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マイナンバーと個人の銀行口座のひも付け議論が加速。義務化で何が変わる?

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新型コロナウイルスの影響による経済対策として、国民に一律10万円が支給される特別定額給付金のオンライン申請の手続きや、それにともなうシステム障害によって、自治体の業務負担が増大。支給の遅れが問題となっていることから、以前から検討されていたマイナンバーと個人の銀行口座とのひも付けを義務化する法案成立に向け、議論が加速しています。今後、同じような給付金の支給を行う際には、申請のたびに銀行口座を確認する必要があるが、ひも付けを義務化すればそうした確認作業が不要となり、迅速な支給が可能になることが見込まれるというもの。

しかし、ひも付けの対象が全ての銀行口座となれば、「税務調査で個人の全財産の検索が可能に?」「プライバシーの問題は?」「情報漏洩によるリスクはないのか」といった疑問や不安の声もあがっています。マイナンバーと個人の銀行口座とのひも付けが義務化されるとどうなるのか、20年以上の金融実務経験を持つ弁護士の小川文子さんに聞きました。

給付金の受給など行政手続きが迅速に。マイナンバー活用には厳しい制限があり、行政が個人の資産情報を自由に利用できることにはならない

Q:現在、さまざまな届け出のための書類に、マイナンバーの記載を求められることがあります。どのような場面で活用されているのですか?
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マイナンバーは住民票を持つ全ての人(外国人含む)に付与された12桁の番号です。改正マイナンバー法により、行政機関が、添付書類の削減や本人確認の簡素化など、行政手続きの効率化を図るため、税、社会保障、災害の3分野の行政事務に限って活用できるとしています。

以下の3点を目的に、平成28年(2016年)1月から運用が始まっています。

【1:公平・公正な社会の実現】
所得や他の行政サービスの受給状態を把握しやすくなり、不当な免責や不正受給防止となる。
【2:国民の利便性の向上】
添付書類の削減など、行政手続きが簡素化する。
【3:行政の効率化】
行政機関や地方公共団体などで、情報の照合、転記、入力などの時間や労力が大幅に削減される。

所得税・贈与税は平成28年分の申告書から、相続税についても平成28年1月1日以降の相続(死亡)による財産取得の申告書に、マイナンバーの記載が求められています。

各金融機関でも導入を開始。銀行口座開設のほか、証券会社、生命保険会社には、税務署に契約者と保険金受取人などのマイナンバーを記載した支払調書を提出することを義務付けているので、各金融機関などにマイナンバーを通知する必要があります。

Q:個人が持つ全ての銀行口座とのひも付けが義務化されると、行政に金融財産の情報が知られてしまうことになり、「監視が強まるのではないか」と不安視する声もあるようですが。
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マイナンバーの利用については現行でも、誰がどのような目的で使用するのかが、法律で厳しく制限されており、ひも付けが義務化されても、必ずしも不当にその情報を閲覧・利用されることはありません。

例えば当初から、低所得者向けの公営住宅などの事務手続きに、マイナンバー情報の活用が認められていましたが、中堅所得者向けの特定優良住宅の管理では利用を認めていなかったので、法律改正により認められました。

このように、同じ地方公共団体が管理する住宅でも、マイナンバー情報の利用は法律で厳しく限定されており、認められていない目的のために利用するには法改正が必要となります。万一、法律で定められている厳しい利用制限の厳守がされなかった場合には、罰則規定があります。相続などのほか、証券会社や保険会社などから配当があったにも関わらず申告がない場合にも、公平・公正な納税を促すためにマイナンバーの利用が認められています。

つまり、不法に所得隠しや資産隠しを謀りたいという人以外は、必要以上に不安視する必要はないと思います。

Q:今回、マイナンバーによる手続きを取り入れたにも関わらず、一部で混乱が生じたため義務化の議論が活発化、個人が指定した特定の口座をひも付けるという案も浮上しています。
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現在、あらゆる行政手続きで個人の識別のために、氏名・住所・生年月日・性別といったさまざまな個人情報を提出しています。例えば氏名に難しい漢字表記がある場合、本人が記載したものでも、書類によって簡略化した漢字を使用していたなどの場合、それらを一つ一つ確認するため、むやみに時間がかかります。しかし、マイナンバーという数字にすることで、そうした確認作業が省略されます。

今回の新型コロナウイルス対策では、全国民に10万円の特別定額給付金を給付する際、主に大都市でこうした確認作業が進まず、給付の遅れが目立ちました。マイナンバーカードの中途半端な普及によって、オンライン申請と書類の郵送による申請の2パターンが混在することになり、かえって確認作業に手間取ったためと言われています。

今後、第二第三弾の支給が必要となった場合でも、個人の特定が速やかに進み、そのうえ、事前に入金口座の情報が結びついているマイナンバーを活用できれば、迅速な給付が可能になります。自民党の議員立法案では、給付口座だけをマイナンバーにひも付けするようですので、これが実現すれば、預貯金全ての情報を提供することには抵抗がある場合でも、マイナンバーをひも付けた銀行口座と、それ以外の預貯金の口座とを別にしておくと、そうした抵抗がなくなるかもしれません。

Q:「預貯金口座をマイナンバーにより検索できる状態で管理することに反対」という声もあります。どのような点が問題と考えられているのですか?
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前述のように、マイナンバーの利用には、法律で厳しい制限や違反した場合の罰則規定が定められているので、これらが厳正に守られている限りは、不利益が発生するとはあまり考えられません。

法律に反して個人情報が目的以外に利用されたり、開示されたりすることは、まずないでしょうし、むやみに監視が強まって、例えば税務調査が急増するといったようなことは、現実的にはあまりないと考えられます。

問題は、一括して情報が集約されていることで、万一システムの不具合や人為的ミスが起こった場合に、重要な情報が漏洩してしまう可能性が否定できないということです。過去には、外部メールに起因する年金情報流出や民間企業で一部の担当者による作業用データの持ち出しなど、重要な情報が漏洩することがありました。このように、意図的に情報が盗まれ、犯罪に使われるといったリスクも全くないとは言えないでしょうし、なりすましの危険もあります。

情報漏洩のリスクや、それに伴うなりすましのリスクは否定できませんが、対応策としてシステム強化が期待されますし、マイナンバー提供の場合には本人確認をするように義務付けるなどの運営でそのリスクを低減させているようなので、リスク発生の可能性は限定されるかと思います。

一方、「行政が国民の個人的な資産情報を自由に利用できるのではないか」というようなことは、前述のように厳格な現行の法制度では考えづらいので、そこまで問題視する必要はないかと思います。

Q:今後、マイナンバーと個人の銀行口座とのひも付けが義務化されることを想定して、それぞれが心積もりをしておくことはありますか?
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全銀行口座にしろ指定口座のみにしろ、マイナンバーへのひも付けが義務化する前に、自分の銀行口座を整理し、確認しておくことです。ひも付けした口座をうっかり解約していると、今後、給付金などの入金手続きの際の確認に手間取り、速やかに入金がされないということがあるかもしれません。銀行側で、給付口座に指定されている口座を管理し、解約できないようにしてくれればよいですが、今のところ、どのような運営になるか不明です。

また、指定口座のみにひも付けとなった場合は、前述のように、預貯金や入出金の口座と、マイナンバーにひも付ける口座を別にしておけば、抵抗感が少ないと考えられます。

しかし、全口座ひも付けとなった場合に、その照会が厳しく制限されているとはいえ、預貯金情報を知られることへの嫌悪感から、預貯金以外の資産、例えば金塊や現金にして保管しようとする人が増えるかもしれません。いわゆる「たんす貯金」のようなものですが、資産をこうした形で保管しておくことの方が、詐欺や強盗のリスクが大きくなります。

どの家庭にも一律一人10万円が支給されることが周知されている現在でも、すでに給付金に関連した詐欺行為などの犯罪が増えているようなので、そのリスクは決して無視できません。いずれにしても、制度の一面のみを切り取った要素だけで、むやみに不安視するのではなく、多方面から利便性やリスクを考えて理解を進め、今後の動きを見ていく必要があります。

大手都市銀行や外資系資産運用会社等の金融出身の女性弁護士

小川文子さん(恵富総合法律事務所)

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