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9万人の大工が不足する2020年問題とは? 

カテゴリ:
くらし
キーワード:
働き方改革

大工が大幅に不足する2020年問題

多くの業界で人手不足が叫ばれる昨今ですが、家を建てたくても建てる大工がなかなか見つからないという時代がもうすぐそこまできていることをご存じでしょうか?

総務省の国勢調査によれば2000年に約64万人いた大工人口は2010年には約39万人にまで減少しています。そして、2020年には約21万人にまで落ち込むと推定されています。一方、大工の需要予測では2020年には30万人程度の大工が必要となるといわれており、このままでは9万人程度の大工が不足すると既に何年も前から建設業界では言われ続けているのです。

なぜ大工人口が減少しつづけているのか

私もここ数年間でこの問題について警鐘を鳴らしている記事を新聞や雑誌、ネット記事などで何度も拝見しました。しかし、何故大工になろうとする若者が少なくなったのか、何故離職率が高いのか、その核心に触れた記事は一つも無かったように思います。

大工なら誰もが知っている単純明快なその答えに触れていないのは、現役の大工や工務店、そしてこれから大工になろうと考えている若者に配慮してのことだと私は思います。しかしながら、本気でこの問題に警鐘を鳴らすのであれば、そこもきちんと記事にしなければならないと思います。

大工人口が減少の一途を辿り続けている要因は単純に、給料が安く、社会的地位が低いからです。大工として16年間で4つの工務店を渡り歩いたのちに起業し、小さな工務店を経営しております私はそう感じています。

厚生労働省の調査によると、大工の平均日当は12700円だそうです。そして平均年収は378万円ほどとなっています。そして、一生大工としてどこかしらの会社に勤めた場合の推定生涯年収は1億5000万円程度といわれており、生涯年収が約2億円と言われている一般のサラリーマンと比較するとかなり低いと私は思います。

ちなみに、一般のサラリーマンは週休二日が当たり前ですが、大工の場合は土曜日と祝日をしっかりと休む会社は殆どありませんので、大工の方が年間で約60日も多く働いていることになり、一般のサラリーマンが1年間で12カ月働くのに対し、大工は1年間でサラリーマンの14カ月分働いていることになります。

さらに、一般のサラリーマンはボーナスを年間で基本給の三カ月分程度もらえますが、大工の場合はボーナスも退職金も無くて当たり前で、寸志を頂ければ良い方です。それでいて、基本給が特別高いというわけではありません。

これを聞くと、大工は5カ月分の給料を損しているかのように聞こえる若者もいるのではないかと思います。また、大工は仕事を覚えるまでは安い給料が当たり前で、仕事を早く覚えて一人前の給料を手にするためには、仕事時間外に毎日2,3時間は自分なりに何かしらの努力を積み重ねなければなりません。ですから、早い段階で大工という仕事を心から気に入った人間でなければ長くは続かない仕事だと私は思います。

今こそ大工の置かれている労働環境を改善すべき時

働き方改革が騒がれている昨今に「この業界は昔からこうなのだ」という聞き飽きた言葉はもう通用しなくなりつつあります。しかし、馬鹿正直に働き方改革を実行に移せば、大半の小さな工務店は経営に行き詰まり潰れてしまうでしょう。

そうなっては元も子もありませんのでこの問題は個人が解決できる問題ではないような気が致します。業界全体がこの問題に真剣に取り組んでいくことが必要ですし、世の中の多くの人に実情を知ってもらうことも必要かもしれません。

世間の方々はあまり関係がないと思うかもしれませんが、自分の家を建てる上で、実際に仕事をしてもらう大工の実情を知っておくことは決して無駄なことではありません。実際問題、工務店との付き合い方、大工との付き合いかた次第で建設中の建物は良くも悪くも簡単に変化してしまうものです。

なぜなら、物を造る上で最終的な完成度を決めるのは常に作り手の「心」だからです。

中島雅生

伝統的な「数寄屋建築」の技法を受け継ぐ現代の工匠

一級建築士

中島雅生さん(株式会社工匠常陸)

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