パワハラに関する相談が急増中。労働者から訴えられないための企業ができる予防策
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「パワハラ」とは
時代の変遷と共に日本のビジネススタイルも大きく変化しました。派遣労働者などの非正規社員の増加や、終身雇用制度の終焉など雇用形態も多様化しています。そのような労働環境の変化の中、「ハラスメント」という言葉が一般的に使われるようになりました。
「ハラスメント」という言葉の意味は、「いじめ」「嫌がらせ」といったことを指します。職場においては「セクハラ」という言葉が有名ですが、近年急速に問題化しているのが「パワハラ」です。「パワハラ」とは、「パワー・ハラスメント」の略称で、「上司等の職務上上位の者が、職場内での立場・権限を悪用して、部下や同僚に権力(パワー)を使い、人権を侵害する言動・行為といった職務とは関係のない嫌がらせを繰り返し、精神的苦痛を与えること」と定義されています。「パワハラ」は、上司から部下への行為だけではなく、先輩から後輩、または同僚同士などで行われていることもよくあります。このような「パワハラ」が職場内で行われれば、その被害を受けた者が精神的苦痛により「うつ病」になったり、最悪の場合、思い詰めて自らの命を絶ってしまうなどの深刻な問題に発展するおそれがあります。
「パワハラ」と会社の責任
会社は従業員に対して「教育」「指導」を行う義務があります。この「教育」「指導」が行き過ぎたり、意図的に労働者の立場をおとしめるような「指導」を行ったりすると「パワハラ」に該当する事になりますが、「指導」「教育」と「パワハラ」との境界線は非常に微妙な問題であり、「パワハラ」行為の内容や程度、頻度、被害者に与える影響などを総合的に判断しなければなりません。また、「パワハラ」行為自身を規制する法律も今のところ制定されてはいませんが、「パワハラ」によって被害者に損害が生じ、裁判になった場合は次のような法律上の責任が問われることになります。
「パワハラ」の行為者→民法上の不法行為に基づく損害賠償責任を負う
・民法709条(不法行為による損害賠償)
・民法710条(財産以外の損害賠償)
※被害者にケガを負わせた場合→刑法の傷害罪などに該当
・民法715条(使用者等の責任)
「使用者」の責任→「パワハラ」が業務に起因している場合、使用者も不法行為に基づく損害賠償責任を負う
・民法415条(債務不履行による損害賠償)
「パワハラ」行為を認識していたにもかかわらず、防止措置を行わなかった場合、使用者は雇用契約に基づく安全配慮義務違反により債務不履行責任を負う
つまり、「パワハラ」行為として訴えられた場合、加害者だけではなく、会社の管理責任についても問われることになりますので、巨額の損害賠償金を支払わなければならない可能性が大きくなります。
どんな行為が「パワハラ」となるのか?
それでは、どんな行為が「パワハラ」とみなされる可能性があるのか具体的な事例を挙げてみましょう。
・難しい仕事や初めて経験する仕事にもかかわらず「こんな簡単な仕事もできないのか。おまえのような無能な者はいつでもクビにできるぞ」と高圧的な態度をとる。
・ちょっとしたミスでも「お前の代わりはいくらでもいる。」などと叱責したり、威嚇した態度をとる。
・あいさつや仕事に関する話しかけに対しても無視する。
・話しかけても聞こえないふりをしたり、電話の伝言や必要な情報をその者だけに伝えない。
・ストレス解消としてプロレス技をかけたり、暴力をふるう。
・その者だけに雑用や極端に過重な業務を強要する。
・「能力がない」「目障り」「気持ち悪い」「アホ」「バカ」「死ね」などと人格を否定する言動を発する。
・周囲の面前で「いつまでたっても、何もできないやつだな」「無能なやつはいらな?い」等と言い捨てる。
・目の前にいるのにもかかわらず、常にメールでのみ指示を出す。
・パソコンのデータを無断で消去したり、持ち物を隠すなどの嫌がらせを行う。
・社内メールで悪口やプライベートな事項を言いふらす。
パワハラによるうつ病と労災
従業員がうつ病などのメンタルヘルス不調を訴えた場合、その原因が「パワハラ」であると認められれば労災認定される可能性が高くなります。労働基準監督署がメンタルヘルスの不調を労災として認定した場合、会社としては次の点について注意しなければなりません。
・労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間は解雇できない。
・会社の安全配慮義務違反が問われた場合、民事上の損害賠償責任が生じる可能性がある。
会社としての「パワハラ」対策
「パワハラ」行為に対して、会社のとるべき対応策について考えてみましょう。 「パワハラ」があった場合、被害が大きくならないように早期解決を図らなければなりません。ですが、「パワハラ」は上司から部下へ行われるケースが多いため、被害者は誰に相談していいかわからないということが大いに考えられます。
この場合の対策としては会社に「苦情相談窓口」を設置し、相談に対応できる適切な人材を選任することにより、当事者への事実確認がスムーズに行え、「パワハラ」の原因を究明することができます。また、トラブルを未然に防ぐためには「パワハラ」に対する、正しい知識を得て、「管理職者」等への教育体制を整えることも必要です。世代によって、育ってきた環境も大きく異なりますので、上司と部下の考え方や価値観のギャップを埋めるためには、管理職者は柔軟な対応力を持つことが重要となるでしょう。
そして何よりも、事業主が率先してパワハラを撲滅させるという明確な意思表示を従業員に示していくことが大切であると言えます。
パワハラの予防策
・就業規則等で、「パワハラ」防止と加害者に対する処分内容について明確に規定化する。
・「パワハラ」の相談窓口を社内に設け、「専門相談員」を配置するなど相談しやすい体制を整える。
・事業主が率先して「パワハラ」防止宣言を行う。
・「パワハラ撲滅」のポスターを事業所内に貼り付け、従業員の意識を高める。
・定期的に管理職者に対する教育・研修を行い、部下の指導方法や教育方法などを検証する。
・過度な被害者意識をもたないように、外部講師による研修などを行い、正確な知識を身につけさせる。
・従業員間の意見交流会を実施したり、事業所内のコミュニケーションを高める。
・社労士や産業医、産業カウンセラーなど専門家の意見を聞く体制をとる。
企業防衛型の就業規則作成のプロ
田中靖浩さん(牧江・田中社会保険労務士法人)
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