コロコロコミック発売中止騒動、表現の自由は侵害されたのか?
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児童向け漫画でチンギス・ハンの肖像に男性器の落書きをした描写が問題に
児童向けの月刊マンガ雑誌「コロコロコミック」3月号に掲載された漫画「やりすぎ!!!イタズラくん」の中で、モンゴルの英雄チンギス・ハンの肖像に男性器の落書きをする描写がありました。
この描写を巡り、元横綱の朝青龍氏がツイッターで抗議をしたり、駐日モンゴル大使館が日本の外務省に対し抗議し、同省による適切な対応を求めたほか、在日モンゴル人らが発売元の小学館本社前で抗議デモを実施するなど様々な問題が生じていました。
最終的に、小学館はモンゴル大使館に謝罪した上で、「書店の混乱を避ける」ことを理由として3月号の販売中止を決定しました。3月号は既に販売が開始されていたため、全国の書店には3月号の返品を求める対応をするようです。
表現の自由への侵害はあったと言えるのか?議論は活発であるべきだが…
さて、出版社が最終的に販売中止を決定した今回の騒動。一連の動きの中に出版社の表現の自由を侵害する側面はなかったでしょうか。
表現の自由は、ご存知のとおり、憲法で国民に保障された基本的人権です。憲法は、言論、出版などの一切の表現の自由を保障し(21条1項)、検閲も禁止しています(同条2項)。
この点、憲法はそもそも公権力から国民の権利や自由を守るために存在するものですから、ここでの表現の自由を考える相手も基本的には公権力となります。
今回の事例でいえば、小学館が様々な事情を考慮し、自らの判断で販売を中止することは作者も納得の上なら殊更に問題にすることでもないでしょう。
また、市民の側にも表現の自由がありますので、市民が漫画の内容が気に入らないと抗議をしたり、意見表明をすることも基本的に自由です。むしろ、表現の自由を大切にするという観点でいえば、自由な言論が許される環境でどんどん議論されればよいと思います。
しかし、ここに公権力が介在すると問題は違ってきます。今回の動きの中で、在日モンゴル大使館が日本の外務省に抗議すること自体は許容範囲内だとしても、外務省に対して本件への適切な対応を求めることは、国民の表現の自由への公権力の介入を求めたことになりますから疑問符がつきます。
外務省から小学館に対してどのような行動をとったのかがポイント
さらに重要なのは、そこから外務省が小学館に対してどのような行動をとったのか、あるいはとらなかったのかです。
報道ではこのあたりの正確な情報はでてきていないようですが、仮に外務省が小学館に何らかの圧力をかけたとすれば、これは出版の自由に対する公権力の介入であり表現の自由の侵害を議論すべき段階になります。事後的に検閲行為を行うのと同様の表現の萎縮効果(この表現は問題になりそうだからやめておこう、という不要な自主規制)を生む行為といえるからです。
国民の自由な表現の自由に対して公権力が安易に介入するのは危険
この点、皆さんの中にはひょっとすると、今回問題となっている描写程度では、表現の自由などわざわざ保障しなくてよいじゃないかと思われる方がいるかも知れません。
そうした議論が市民の間でなされる分には健全なのですが、公権力がそうした判断の下に国民の表現の自由に安易に介在してくることを許すのは実はとても危険なことです。
最初は、国民の多くが反対しないような事案で公権力の介入の先例が作られ、いつの間にか、あらゆる表現に公権力が口出しをするようになり、最後には公権力の批判まで許されない社会が生まれ得ることまで想像する必要があります。
そのぐらい、許容される表現の自由の線引きというのは難しいもので、だからこそ公権力による規制権限の濫用にいつも国民は目を光らせなければならないのです。
交通事故と債務問題のプロ
永野海さん(中央法律事務所)
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