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非行犯罪はなぜ起こる?犯行動機に至るプロセスとは

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「なぜ犯罪を行ったのか」の答えは、表層的な引き金ではない

犯罪は個人の生き方、時代や社会によって実に多種多様です。

現代においては、新聞やテレビなどのマスコミの報道を通して事件を知り、その理不尽さに憤りを覚えることも少なくありません。犯罪が起これば、どうしてそのような犯行が起きたのか関心を持ち、犯人の特性や動機に関心を向け、推測し、また次の犯罪が起これば、次の対象に関心を向けていく。社会的な影響が大きい場合は、制度や法律が変わる契機となることもある。こうしたことは時代を問わず古くから、繰り返され、社会システムを作ってきています。

「なぜその犯罪を行ったのか」を考えるとき、知りえた事実から本質の動機を導き出すのは困難な作業です。「注意されて腹が立った」というのは引き金にはなっても、それが本当の動機とはいえないからです。

たとえば、なぜあなたは今ここで、この文章に目を通しているのか、を考えるとき、“目に留まったから”とか、“関心があったから”と考えるのは真の意味での動機を理解したとはいえません。同じ刺激に対して、すべての人が同じように反応するわけではないため、その人のパーソナリティを知る必要が出てくるのです。なぜ犯罪を行ったのかという問いに真に答えようとすると、長い年月の中で積み上げた人生の歴史を紐解きながら、非常に複雑な因子をとらえていくことになります。

動機に至った意思決定メカニズムは本人ですら自覚できないことも多い

一般に、こうした加害者の動機を生活史全体で考えながら本質として知る機会はほとんどありません。

少年事件であれば、家庭裁判所の調査官や少年鑑別所での矯正心理専門職などが動機の解明に当たっています。成人の刑事事件では警察や検察、弁護士、裁判官などが加害者と接点を持つものの、刑事訴訟法第一条「この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。」とあるように、動機を解明することが真相の過程にはあっても、最終的な目的ではありません。

また、加害者は、目の前の誘発された刺激を原因とする表面的な動機を述べ、そこに至る意思決定のメカニズムを理解できていないということも少なくはありません。

犯罪が起こるかどうかは不確実性を持つ 直前までは犯行を起こさない選択肢も

筆者は社会内で加害者の心理鑑定や再犯防止心理教育を行っています。具体的には、なぜ非行犯罪を行ったのか、今後どうすれば再発を防げるのか、有効な処遇方法を考えます。

その中で加害者のパーソナリティに注目していくと、実は、加害者自身の状態は不確実性を持って生活をしていることが窺えます。

これは加害者だけでなく、一般にもいえることですが、同じ人であっても、親切な時もあれば、不親切な時もある。発達的な未成熟さゆえに逸脱行為に至ることもある。余裕のある時は信号を守れるが、急いでいて守れない時もあるかもしれない。こうした日常の環境と個人との相互作用の中で、犯罪という逸脱行為は起こっています。

最終的には、その行為は自らの意思決定に基づいていますが、それを導くまでの流れは流動的です。つまり、過去のコンプレックスや欲求不満に基づいた行動も、常に起こっているわけではなく、犯行を起こす直前までは「犯行を起こさない選択肢」も十分にあり得たということになります。

犯罪の背景にあるもの

さて、動機を知る手掛かりが生活史の中にあり、それを解明するためには非常に多くの情報が必要となるということに文字を割いてきましたが、多くの人が知りたいのは、この非行犯罪を形成していく心理的なメカニズムだと思います。加害者にとっての引き金や誘因があるにせよ、加害者がそれを選択し、意思決定するまでの背景に何があるのでしょうか。

これを考えていく際は、育った環境、個人の認知、社会規範に対する姿勢、家族や身近な者との人間関係、刺激と反応との因果関係、自我の成長や発達の面、個人の欲求不満、防衛反応の在り方など様々な個人要因の観点があります。

また犯罪は、個人が生きる社会の在り方との接点の中で起こっています。犯罪行為は、道徳や風習、時代によっても移り変わりますが、基本的には道徳的、社会的に調和した行動をとることが前提で、所属するコミュニティの中で逸脱した行為と捉えることができます。

昨今はSNSや動画配信サービスに代表されるように自己表現の方法や媒体も増え、表現者との接点も増え、自己主張をすることへの抵抗は減少しているともいえます。自己の権利や意見を主張する力が強まったということです。これ自体は問題ではありませんが、そういった風潮の中で自己への抑制をかけるブレーキ力が弱い者もいます。一度感情的になると抑えられなくなってしまう。こうしたことが社会や組織としてのまとまりを弱くしてしまう可能性があるのです。利己的に個人のパフォーマンスを優先して、行き過ぎてしまい、逸脱行為へと発展してしまうこともあるでしょう。

こうしたことを防ぐためには社会ルールを具体的に示し、罰則を強化していくことが考えられますが、罰則のみが先行しては、息苦しく感じてしまうかもしれません。罰則がどのような目的を持って成立しているのかを考え、道徳観や倫理観を養うことが大切です。

中村大輔

音楽療法や犯罪心理学による心理カウンセリングのプロ

臨床心理士

中村大輔さん(神戸臨床心理カウンセリングルーム 研心音)

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