いじめ、学校の口止めや隠ぺいに法的責任は?
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いじめ問題、学校に刑事責任は問えない?
大津市の自殺事件以降、いじめについて法的責任を問うような相談が増えてきています。実際には、加害者が責任を負える年齢であれば傷害罪や暴行罪に該当する悪質ないじめもあります。
いじめが問題になると、どうしても学校はいじめを過小評価したり、隠ぺいしたりすることが少なくありません。このような場合、法的責任を問うことはできるのでしょうか。
まず、刑事責任について考えてみましょう。刑事罰で該当しそうなものに犯人蔵匿罪や証拠隠滅罪が挙げられます。しかし、犯人蔵匿罪の犯人とは「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」のため、少年事件の「少年」は当てはまりません。また、証拠隠滅については、そもそも少年事件は「刑事事件」ではありませんので、該当しないことの方が多そうです。
民事上の責任を認める判例も
では、民事上の責任(国公立の学校では国家賠償法1条を適用)はどうでしょうか。判例では、学校側に安全確保義務が認められるかどうかという点で結論がわかれているようです。たとえば、中野富士見中事件の控訴審判決では「公立中学校の教員には学校における教育活動及びこれに密接に関連する生活関係における生徒の安全の確保に配慮すべき義務があり、特に、他の生徒の行為により生徒の生命、身体、精神、財産等に大きな悪影響ないし危害が及ぶおそれが現にあるようなときには、そのような悪影響ないし危害の発生を未然に防ぐため、その事態に応じた適切な措置を講ずる義務がある」として法的義務を認めています。
現状、口止めや隠ぺいを行うことは、被害者の両親に正確な被害状況を報告しないことでもありますので、一般的に言えば悪影響を防ぐための適切な措置を講じていないということになりそうです。
司法、教育者、国民による全体的な議論を
しかし一方で、裁判例の中では、「すべてのいじめが違法というわけではない」というような判示を行っているものもあります。ただ、これが独り歩きしてしまうことは懸念されます。なぜなら、「このくらいのいじめならいい」というラインを解決機関である司法が認めてしまえば、いじめの助長にもつながるからです。
いじめについては、「どの時点で学校側が責任を負うのか」「どのような措置をとれば義務を果たしたといえるか」など、裁判所で統一的な判断がなされていないことがたくさんあります。いじめに関しては司法、教育者、国民による全体的な議論が望まれます。
身近な相談相手として、問題を解決できる女性弁護士
白木麗弥さん(ハミングバード法律事務所)
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