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リツイートしただけで権利侵害に? ツイッター投稿画像の自動トリミングを巡る判決が話題に。今後ユーザが気を付けるべき点とは

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法律関連

気に入った投稿をリツイートしただけで、権利侵害を問われる可能性も―?ツイッターのタイムライン上で発生する「画像の自動トリミング」を巡る判決が、ネットユーザの間で注目されています。

原告は、北海道在住の写真家の男性。自身のサイトに掲載していた写真をツイッターに無断投稿・リツイートされ、ユーザを特定するために発信者情報の開示を求め、米ツイッター社を提訴。7月21日、最高裁第3小法廷は、画像がトリミングされ、著作者のクレジットが非表示となったことは、著作者人格権侵害に当たるとの判断を示し、発信者情報(メールアドレス)の開示をツイッター社に命じました。今回の判決の争点と、今後ユーザが気をつけるべきポイントついて、知的財産権とIT分野に精通する、弁護士の内田誠さんに聞きました。

<参考> 最高裁判決文

今回、権利侵害と判断されたポイントは「無断転載画像」のリツイートであったこと。ユーザは今後、情報の出所に十分な注意が必要

Q:今回の判決は、画像の無断投稿者だけでなく、リツイートしたユーザも法的責任が問われるものとして注目されています。どのような点が権利侵害であると認められたのでしょうか?
--------
前提として、今回の裁判は著作権侵害に基づく損害賠償請求事件ではなく、リツイートした者のメールアドレスの開示を求める「発信者情報開示請求」に関する訴訟です。判例の射程を理解するうえで、事実関係を簡単に整理すると以下のようになります。

・原告(被上告人):著作権等を有する写真画像を自らのHPにアップロード/氏名表示あり
・元ツイート者(アカウント2):原告のHPから取得した写真画像を、原告に無断で複製し、その写真画像を掲載したツイートを投稿/指名表示(ツイートに表示される画像には)なし(※1)
・リツイート者(アカウント3〜5):元ツイート者のツイートをリツイート/氏名表示なし

※1:最高裁判例の戸倉補足意見の中で、元ツイート者のツイートに掲載された写真画像にも氏名表示がされていないと述べられているが、より正確に述べると、原告が著作権を有する元画像(氏名表示あり)がアカウント2の画像保存用のウェブページに保存されるものの、アカウント2のタイムラインに表示されるツイートに表示される写真画像は、氏名表示がないものであるという趣旨である。

このような事実関係の中で、最高裁判所は、アカウント3ないし5の利用者によるリツイート行為は、著作者である原告の氏名表示権(著作権法19条1項)を侵害するものとして、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、アカウント3ないし5のメールアドレスの開示を認める旨の判断を行いました。

最高裁の判決では、原告がHPにアップロードした写真画像に表示されていた著作者名の表示部分が、リツイートによって表示される写真画像には表示されていないことを理由にして、リツイート者がその写真画像の著作者である原告の氏名表示権を侵害したという判断を示しています。

ただし、この判決を理解するにあたり、以下の2つのポイントを理解する必要があります。

<1点目>
あくまで、元ツイート者が著作権者に無断で複製した写真画像を掲載して行ったツイートをリツイートした事案において、リツイート者に著作者人格権の1つである氏名表示権侵害が成立するか否かという点に関する判断であり、著作者自らが写真画像を掲載したツイートをリツイートした事件に関する判断ではないという点。

<2点目>
この事件はプロバイダ責任制限法4条1項に基づく発信者情報開示請求に関する事件における判断であり、著作者人格権侵害に基づく損害賠償請求に関する判断ではないという点。

Q.著作者や著作権者が自ら写真画像を掲載して行ったツイートを、リツイートしたときに、自動的に行われるトリミングで著作者名の表示が消えてしまった場合でも、リツイート者は氏名表示権を侵害したことになるのでしょうか?
--------
この質問は上記の1点目のポイントに関係します。今回の判例は、元ツイート者が著作権者に無断で複製した写真画像を掲載して行ったツイートをリツイートした事案に関する判断であるため、ご質問のケース、つまり、著作者や著作権者が自ら写真画像を掲載して行ったツイートを、リツイートしたケースには今回の判例の射程は及びません。

さらに申し上げると、ツイッターのサービス利用規約には以下の記載があります。

ユーザは、本サービス上にまたは本サービスを介してコンテンツを送信、投稿または表示することによって、当社が、既知のものか今後開発されるものかを問わず、あらゆる媒体または配信方法を使ってかかるコンテンツを使用、コピー、複製、処理、改変、修正、公表、送信、表示および配信するための、世界的かつ非独占的ライセンス(サブライセンスを許諾する権利と共に)を当社に対し無償で許諾することになります(明確化のために、これらの権利は、たとえば、キュレーション、変形、翻訳を含むものとします)。このライセンスによって、ユーザは、当社や他の利用者に対し、ご自身のツイートを世界中で閲覧可能とすることを承認することになります

簡単に説明すると、ツイッターのユーザは、ツイートに含まれるテキストや画像のコンテンツをツイッター社が改変等することを許諾したことになり、さらにツイッター社が第三者にそのような改変等を行わせることもユーザは許諾したことになります。

そうしますと、著作者や著作権者が自ら写真画像を掲載して行ったツイートの場合、その写真画像をリツイート者がリツイート時にトリミングしても許諾の範囲内の行為といえるため、この規約に基づいて氏名表示権侵害は成立しないと考えられます。

Q:原告男性が、リツイートをしたユーザの情報開示まで求めたことには、どのような理由があったのでしょう。
--------
原告代理人のブログ(※2)による、原告がリツイート者のメールアドレスの開示を求めた経緯は、元の無断投稿者(アカウント2の利用者)と、リツイートした3つのアカウントの利用者が同一人物の可能性があったからであるとのことです。ここからは想像になりますが、原告としては違法に写真画像を用いてツイートした元ツイート者(アカウント2の利用者)にしか権利行使をするつもりはなく、アカウント3から5のユーザがアカウント2と別人であることが分かれば、リツイート者(アカウント3から5の利用者)に損害賠償請求等の権利行使をするつもりはなかったのではないかと考えます。なお、これも原告代理人のブログからの情報ですが、アカウント3に関しては、アカウント2の利用者と別人物である可能性が高くなり、現時点で損害賠償請求は予定していないとのことです。
※2: 原告代理人ブログのリンク

Q:画像について① サムネイル画像をクリックすれば画像の全景が表示されるが、氏名表示権侵害となるのか?② タイムライン上の画像トリミングは、ツイッターの自動仕様によるが、それでもユーザが氏名表示権侵害をしたことになるのか?といった疑問があります。今回の裁判ではどういった判断が下されたのでしょう。
--------
① に関してですが、被告(上告人)であるツイッター社は、リツイートのサムネイル画像をクリックすれば、氏名表示部分がある元画像を見ることができるから、各リツイート者は、「その著作物につきすでに著作者が表示しているところに従って著作者名を表示」(著作権法19条2項)したといえ、氏名表示権侵害は成立しないと主張しています。

しかし、これに対して、最高裁は

⑴ リツイートによってタイムライン上に表示されるウェブページと、氏名表示のある画像が保存されているウェブページは別個のウェブページであることを前提に、
⑵ ユーザは、サムネイル画像をクリックしない限り、著作者名の表示を目にすることがないこと、
⑶ ユーザがサムネイル画像を通常クリックするという事情がないこと

を理由に、ツイッター社の上記主張を退けています。

次に②に関して、最高裁は次のように述べています。

・・・(なお、このような画像の表示の仕方は、ツイッターのシステムの仕様によるものであるが、他方で、本件各リツイート者はそれを認識しているか否かにかかわらず、そのようなシステムを利用して本件各リツイートを行っており、上記の実態は、客観的には、その本件各リツイート者の行為によって現実に生ずるに至ったことが明らかである。)。また、本件各リツイート者は本件各リツイートによって本件各表示画像を表示した本各ウェブページにおいて、他に本件写真の著作者名の表示をしなかったものである。

必ずしもこの部分が意図することは明確ではないと思いますが、ツイッター社の自動トリミングによって氏名表示部分が表示されないことがあるとはいえども、それによってリツイート者による氏名表示権侵害が否定されるわけではないという趣旨を述べているものだと理解しています。したがって、②に関しての結論としては、ツイッター社のシステムによる自動トリミングであっても、リツイート者による氏名表示権侵害は否定されないということになります。

Q:ツイッター社の仕様が変わらない限り、同様のトリミングは発生します。今後はリツイートをする行為によって、リツイート者に対して、損害賠償請求などがされる可能性はありますか。
--------
この質問は、上記ポイントの1点目と2点目のいずれにも関係してきます。事実関係を整理しながら、解説していきます。

まず、2点目のポイントでも述べたように、今回の最高裁判例の事案はあくまで発信者情報開示請求の事案において、リツイート者に氏名表示権侵害が生じる可能性があると判断されたにすぎません。

著作者が、リツイート者に対して、氏名表示権侵害に基づいて損害賠償請求等を行うためには、リツイート者に氏名表示権侵害についての「故意又は過失」が存在することが必要になります。
リツイート者が氏名表示権侵害にならないように十分な調査を尽くしてリツイートしたような場合であれば、「故意又は過失」がなく、リツイート者が損害賠償の責任を負わないと考えられます。

したがって、「氏名表示権侵害に該当する行為の存在=損害賠償等の民事上の責任発生」ではないという点に注意して頂きたいと思います。

次に、1点目のポイントで述べたように、今回の最高裁判例の事案は、「元ツイート者が著作権者に無断で複製した写真画像を掲載して行ったツイートをリツイートした事案」です。著作者が自ら写真画像を掲載して行ったツイートをリツイートする行為は、今回の判例の射程外ですし、さらにいうと、ツイッターのサービス利用規約に基づき許諾された行為になると考えられますので、リツイート者は損害賠償の責任を負わないと考えられます。

Q.最高裁の判決では氏名表示権の侵害だけが問題になっていましたが、例えば、氏名が表示されていない画像であれば、リツイートしても著作者人格権侵害にならないのでしょうか?
--------
この最高裁判決の原審である知財高判平成30年4月25日(平成28年(ネ)1010号)では、リツイートによって画像がトリミングされることを理由に、氏名表示権の侵害だけではなく、同一性保持権の侵害も認めています。

本事件の原告代理人が書かれたブログ(※2)によると、最高裁は、民訴法318条3項に基づいて、同一性保持権侵害に関する上告受理申立理由を排除したとのことです。

本事件は、リツイートで表示される画像には著作者名が表示されておらず、同一保持権侵害の議論に踏み込まなくても、氏名表示権侵害に関する判断だけで本事件の解決ができるため、同一保持権侵害に関する上告受理申立理由を職権で排除したと考えられます。

その結果、知財高裁の同一性保持権侵害を認めている部分に関して最高裁は明確な判断を示していません。

同一性保持権侵害の点も含めて、リツイートによって著作者人格権侵害が成立するか否かを整理すると以下のようになるのではないかと考えています。この表からみてもわかるように、同一性保持権侵害のほうが、権利侵害となる可能性ある部分が広いので、氏名表示がされていない写真画像であっても注意が必要です。

(まとめ)
【著作者に無断で写真画像が利用された違法なツイートが行われ、そのツイートをリツイートした場合】
・元の画像での氏名表示の有無:あり/氏名表示権の侵害(リツイートで表示される画像に氏名表示部分が表示されていない):侵害(※最高裁の判例の射程部分)/同一性保持権の侵害: 侵害の可能性
・元の画像での氏名表示の有無:なし/氏名表示権の侵害(リツイートで表示される画像に氏名表示部分が表示されていない):非侵害 侵害の可能性/同一性保持権の侵害:侵害の可能性
【著作者が自ら写真画像を利用してツイートを行い、そのツイートをリツイートした場合】
・元の画像での氏名表示の有無:あり/氏名表示権の侵害(リツイートで表示される画像に氏名表示部分が表示されていない):非侵害(※3)/同一性保持権の侵害:非侵害(※3)
・元の画像での氏名表示の有無:なし/氏名表示権の侵害(リツイートで表示される画像に氏名表示部分が表示されていない):非侵害(※3)/同一性保持権の侵害:非侵害(※3)
※3:ツイッター社のサービス利用規約に基づいて、許諾が得られた範囲内の利用であるため、非侵害になると考えられる。

Q:今回の判決を受け、今後ユーザが気を付けるべきことは?
--------
上記のように、著作者自らが写真画像を利用してツイートを行い、それをリツイートした場合は、氏名表示権及び同一性保持権の侵害にならないと考えられます。
したがって、出所がはっきりせず、無断掲載のおそれがある画像を含むツイートをリツイートしないことが重要です。

最高裁判例の戸倉補足意見の中では、ツイッター社の画像が自動的にトリミングされるという仕様を前提にすると、「元ツイート記事中の表示画像をクリックして元の画像を見ることにより著作者名の表示を確認し、これを付記したコメント付きリツイートをするなどの対応が可能であろう。」とされています。

元ツイートの画像に氏名表示がされているのであれば、この補足意見の中で書かれているように、著作者名の表示をコメント(リツイートの本文)で行うことで氏名表示権の侵害を回避できる可能性があると思われます。

ただし、元ツイート者がそのアカウントの画像保存用のサーバ領域に画像をアップロードする時点で著作者が元画像に表示していた著作者名を削除していた場合、タイムラインのサムネイル画像をクリックして確認しても当然、氏名表示がされていない画像が表示されるに過ぎません。このような元ツイートをリツイートした場合であっても、本判決の射程は及ぶと思われるため、補足意見で書かれた対策を取れない場合があると考えます。さらにいうと、自動トリミングによる同一性保持権侵害の問題をクリアすることもできません。

したがって、出所がはっきりせず、無断掲載のおそれがある画像を含むツイートをリツイートしないことの徹底が、今後ユーザが気を付けるべきことであると考えます。

内田誠

知的財産権とIT分野における「技術×法律」を得意とする専門家

弁護士

内田誠さん(iCraft法律事務所)

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