銀行の認知症対応が柔軟に 家族が認知症になったら預貯金は引き出せる?お金の管理はどうすればいい?
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高齢化が進む中、認知症の人が増えています。厚生労働省によると、2025年に65歳以上の約5人に1人の約700万人が認知症になると見込まれています(厚労省「認知症施策の総合的な推進について」、2019年6月※)。
家族が認知症になると、医療費や介護費など、お金のことも大きな問題となります。本人の認知能力が低下したと判断すると、財産を守るために取引をストップする銀行が多く、預金を引き出したい親族とトラブルになるケースも増えているようです。改善をめざし、2月に全国銀行協会が認知症対応について新たな指針をまとめ、大手銀行も認知症患者に向けた新たなサービスを3月から始めます。認知症に備え、家族が考えておきたいお金の対策を司法書士の池内宏征さんに聞きました。
医療費などの振り込みが認められる可能性はあるが、認知判断能力が低下した後は「成年後見制度」の利用が原則。元気なうちに、本人の意向を尊重できる選択肢を知っておく
Q: 全国銀行協会から出された新たな指針はどのような内容ですか?
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本人の認知判断能力が低下した後、親族から預金の引き出しを求められた場合の取り扱いについて方向性をまとめたものです。あくまで、「成年後見制度」を求める原則はこれまで通りで、各銀行の運用が劇的に変わるものではありません。
今回の指針では、次の①②を確認できれば、限定的に代理の親族による引き出しに応じることもあるとしました。
①本人との面談や診断書の提出などで、認知判断能力の喪失を判断する
②医療費など本人の利益に沿う支払いかどうかを確認する
この場合も、本人の口座から病院や介護施設に直接振り込むなど、現金が親族を直接経由しない方法が検討されるでしょう。
現在、本人の認知判断能力がある場合は、本人が作成した委任状と、通帳、印鑑があれば、代理の親族が窓口で引き出すことができます。あわせてその場で本人に電話をして、意思確認を行う銀行が多いようです。
一方、本人の認知判断能力がない場合は、預金は凍結され、銀行は親族に対して「成年後見制度」の利用を促すしか選択肢がありませんでした。今回、限定的とはいえ、新たな選択肢が提示されたことは、銀行の認知症対応が一歩進んだと評価できるのではないでしょうか。
Q:3月からスタートする大手銀行のサービスとはどのようなものですか。ほかに、認知症高齢者に対応したサービスはありますか?
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三菱UFJ銀行などが3月22日から開始する「予約型代理人サービス」は、本人の判断能力があるうちに、預金の入出金、株などの売却・解約について、あらかじめ代理人(原則は配偶者か二親等以内の血族)を指定できます。
将来、判断能力が低下した証明として診断書を提出すると、代理人による取引がスタートします。預金の入出金について、代理人をあらかじめ指名しておけるサービスは、数年前から登場し、徐々に普及しつつあります。今後も同様のサービスが広がる可能性は高いと思われます。
また、近年、加齢が金融に与える影響を分析する学問分野「金融ジェロントロジー」をもとに、認知症と金融を考える動きも注目されています。
報道によると、認知症対応などにかかわる、新たな資格「銀行ジェロントロジスト」(日本意思決定支援推進機構・金融財政事情研究会)などの認定試験を取り入れ、行員に取得を促す金融機関も出ているようです。認知症患者の増加に伴い、各銀行が認知症対応にますます積極的に取り組むようになってきていると感じます。
Q:現在、認知症になった本人の預金を家族が引き出したい場合にはどうすればいいのですか?
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本人の認知判断能力が不十分という診断書が出された場合、財産の管理、契約の締結など法律行為が一切できなくなります。
本人に代わり国が保護する制度が、「成年後見制度」です。未成年者に対する親権者のような「法定代理人」として、20歳以上に対しては「成年後見人」が選ばれます。後見人の職務は、財産管理に加え、入退院の手続きや、携帯電話の契約など、日常的な契約を行う「身上監護(しんじょうかんご)」も含まれます。
後見人を選ぶのは、家庭裁判所の裁判官です。現状では、後見人の約7割が司法書士や弁護士など法律の専門家が担っています。
本人が亡くなるまで、成年後見人に対して、月額3万円~5万円の報酬が発生します。一定額を超える支出や収入は、家庭裁判所に事前に相談し、定期的に報告する義務もあります。金銭的な負担や手続きのわずらわしさから、利用者数は平成30年12月末時点で約22万人※と、利用が進んでいるとは言い難いものとなっています。
<参考>厚生労働省「成年後見制度の現状」(平成30年)
Q:認知症になる前に、将来の資産管理について備える方法はありますか?
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「任意後見契約」と「家族信託」という、2つの方法があります。
まず、「任意後見契約」は、前述の「成年後見制度」に類するもので、自分の認知判断能力があるうちに、将来、認知判断能力が低下した場合に、「この人に後見人になってほしい」と予約しておくものです。
例えば「長男に財産の管理をしてほしい」などと、あらかじめ公正証書で契約を結んでおくと、長男が「任意後見人」となります。本人の判断能力がなくなった後に、任意後見人が家庭裁判所に申し立てを行い、任意後見人による管理が開始されます。
成年後見制度では、本人の認知判断能力が低下した後で始まるため、「誰に・どのような管理」を依頼するか、本人の意思表示ができません。
一方、「任意後見契約」では、後見人の指名だけでなく、「これをしてほしい・してほしくない」などと、内容も指定できるため、本人の意向が尊重されやすいと言えます。また、居住用不動産を売却する場合も、家庭裁判所の許可を得ずに進められるなど、成年後見制度と比べて柔軟に対応しやすい部分もあります。
デメリットとしては、成年後見制度と同じく、家庭裁判所への定期的な報告が義務付けられるほか、業務開始と同時に「任意後見監督人」が家庭裁判所により選出されます。任意後見監督人も、弁護士や司法書士などの第三者が選ばれることが多いため、月額1万円~1万5000円の報酬が発生します。
Q:認知症の資産管理対策のもう一つの方法である「家族信託」について教えてください。
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「信託」といっても金融商品ではなく、公正証書として作成します。
任意後見契約と同じく、本人の判断能力があるうちから、親族など希望する相手に、財産の管理・運用・処分をする権利を託す契約を結びます。「本人=委託者」「託された人=受託者」となり、例えば、預金の管理を託された場合、受託者が銀行から引き出し、委託者(本人)に給付します。「財産から利益を得る人=受益者」は本人(委託者)が決めることができ、本人やその配偶者などが受益者になることがありますが、本人以外の場合も生前贈与とは異なります。
任せる財産は、すべてか一部かを選ぶことができ、預貯金の管理や不動産の売買などが含まれます。例えば、相続対策として所有しているマンションがあり、大規模修繕などでまとまった金額を動かす必要がある場合などでも、受託者の判断でスムーズに行うことができます。
成年後見人制度や任意後見契約と異なるのは、家庭裁判所への報告や、第三者の監督者をたてる義務が課されない点です。受託者は大きな権限を持つため、失敗や不正は、本人の利益を損なう可能性があります。そのため、信頼して財産を託すことができる家族がいるかどうかが重要です。
Q:認知症患者を介護する家族からは銀行に対してもっと柔軟な対応を求める声は多くあります。今回の指針がきっかけとなり、これから便利になるのでしょうか。
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認知症患者は2025年に約700万人に増えるといわれ、その金融資産額は、2030年に215兆円にも上るという試算(第一生命経済研究所、2018年※)もあります。金融機関において認知症の対応は、避けては通れない重要な課題となっており、今後、各銀行から新たなサービスが打ち出されるでしょう。
何よりも期待されるのは、資産を所有する本人にとって、使い勝手がよくなることです。全国銀行協会の指針では、銀行が自治体や地域の福祉機関との連携を強化することも求め、相談しやすい環境を整えることも盛り込んでいます。
今回の指針は、介護する家族の実情をくんだ内容と言えますが、法的な代理権のない親族に、一定の条件や手続きを求めるというルールは、本人の財産を守るために今後も変えようがなく、介護する家族側の利便性のみを追求することは難しいでしょう。
各銀行のサービスは、全国一律ではなく個別に検討されるため、利用する金融機関では、「どの範囲までの引き出しが可能なのか」「手続きのために必要な書類は何か」など、普段からこまめに確認しておきましょう。その上で、家族が元気なうちに、万が一に備えたお金の管理について話し合えるといいですね。
次世代に負担ない相続対策「家族信託」の専門家
池内宏征さん(司法書士法人リーガルエスコート 行政書士事務所リーガルエスコート)
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