参議院の定数増法案が可決 批判はあるが一票の格差是正につながるか
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参議院の定数が6増加 一票の格差是正のためだが野党は反発
2018年7月18日の衆議院本会議において、参議院の定数を6増やす改正公職選挙法が、野党の反対を押し切る形で可決・成立しました。
これにより、参議院の定数が6増えて248となります。具体的には埼玉選挙区の定数が2増となり、比例代表の定数が4増となります。また、比例代表には拘束名簿式の「特定枠」が導入されます。他方、一票の格差是正のため設けられた「合区」は鳥取・島根、徳島・高知のいずれも維持されます。
この改正になぜ野党が強く反発したのか、今回はその理由を考えていきます。
問題となっている「一票の格差」とは?
そもそもの問題は、「一票の格差」をどう是正するか、という考え方にあります。「一票の格差」とは、選挙区の人口と定数の違いから、「人口10万人につき議員1人という地域の住民が投じた一票に対して、人口20万人につき議員1人という地域の住民が投じた一票はその半分の価値しかない」という不平等が生じることを言います。
参議院は半数改選制、都道府県単位の選挙区制を取ることから衆議院に比べても一票の格差が拡大する傾向にあり、過去には一票の格差が5倍を超え、最高裁が法の下の平等を定めた憲法に反し「違憲状態にある」との判決をしたこともあります。
2016年7月に行われた最新の参議院選挙では、複数の県をまとめて一つの選挙区とする「合区」が導入されたことで一票の格差は3.08倍に減少し、最高裁も2017年の判決で「合憲」であるとの判断がなされています。
一票の格差を是正し民意を政治に反映するための定数増加
今回の参議院の定数増は、選挙区あたりの人口が最も多い埼玉選挙区の定数を増やすことで一票の格差を3倍未満に抑制し、あわせて比例代表制の定数も増やすというものであり、一票の格差を是正し広く民意を反映するという点では、今回の改正は憲法の要請に沿うものです。
実質的に与党(自民党)を有利にするための定員増加ではないかという批判
一票の格差是正の必要性については与野党ともに一致しているとおもわれますが、なぜこの改正に野党が反発したのでしょうか。野党が批判するのは、今回の定数改正が「一票の格差是正」に名を借りた、与党自民党を有利にするための党利党略による改正である、という点です。特に、比例代表について各政党が優先的に当選する「特定枠」を設けることは、合区により選挙区を失う与党議員を救済する方法であるとの批判が強く向けられています。
具体的には、自民党は合区された選挙区選出の議員4人がいますが、次回の改選ではこのうち2人しか当選枠がありません。そのため、この議員を優先的に当選させるための「特定枠」を設け、かつ既存の比例代表選出議員が押し出されないように定数を4増やしたのではないか、との批判が向けられています。
そのほかにも、西日本豪雨災害への対策が必要な中、現時点で最高裁が一応合憲とした選挙制度の改革を強行する必要がどれだけあるのかという疑問や、複雑で、現在運用されている非拘束名簿式の利点を失わせる「特定枠」を設けることの必要性への疑問、国会議員のコスト削減がなされない状態での定数増に対する疑問などがあり、これらが解消しないまま強行された今回の改正について「禍根を残す」との批判もなされています。
一票の格差是正は重要だが議論を尽くし世論の支持を受けた制度設計が必要
私見としては、日本の国会議員(特に参議院)の人数が多すぎる、ということはないという意見に賛同します。そのうえで、一票の格差を是正し、多様な意見を広く国政に反映させるために定数増をすることは積極的に捉えるべき、と考えています。
もっとも、定数増により国民の負担が増えることは望ましくありませんので、国会議員のコストの点などの検討を進め、国民の負担を増やすことなくより多様な意見を国政に反映させるシステムを構築する必要があると考えています。
しかし、今回の改正は前述した批判についての十分な議論がなく、国民世論も直ちに改正すべき、という意見が多数とはなっていないなか、与党によって強行された改正であり、その内容も恣意的な側面が否定できない以上、野党が「党利党略による改正」と批判することはもっともである、と考えます。
とはいえ、改正は実現しました。そのため、今後は改正内容の是非だけではなく、このような批判を押し切る形で選挙制度改革をした与党の姿勢の是非も問う必要があるのではないでしょうか。
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