バブル時代のマンションに廃虚化の危機。建て替えや大規模改修など、老朽マンション再生の道は?
築年数の古いマンションの売却や建て替えを後押しする「改正マンション建替え円滑化法」が成立。外壁の傷みによる剥離・落下などの恐れがある建物について、マンション敷地売却制度の対象に追加するなどを盛り込みました。高度経済成長期、ニュータウンの団地開発やマンション需要の高まりで、1960年代以降に建てられた集合住宅が築40年を超え、耐震性の不足や建物の老朽化が問題となっています。その数は現在の約81万戸から、20年後には4.5倍に急増すると見られ、対策が急がれています。
長い年月の間に、新築当初からの入居者と、築年数を経て不動産価格が下がってから入居した比較的若い世代との間で、住居に対する考え方の違いがあり、資産価値の維持や建物全体の修繕・建て替えなどが進まないことが、対策の遅れの大きな要因となっているようです。今回の法改正で、こうした問題の解消が進むのでしょうか。老朽化マンションの今後は。マンション管理士の佐藤弘和さんに聞きました。
建て替えや売却に関する法律の思い切った規制緩和を進めるべき。管理費・修繕積立金のチェック体制を強化して〝その時〟に備えることも
Q:築年数が古いマンションでは、設備の劣化が深刻です。それ以外には、どのような問題が起こりますか?
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国土交通省によると、築40年超のマンションは、現在の81万戸から20年後には4.5倍の367万戸に急増する見込みです。駅や集客施設から近いなど、収益性が高いエリアにあるマンションには、不動産としての価値があります。バブル期に全国の至るところに建てられた、立地にさほど恵まれているとは言えないようなマンションは売却もままならず、空き家が目立ち、資産価値が下がるという悪循環で、このままでは廃虚化するのではと、危ぶまれています。
経年による設備の劣化で最も面倒なのは、給排水設備の問題です。定期的に保守点検をしていても、目に見えない部分の水漏れは、業者でも発見が困難な傾向にあります。特に排水設備の不備は深刻で、小さな亀裂から染み出した水滴が、何十年もかけてコンクリートに穴を開けていきます。漏水として現れ、気づいたときには、大損害を生じさせる状態になっています。
そのほか、外観の古さや耐震性能の不安、区分所有者の高齢化と世代交代が進まない、などの問題がありますが、何より大きいのは「お金がない」ということ。
つまり長年の修繕積立金など、マンション全体の問題を解決すべき予算が、決定的に不足していることが、マンションの魅力を回復させるにあたっての障害になっています。
Q:区分所有者は長年、管理費や修繕積立金を負担し続けてきたはずですが、なぜ予算がないのでしょうか?
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実は新築でマンションを購入した当初から、修繕積立金を十分に蓄えられる「長期修繕計画」を実施しているケースはごく少ないというのが実情です。ほとんどのマンションでは、管理会社に維持管理を委託していますが、管理費や修繕積立金の名目で納められた費用が、過剰な管理サービスや必要のない保守点検、最悪の場合は割高な補修工事や不正な報酬へと消えていることもあるのです。
実際に私が管理組合の顧問として関わった例で、大手デベロッパーが建てた全88戸の新築マンションでは、年間450万円の経費を削減することができました。当初のままの管理を続けていくと、10年間で4500万円もの損失となったわけです。つまり、数十年後に大規模改修や建て替えをしたいときには、この金額分が足りなくなっているということにもなります。
このようなことが、現在の老朽マンションの資金不足を招いているのです。
マンションの住民で組織する管理組合が、その収支を監視するはずですが、法令にも関わることとなると、一般の人には理解が困難です。しかも、理事長をはじめ、組合員のほとんどが高齢ともなると、大方のことは管理会社に任せっきりとなってしまいます。
Q:築年数が古いマンションで安全かつ快適に住み続けるために、潜在する問題を解決する対策にはどのようなものがありますか?
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築年数が40年以上にもなったマンションでは、定期的に点検をしていても設備の劣化が進み、大きな不具合がいつ起きてもおかしくない状況が続きます。対策としては、ちゃんとした大規模修繕、建て替え、あるいは土地・建物ごとデベロッパーなどに一括売却する、この3つの方法しかありません。
明確な解決方法があっても、その決定は区分所有者の同意がなければ、いずれの方法をとることもできません。住民らが組織する管理組合が、管理会社と連携して対策を検討することになりますが、これもまた専門的な知識がない一般の人には敷居が高い問題です。
管理会社ではなく、自主管理を行っているマンションでは、建築士や設備関係の企業に勤めているなど、住民の中から専門知識を持つ人を募って、対策チームを組織することも一つの方法でしょう。そうした人材がいないようなら、第三者のマンション管理士等の専門家に相談することも有効です。
Q:問題解決のための対策がこれまで進まなかったのはなぜ?
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決定的な原因は、潤沢な費用がないということに尽きるのですが、前述のように、いずれの対策をとるにしても、必要な区分所有者の合意が得にくいということがあります。追加費用がかかるほどの大規模修繕や、一時的な転居を伴う建て替えなどはなおさらで、費用的にも、体力的にも及び腰になるのは必然です。
鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄骨造など、建物の構造によって、実際にどれくらいの耐用年数があるのかを行政庁から明確に示されていれば、決断するべき使用期限の目安がつくのでしょうが、現在のところ、3年に1回の建築物定期調査の報告で問題がなければ、法的に使用限度が決められているわけではありません。
まれに、土地の賃借権や地上権などにマンションを建設し、数十年後には取り壊して土地を返還する条件で分譲するというケースがあります。建て替えを前提とした管理方法や修繕計画を遂行していくため、クリアすべき他の問題があるにしても、少なくとも「住民の合意が得られない」といった悩ましい事態にはなりにくいかもしれません。
そろそろ、使用期限について、法的な基準の整備を検討すべき段階にあるのではないでしょうか。
Q:今回の改正マンション建て替え円滑化法とは、どのような内容ですか?
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「マンション敷地売却制度」の対象を、現行法では耐震性が不足する場合に限っていましたが、老朽化によりマンションの外壁がはがれ落ちるなど、周辺に危険を及ぼす恐れのある物件などの条件を追加し、区分所有者の5分の4以上が同意すれば、老朽化した建物と敷地の一括売却が可能になります。
さらに、建て替えの際には、容積率の緩和が特例として受けられるようになります。また、団地型マンションで、老朽化している棟の敷地だけ分割し、建て替えや売却を促す「敷地分割制度」も設けられます。
いずれも、維持修繕が難しい老朽マンションの問題解決を後押しするものとして期待されます。
Q: 今回の法改正で老朽マンションの今後は?再生が期待できるのでしょうか?
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建て替えが進まないのは、建築物に関する法制度の内容が古く、1980年代以降、建築基準法の耐震基準や消防法などの改正を進めているものの、適正化が追いついていないことが大きく関係しています。
今回の法改正に加え、さらなる容積率の緩和や都市計画の許可といった条件が整えば、たとえば現在100戸あるマンションを同じ敷地内で200戸収容に建て替えると、その戸数分を新たに分譲することで建設費などの追加費用を賄うことができます。
これにより、現所有者が建て替え時に大きな資金を用意することなく、新築物件に住み替えることも可能になります。高齢者が多く、修繕や建て替えに消極的だとしても、相続のことも前向きに考えられますし、「廃虚を終の棲家とするよりは…」となるかもしれません。
建て替えや大規模改修の障害となっている前時代的な法律が、今回の法改正で一歩前進したものの、適法化や思い切った規制緩和へと進むことこそが、今後の老朽マンション再生のカギとなりそうです。
マンション管理組合サポートの専門家
佐藤弘和さん(佐藤不動産顧問)
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