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通勤定期代の支給を廃止、実費精算へ。社会保険料への影響も?テレワーク時の在宅勤務手当はどうなる?

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ビジネス

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、在宅勤務などのテレワークが普及し、通勤定期代の支給を廃止する企業が増えています。すでに一部の企業で実施されていますが、2020年10月からはホンダ、全日本空輸などの多くの企業が、社員への通勤定期券代支給を取りやめ、実費精算への切り替えを予定しています。

実費精算に切り替わることにより、企業側はコストカットが見込める一方で、社会保険料への影響や在宅勤務時に発生する経費の扱いなど、労働者にとって気になる点もあります。通勤手当をはじめ、テレワークにかかわる費用負担について、社会保険労務士の仲原一衛さんに聞きました。

新たにテレワークを実施する場合、業務に伴う費用負担については企業側が明確なルールをつくり、従業員に対し丁寧な説明を行うことが求められる

Q:多くの企業で当たり前のように支給されていた「通勤定期代」ですが、労働基準法では通勤手当についてどのように定められているのでしょうか? また、テレワークに移行した場合、企業側がすぐに実費精算に切り替えることは問題ないのでしょうか。
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労働基準法には通勤手当の支給義務に関する規定はありません。そのため、企業側は通勤費を支給する義務はないのですが、現実には多くの会社が、いわば福利厚生の一環として就業規則などにルールを定め、通勤手当を支給しています。

このとき、就業規則にあらかじめ「通勤日数や実態に応じて支給する」と規定されている場合は、勤務形態に応じて実費精算に切り替えても問題ありませんが、多くの企業では、就業規則や給与規程、雇用契約書等に「通勤費として通勤定期代相当額を支給する」といった文言が記載されており、この場合は、就業規則等の改訂が必要で、会社が一方的に不支給にしたり減額したりすることはできません。

例えば、「1カ月のうち通勤を要しない勤務が〇日以上ある場合は、通勤費を定期代相当では支給せず、実際に通勤のために生じた交通費実費を支給する」といった規定を新たに定める必要があります。

Q:実費精算に切り替わり、通勤手当の支給額が変わると、社会保険料などにも影響するといわれますが、具体的にどのような影響があるのでしょうか?
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通勤手当は、社会保険料(健康保険・厚生年金保険・介護保険)および雇用保険料の計算に含まれます。そのため、通勤手当が減額されると、社会保険料や雇用保険料が減額されることもあります。実際には、1~3万円程度ごとに区分された標準報酬月額の等級が変わらなければ社会保険料は変わりませんが(雇用保険料などを除く)、例えば、オフィスに全く出勤せず、通勤手当が0円になる場合や、遠方から通勤していて通勤手当が高額の方などは影響が出るかもしれませんね。

Q:そもそも、社会保険料は、毎月所得からどれくらい天引きされているのでしょうか?
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社会保険料は、保険の種類によって負担額・負担率は異なり、なかには企業側が多く負担する保険もあるため、厳密に言えば完全な折半ではありませんが、おおよそ企業と従業員で半分ずつ負担します。額の目安としては、月額給与のおおよそ16%程度でしょうか。

Q:通勤手当が減額されると、毎月の社会保険料も減額されるのですね。
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そういうことになります。

天引きされる社会保険料が減額されるのは、手取りが増えるのでありがたいかもしれません。ただし、健康保険料は掛け捨てとなりますが、厚生年金保険料は将来の年金額に反映します。

具体的には会社員の期間(厚生年金保険に加入していた期間)の、月収(通勤手当分を含む)と賞与を合計した平均額をもとに厚生年金の金額が決定します。したがって、通勤手当が減ると、将来の年金額が減る可能性もあるということになります。

Q:社会保険料のほかに、何か影響することはありますか?
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影響は限定的かもしれませんが、このほか、通勤手当は平均賃金算定の基礎に含まれます。平均賃金とは、労働基準法等で定められている手当や補償、減給制裁の制限額を算定するときなどの基準となる金額です。

今年はコロナウイルス感染拡大で、休業を余儀なくされている会社も多数あります。このときに休業を命じた従業員に支払う「休業手当」の算出もこの平均賃金を使います。

Q:所得税など税金への影響もあるのでしょうか?
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通勤手当は基本的に実費補填として支給されるため、課税対象外です。公共交通機関を利用する場合、月額15万円以下の通勤費は非課税扱いとなり、所得税の計算においては基本的に除外されます。これは実費精算に代わっても同じです。

なお、テレワークを導入した場合、企業側が気を付けなければいけないのは、通勤の実態がない従業員に対し、通勤費として通勤定期代を支給している場合です。

非課税の前提は、会社に通勤することで発生する通勤費実費の補填であり、実際に利用していない通勤費を手当として支給した場合、この前提が崩れてしまいます。今後、テレワークを恒常的な勤務形態とする場合は、通勤費の支給方法に留意する必要があるでしょう。

Q:企業側は通勤手当の削減が見込める一方、従業員側は在宅勤務にともない通信費・光熱費などの負担が増える傾向にあります。これらの費用負担はどうなるのでしょうか?従業員は会社に請求することはできるのでしょうか。
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会社は、テレワークに関わる費用負担について、導入前に明確なルールをつくり、従業員に対して丁寧に説明することが必要です。

労働基準法で「労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項を就業規則に定めなければならない」(労働基準法第89条第1項5号)と規定されており、記載がない場合は就業規則の変更をしなければなりません。(10人未満の会社では、労使協定や労働条件明示書による説明が必要)

最近では、通勤定期代の削減分を原資とし、従業員に「在宅勤務手当」として一律金額を支給する企業が増えています。定期代とのバランスを勘案し「週3日以上在宅勤務の場合に支給」などの区切りを設けているケースもあります。

細かい費用負担に関しては、どの範囲まで支給が認められるかは各企業の規定によりますが、一例として下記のような対応をとるケースが多いようです。

【通信機器購入、通信回線工事などの費用】
新たに通信機器が必要となった場合や、回線工事が必要になった場合は、会社側が費用を負担することが多いです。ポケットWi-Fiなどが支給されることもあります。

【携帯電話・パソコン通信費】
個人の携帯電話・パソコンを使用する場合、プライベートでの使用分と業務使用分との切り分けが難しく、「在宅勤務手当」として一律の金額を支給されるケースが多く見られます。

【文具、備品、宅配便等の費用】
テレワーカーが文具消耗品の購入や宅配便料金を一時立て替えることが多いようですので、この際の精算方法等もルール化しておくことが必要となります。

【水道光熱費】
自宅での滞在時間が増え、実際に負担が生じますが、こちらも業務とプライベートの費用按分が難しいため、「在宅勤務手当」として一律金額を支給されるケースが見受けられます。

Q:テレワーク化の動きは今後も加速することが予想されます。企業側は、通勤手当や在宅勤務手当など、テレワークに関わる費用負担について、就業規則の見直しをどのように進めていけば良いでしょうか?
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まずは自社でテレワークを実施するにあたり発生する費用(「通信機器の整備等の導入コスト」と「通信費・光熱費等のランニングコスト」)、削減される費用(通勤定期代等)について整理することが大切です。その上で、支給方法、精算方法について検討・ルール化し、規定に落とし込む必要があります。

具体的には、テレワーク導入に際して、就業規則本体の変更、もしくは付則としてテレワーク勤務規程を新規に作成し(一般的には、別規程とする会社が多いようです)、テレワークに関する諸規定を定める必要があります。(注:従業員が10人未満の会社ではそもそも就業規則を作成する義務はありませんが、円滑にテレワークを実施していくためには、同様のルールづくりが求められます)

なお、いずれの場合も、管轄の労働基準監督署に届出義務と従業員への周知義務がありますので、忘れずに行いましょう。

ハラスメント対策、労務トラブル対応に強い社会保険労務士

仲原一衛さん(社労士事務所 仲原人事労務・採用研究所)

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