「マイニング」悪用で墓穴を掘って有罪。ネット上の強制的な広告表示とはどう違う?
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他人のパソコンで「マイニング」有罪判決
2018年7月2日、仙台地方裁判所で、「マイニング」をするプログラムを他人のパソコンにダウンロードさせて、マイニングをしたとして、不正指令電磁的記録作成及び同供用の罪(刑法168条の2)で懲役1年・執行猶予3年の有罪判決があったそうです。
被告人は、マイニングのプログラムを仕込んだファイルを作成して、そのファイルをオンラインゲームのためのツールと称して自分のブログに掲載し、そのブログを閲覧した人にそのファイルをダウンロードさせて、ダウンロードした他人のパソコンでマイニングさせたということです。
今回の件でこの被告人が得た利益は5000円程度とのこと(マイニングさせることで分配を得た報酬のようです。)ですから、被告人が期待した利益は儚くも仮想で終わったのでしょう。
マイニングの悪用についての判決は全国初だそうです。ただし、既に略式命令(罰金)となった事案は他にあるようです。
マイニングとは
「マイニング」はどういうものかというと、ビットコイン等のブロック・チェーン技術を利用した仮想通貨について、その取引の追記のためのブロックを作るための「ある値」を計算する作業のことです。
最初にその「ある値」を発見した人が報酬を得られることになっています。この作業を「コインを掘り出していること」にたとえて、採掘(マイニング)と言われるようになったそうです。
マイニングには、莫大な計算力が必要とされますので、今回の件の被告人としては、他人のパソコンを利用すれば自分の得られる報酬が増えると考えたのでしょう。
不正指令電磁的記録作成などの罪
この犯罪は、簡単に言えばコンピュータウイルスの作成や実行を処罰するため、平成23年に新設されたものです。
正当理由なく、他人に知られずに他人のコンピュータで実行する目的で、「コンピュータを使用する人の意図に沿う動作をさせなかったり意図に反する動作をさせる不正なプログラム」を作成すれば、不正指令電磁的記録「作成」の罪(刑法168条の2第1項)に問われます。
そんなプログラムを誰かに「提供」することも犯罪(同項)ですし、「取得」や「保管」も犯罪(刑法168条の3)です。そんなプログラムを、他人のコンピュータに実行される状態に置いた場合は、不正指令電磁的記録「供用」の罪(刑法168条の2第2項)に問われ得ます。
これらの「作成」「提供」「供用」の罪は、未遂でも処罰されます(同3項)。「作成」「提供」「供用」の罪の法定刑は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金で、「取得」「保管」については2年以下の懲役または30万円以下の罰金となっています。
これらの行為が犯罪とされるのは、コンピュータやプログラム一般に対する社会の信頼を保護しようという趣旨です。
今回の判決での疑問点
今回の件では、パソコンの使用者の知らないうちにマイニングさせるプログラムを作成して他人のパソコンに実行される状態に置いたということで、「作成」と「供用」で有罪判決となっています。
知らないうちにマイニングさせるのを「意図に沿う動作をさせなかったり意図に反する動作をさせる不正なプログラム」であるとどのように認定したのか気になるところです。マイニングしているのをコンピュータの使用者が気付かなかったり、また、情報を流出させるとか故障させる等の不具合がなかったのであれば、「意図に沿う動作をさせない、あるいは、意図に反する動作をさせる」ということまでいえたのかと少し疑問です。今のところ判決文が公開されておらず確認できてはいません。
なお、今回の件は、マイニングや仮想通貨といった新しい技術・仕組みに関して起こった事件とはいえ、マイニングや仮想通貨そのものが問題というものではありません。この点は混同しないようにしたいです。
広告表示は同じ犯罪に問われないのか
ホームページやブログ等のサイトを閲覧した際に表示される広告は、今回のマイニングの件と同様に、上記の犯罪にならないのかという疑問があるようです。サイトを閲覧した際に表示される広告は、通常はサイトの閲覧に伴うものとして「意図に反する動作」とまではいえないでしょう。
したがって、広告表示については、通常は今回のマイニングの件と同じ犯罪にはならないと考えられます。
広告表示と同様の技術でのマイニングも裁判になっている
サイトの広告と同じ仕組みで、サイトの閲覧者のプラウザでマイニングの計算をさせてその結果を送信させるプログラムを設置したことで、上記の「保管」の罪で摘発され、今年3月に罰金10万円の略式命令を受けたとの報道があります。この件は、被告人の請求により正式裁判になっているそうです。
同じ技術なのに、広告は犯罪ではなく、マイニングは犯罪になると扱われるというのでは、刑法の不正指令電磁的記録作成等罪の規定は刑罰法規として明確性が不十分となったのではないかと思います。
刑罰の線引きのため刑法上の規定見直しが求められる
刑罰になる線引きが明確でないと、国民を萎縮させますし、特に技術の進歩の著しい分野ではその進歩を妨げることにもなります。国会は、刑法の不正指令電磁的記録作成等罪の規定の見直しを早急にすべきです。
中小企業をとりまく法的問題解決のプロ
林朋寛さん(北海道コンテンツ法律事務所)
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