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長谷川穂積が怒り ボクサーは正当防衛適用外?

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必要最小限に限られる正当防衛。それを超えると過剰防衛に

長谷川穂積が怒り ボクサーは正当防衛適用外?

元WBC世界バンタム級・フェザー級の王者・長谷川穂積選手が、自身のブログで「後輩がいきなり多数のヤンキーに絡まれて、プロだから手を出さずに我慢してボコボコにされたらしいけど、プロボクサーは凶器だから手を出したらダメて法律はなんのため?(原文ママ)」と怒りをあらわにしています。

相手がいきなり殴りかかってきたため、やむなく反撃したような場合、通常は「正当防衛」が成立するとされています。「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」というのが刑法規定(第36条)だからです。

ただし、喧嘩の場合は原則として「正当防衛」は成立しません。あくまで「喧嘩両成敗」であり、当事者双方が暴行・傷害の容疑者して刑事処分を受けます。また、急迫不正の侵害を受けた場合に、反撃として許されるのは、自己または他人の権利を防衛するため「必要最小限のもの」に限られます。防衛の程度(相当性)を超えてしまえば「過剰防衛」となり、情状により刑が減軽されたり免除されたりすることはあっても、あくまで有罪です。「過剰防衛」の典型例は、素手による攻撃に対し刃物で反撃した場合や、相手の攻撃が止んだのに反撃を続けた場合などです。

「拳での反撃」が防衛の「相当性」を備えているかどうか

プロボクサーの場合は「拳が凶器」と言われる通り、常に「武器」を携帯しているのと同じです。そのため、防衛の「相当性」の点でハードルが高くなりますが、絶対に正当防衛が成立しないわけではありません。たとえば、相手が刃物で攻撃してきた場合や、多人数による攻撃を受けた場合には、「武器対等」の状況になりうるため、「拳での反撃」も「相当性」を具備するのです。つまり、防衛のため「必要最小限のもの」かどうか、だけが問題であって、「プロボクサーだから手を出してはいけない」ということではありません。

随分と昔の話ですが、元プロボクサーでタレントのガッツ石松さんが、8人もの酔漢に襲われた実弟を救うため駆けつけたところ、警察官まで巻き込まれる乱闘に発展したため、やむなく8人をノックアウトしたという「伝説」があります。このとき、ガッツさんは一旦は現行犯逮捕されますが、後に「正当防衛」が認められ釈放されています。これは、ガッツさんに助けられる結果となった警察官の証言に負うところが大きかったようです。

「正当防衛」という言葉は日常会話で使われるほどポピュラーですが、「正当防衛」の成立が認められた事例は必ずしも多くはありません。いずれにせよ、いったん警察に逮捕されてから、あるいは検察官に送致されてから判断されることになります。その意味でのリスクが大きいことだけは、十分にご留意いただきたいところです。

職人かたぎの法律のプロ

藤本尚道さん(「藤本尚道法律事務所」)

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