脱法ハウスは生活保護対象外?
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狭すぎる住居に生活保護の支給を認めない決定
大阪市西成区で今年6月、男性3人が生活保護費受給を申請する際、簡易宿泊所を改装したカプセルホテルのような1.5畳の部屋を居住用アパートと申告したのに対し、市が「狭すぎて危険がある」として支給を認めない決定をしていたとの報道がされています。
同アパートは、高さ約1.7メートルの部屋が上下2列に棚状に約10室ずつ並ぶ構造で、各部屋に窓があり、風呂、トイレは共同。家賃は同市の単身世帯への住宅扶助の上限額(4万2000円)に近い4万円だったとのことです。
建築基準法上の寄宿舎の基準を満たさない住居は違法な建築物
いわゆる「脱法ハウス」とは、マンションの一室やオフィス、倉庫などを改造し、細かく小分けし、区切られたスペースを実質は居住用として貸し出されているものをいい、防火態勢が不完全で、火災などの緊急時における危険性が高く、建築基準法や関連法、消防法などに違反するのではないかとの疑いが指摘されています。
今年9月、国土交通省は「事業者が入居者を募集し、自ら管理する建築物に複数人を居住させる」貸しルームは、従前用途や改修の有無にかかわらず、建築基準法の「寄宿舎」に該当するとし、「寄宿舎」の基準を適用して建築基準法上の指導を行うよう、全国の特定行政庁(都道府県及び政令指定都市)に通知しました。寄宿舎には、最低面積・換気・採光など、快適かつ衛生的な暮らしが送れることが要求され、一般の住宅や事務所より防火性能の高い間仕切り壁を設けることや各居室に窓を設けることなどが義務づけられています。「脱法ハウス」が建築基準法上の寄宿舎の基準を満たさない場合には、違法な建築物にあたることになります。
脱法ハウス居住者への支給は生活保護の趣旨に反すると判断
生活保護の受給要件には、居住不動産がどのようなものであるかという規定はありません。しかし、生活保護の趣旨は「生活に困窮する方に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、自立を助長すること」にあります。行政庁も、このような極端に劣悪な環境の下で生活を送ることに対し、生活保護の支給を行ったのでは生活保護の趣旨に反すると判断したため不許可を決定したと考えられます。
決定後、3名のうち2名が別の場所に住み、1名についてはアパートが改装されたことにより生活保護を受給決定がなされました。生活保護の趣旨に合致した支給を確保できた点で有意義な決定であったといえるでしょう。
企業法務と事業承継支援の専門家
大西隆司さん(なにわ法律事務所)
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