家賃の値下げ交渉はどう進める?相場、築年数など諸条件について
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長期間住んでいるなら、家賃の減額交渉はしやすい
同じ賃貸住宅に長く住んでいるという方は、多いのではないでしょうか。2019年に日本賃貸住宅管理協会が発表した「賃貸住宅市場景況感調査」によると、賃貸住宅に4年以上の長期にわたって住んでいる割合は、(学生を除く)単身世帯で約3割、ファミリー世帯では約7割にも上ります。
入居時の賃貸借契約の内容をそのまま引き継いでいるケースも少なくないと思いますが、住まい環境の快適さを向上させるためにも、契約内容の定期的な見直しは大事です。
特に、賃貸住宅の供給が過剰となって空き家が増えているにもかかわらず、現在の家賃が相場より割高になっている場合には、適正水準まで減額したいものです。
今や、礼金が無料の物件は珍しくないため、「短期間で入居者が入れ替わるほどに、礼金で大家さんの懐が暖まる」ということはほぼありません。それどころか、入居者を確保してくれた不動産屋さんに、広告料(いわゆる「AD」)の名目で大家さんからお金を支払うケースが増えているようです。
つまり、「今いる入居者に長く住み続けてほしい」というのが大家さんの一般的な考え方であり、長期間住んでいる人ほど家賃の減額交渉に応じてもらいやすいといえるでしょう。ここからは、どのように値引き交渉すればよいのか、その考え方をみていきましょう。
家賃の値下げ交渉はいつお願いしてもいい
家賃の値下げ交渉をするタイミングとしては、入居前か契約更新時というのが一般的でしょう。しかし、家賃の値下げを切り出すタイミングは、契約更新時期に限らずいつでも構わないのです。貸主にも借主にも、家賃の変更をお願いする「借賃増減請求権」という権利が与えられています(借地借家法第32条)。この権利を行使できるのは、周辺の賃料相場や経済事情が変化した時などであり、契約時期によるものではありません。そのため、賃貸市場が最も冷え込むといわれる時期(5月のGW明けから、夏休みやお盆休みを挟む8月ころ)をあえて選んで、交渉を有利に持ち込む方もいるくらいです。
家賃交渉を行いやすい物件の特徴とは?
一口に物件といっても、立地状況や部屋の状態などの特徴は1つ1つ異なります。その中で、以下のような特徴のある物件は、家賃交渉を行いやすいでしょう。
•駅から遠いなど、立地に問題がある
•同じマンション内に(募集期間の長い)空室が複数ある
•(引っ越し先の候補となる)類似物件が、居住中の物件より安い賃料で募集中である
•周辺に新築の賃貸マンションができた(供給が過剰になった)
•高層ビルができるなどして、日当たりや風通しが居住開始当初より明らかに悪化した
•部屋の間取りや設備が老朽化している
また、家賃の減額交渉をするうえでは、物件のみならず入居者自身の状況も重要です。
家賃滞納や騒音トラブルを起こすなど、生活態度の悪い入居者に対しては「できれば出ていってほしい」というのが大家さんの本音でしょう。ですから、そういう入居者からの家賃交渉は、いくら長く住んでいたとしても、なかなか受けてはもらえません。「自身が、大家さんにとって長く住んでほしい入居者であるか」ということも、家賃交渉の成否を握る大きな要素なのです。ここからは、家賃交渉をうまく進めるための具体的なコツを解説していきます。
家賃値下げ交渉をうまく進めるコツ:周辺の家賃相場を調べる
家賃減額の交渉をうまく進めるためには、まず周辺の家賃相場を知ることが第一です。
今は、間取り・広さ・築年数などが似ている周辺物件の家賃水準がどれくらいかは、インターネットを使って簡単に調べることができます。懇意にしている不動産会社に聞けば、より詳しい情報が手に入るでしょう。その結果、現在支払っている家賃と周辺の相場に大きな開きがある場合には、家賃の減額を物件の管理会社(自主管理の物件なら大家さん)にお願いします。「類似物件との賃料の違い」という確たる証拠があるので、家賃交渉を論理的に進めることができ、管理会社や大家さんを説得しやすいでしょう。
家賃値下げ交渉をうまく進めるコツ:物件の築年数を調べる
家賃交渉をする前に、今住んでいる物件の築年数も調べておきましょう。こちらも周辺の家賃相場と同様、インターネットで簡単に調べることができます。
賃貸物件の賃料というものは、新築時が最も高く、築年数が古くなるにつれてだんだんと下がっていきます。そのため、「築年数が古い」ということも家賃交渉の材料となりえるのです。
三井住友トラスト基礎研究所が発表した「経年劣化が住宅賃料に与える影響とその理由」 というレポートでは、新築から10年たつと10%、20年たつと20%という家賃の下落率が算出されています。つまり、1年で1%の家賃の下落が発生しているということです。
さすがに、築年数が数年という築浅の状況では、築年数を根拠に家賃交渉するのは難しいですが、10年を超える物件なら、交渉を有利に進められる可能性が高いでしょう。
家賃値下げ交渉をうまく進めるコツ:誠実な話し合いをする
家賃交渉をする際、「周辺の家賃相場と差がある」「築年数が古い」「複数の空き室がある」など自身にとって有利な根拠があったとしても、過度に大家さんの足元をみるような交渉をするのはおすすめできません。大家さんも人間ですから、れっきとした証拠があったとしても、一方的に要求を突きつけるだけの人に対しては交渉を渋ることもありえますし、その後の人間関係にも悪い影響を及ぼします。
ですから、家賃交渉はあくまで、誠実で冷静な態度で臨むようにしましょう。交渉が決裂してそれを不満に感じた場合、そこに住み続けずに近隣の安い物件に引っ越すというのも選択肢ではあります。ただ、引っ越し費用・仲介手数料・礼金などの費用がかさむことになるので、それらを総合的に考えて判断しましょう。
また、第三者を交えた判断を仰ぎたい場合に使える手段が、家賃減額請求を調停によって行うことです。この場合、調停で合意できなければ裁判になります。
しかし、裁判ともなればより客観性を求められるため、鑑定士による賃料査定などに相当の時間や費用がかかります。そのため、できるだけ当事者同士の話し合いで決着させた方が良いでしょう。
家賃値下げ交渉をうまく進めるコツ:大家さんにメリットを提供する
前項で「大家さんと誠実な交渉をすべし」と述べましたが、場合によっては大家さんに対してもうひと押しする必要が出てきます。大家さんにとって家賃は大事な収入源なので、できれば減額したくないというのが正直なところ。また、一度家賃を値下げしてしまうと、他の入居者からも「値下げをしてくれ」という交渉が入り、家賃の減額が連鎖してしまうことも考えられます。そこを乗り越えて家賃の値下げをOKしてもらうためには、大家さんに「家賃に代わるメリット」を提示するのが有効な手段です。
以下の4点を含めて家賃の引き下げをお願いすれば、大家さんも「この人なら大丈夫だろう」と感じ、交渉を受け入れてもらいやすくなるでしょう。
① 長期間、キレイに部屋を使って居住していること(特別感)
② 今後も長く住んでいきたいこと(安心材料)
③ 調べた結果、今の物件は築年数が古く、周辺の相場よりも家賃が高いこと(具体的根拠)
④ 家賃が下がらない場合には、引っ越しも検討せざるを得ないこと(プランB)
部屋をキレイに使ってくれていれば、大家さんが部屋に手をかける手間が減るので、それだけでも大家さんに良い印象を持ってもらえます。
住み続ける意思があると伝えれば、大家さんとしては今後も家賃収入が見込めますし、次の入居者を探す手間も省けるので、「少しくらいなら減額してもいいかな」という考えにもなるでしょう。
築年数や相場といった具体的な根拠を示されれば、よほど人気の物件でもない限り、大家さんも家賃の値下げに納得して理解を示してくれます。
そもそも、長く住むつもりがあるから家賃交渉をするわけなので、「引っ越しを検討している」と言うのはあくまで最終手段です。しかし、大家さんに「次の入居者がすぐに入るとは限らない」「空室の間は家賃収入が入らない」「入居者募集のために手間とお金がかかる」などの危機感を持ってもらうには、かなり効き目がある方法といえます。
家賃が下がらない物件もある
ここまで家賃交渉をうまく進めるためのコツを述べてきましたが、どの物件でも家賃の減額が成功するわけではありません。入居者が絶えることのない人気物件では、家賃交渉を行ったとしても、「次の入居者を探すから、不満なら退去してもらって構いませんよ」と貸主は強気に出ることでしょう。
また、物件ではなく大家さんの事情によって、家賃の値下げを渋る場合もあります。先述した「家賃収入の減少」や、「物件の売却価値の下落」を恐れているパターンです。
不動産相場が上昇している局面では、賃貸アパートの売却が活発化します。詳細は割愛しますが、投資家は「利回り」という指標を重視するため、家賃を1,000円下げただけでも売却価格が数十万円変わるケースもあるのです。そのため、物件の売却を考えている大家さんの多くは、家賃を継続的に下げるよりも、1回で終わる出費の方が望ましいと判断します。
そうした背景から大家さんが家賃減額に難色を示す場合には、更新料の免除や1カ月だけの家賃免除など単発で終わる条件を提案し、実質的な値下げを成功させるのも次善策として考えましょう。
家賃にこだわらず、生活環境の見直しを
最後に、家賃減額以外の生活環境を改善する方法をお伝えしましょう。長期間同じ部屋に住み続けると、経年劣化による老朽化が原因で、エアコンなどの設備が壊れたり、天井から雨漏りがしたりするといった、悪い状態への環境変化も起こります。
そうした事態が起こった際は、基本的に大家さんの負担で設備や内装を修繕してくれるので、相談してみましょう。
このように、たとえ家賃交渉がうまくいかなかったとしても、生活環境を総点検することで、快適な暮らしを手に入れることはできます。家賃にこだわりすぎず、今できる範囲で工夫をするようにしましょう。
資産価値を担保する中古物件売買・リフォームの専門家
加藤豊さん(有限会社ミトミ)
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