自由
企業には「採用の自由」があります。募集や採用に関わる法律として「男女雇用機会均等法」や「雇用対策法」「障害者雇用促進法」がありますが、これらの法律では男女の違いや年齢で制限をかけて、公平な機会を奪うことを禁じています。しかし、こうした法律に抵触しなければ、どのような者をどのような条件で雇用するかは事業主の自由というのが法律上の原則です。
一方、ひとたび雇用すると解雇は非常に難しく「解雇の不自由」があるといえます。解雇するには「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当」が求められるため、解雇理由を巡って大きなトラブルに発展することもあります。よって、不要なトラブルを防ぎ、企業のニーズにマッチした人材を雇用するためには採用基準が非常に重要です。
縁故採用は、法律上は問題ない
縁故採用というと社会的イメージが良くありませんが、年齢や性別で基準を設けていないため、法律上は問題ありません。今回、批判をされたのは、「縁故者からの紹介状」という限られた応募条件が、不公平な採用として認識されてしまったことにあります。
企業は限られた予算の中から様々な採用戦略を練らなければなりませんが、誤解を招くような表現にならないように配慮することで、より有益な人材を採用することにつながるのではないでしょうか。
企業防衛型の就業規則作成のプロ
田中靖浩さん(牧江・田中社会保険労務士法人)
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