通訳案内士法改正 通訳ガイドに求められるのは?
- カテゴリ:
- 法律関連
外国人観光客が増え続けている背景
爆買いバブルが終わったというニュースが話題になり、落ち着きを見せているかのようにも見えますが、日本に訪れる外国人観光客は年々増加の一途をたどっています。
SNSの普及により、日本の情報が広く細かく伝わるようになり、口コミをきっかけに来日する方が増えているようです。海外の人のFacebook、Instagramでは、日本人にとっても珍しい観光地、日本のお菓子などの写真をよく見ます。テレビ等では、地方に行く外国人観光客の特集が組まれていますね。ディープな日本を体感したい人も増えているのでしょう。以前、私が仕事していたタイでも、日本ファンのサイトが続々開設されているようです。
加えて、治安が良いために安心して訪れやすいといった背景もあると思います。駅などでも、外国人の方で車椅子ご利用のお客様、三世代のお客様も散見されるようになりました。
ガイド不足が問題に。要因は「長続きしない」ことにもある?
外国人観光客が増える一方で、その方々をお迎えするガイドや通訳の不足が懸念されています。6月には「通訳案内士法・旅行業法」の改正案が成立しました。今までは有償でガイドを行うには国家資格が必要でしたが、この法改正が施行されると誰でも有償でガイド行為ができることになります。(ただし、「全国通訳案内士」「地域通訳案内士」などの名称、類似名称を使用できるのは有資格者のみ)
しかし、法改正によって通訳ガイド不足が解消するのかは少し疑問があります。なぜなら、ガイドの資格があるにもかかわらず、その仕事をしていない方に複数お会いしたことがあるからです。
これは、私の想像ですが、もしかしたらガイドという仕事への認識不足や、ミスマッチ(いったん着手はしたもののこんなはずではなかった)によって、長続きしないということも要因ではないかと思います。
通訳や通訳ガイドとは?職業への正しい認識を持とう
通訳や通訳ガイドとは、どんな職業で、何が求められているのでしょう?
まず、「通訳」は翻訳と同様、語学力を活かしてお客様の課題解決をする仕事です。お客様からのご要望に応えていくプロとして、専門分野の知識や日本語の力も磨き、謙虚に成長していく姿勢が求められます。
一方、「通訳ガイド」は外国から来られたお客様に付き添って、日本滞在を楽しんでいただくための各地案内やサポートを行います。
「通訳ガイド」という名称は、「ガイド」よりも「通訳」が先に来ますので、「通訳」にとらわれ過ぎてしまい「語学力を活かす」という印象が強いようですが、実際に求められるのは接客業のスキルです。
接客業に向いている人の第一条件は、まず人と接するのが好きなことです。常に冷静な判断ができ、お客様が安全に旅行できるための気遣いができる人が、ガイドに向いていると考えます。
通訳にとっても、通訳ガイドにとっても、言語はあくまでもツール。語学力は、専門知識や接客スキルがあってこそ活かされるものではないでしょうか。
不測の事態に対応する覚悟はあるか?
「お客様は自分の欲望を必ず押し通そうとする。お前にそんな覚悟があるのか?」
これは、私がタイのホテル業界に入る前、添乗員だった私の父から言われた言葉です。この言葉のとおり、お客様の中には自分の欲望を押し通すまで意思を曲げないような方もいらっしゃいます。
コース外の観光地に行きたいお客様、突然身内同士で喧嘩し怒り出してしまうお客様もいるかもしれません。
また、突然の病気やけがに遭うお客様も。
そんな時、外国から来られたお客様にとってツアー中で頼れるのは、通訳ガイドさんしかいません。ですから、通訳ガイドはお客様の感情に巻き込まれず、その場に適した冷静な判断力、毅然としたリーダーシップ力も求められます。指示を仰ぐ上司もいない中で、不測の事態に対応していく必要があるのです。
覚悟がなければできない、簡単にはいかない仕事と言えるでしょう。
通訳ガイドに求められる基本
不測の事態が起こりうる通訳ガイドは、心身ともにエネルギーを使います。どんな職業にもいえますが、まずは健康管理は重要です。接客業は、簡単に休めませんし、風邪を引いた状態で勤務した場合、お客様に風邪をうつしてしまったり、判断力が落ちることも有り得ます。
次に第一印象。お客様と言葉で挨拶を交わすまでには、身だしなみ、清潔感、柔和な笑顔、所作、姿勢などがわずか数秒でお客様の目に入ってしまいます。通訳ガイドのように、外国のお客様を相手にする場合は、応対する人の印象が、そのまま日本のイメージとして伝わってしまうのです。
その上、通訳ガイドはお客様と長く行動を共にする仕事です。日帰りツアーであっても、数時間~1日お客様と共に行動し、お話し続けなくてはなりません。口臭、体臭の対策はもちろん、接遇時の空間管理、声の音量管理も必要です。
新たに創設された地域通訳士は、地域に光を照らす
今回の法改正ではもうひとつ、「地域通訳案内士」の資格制度が創設されることになりました。「全国通訳案内士」の地域特化版となります。
日本の各地域には、歴史や文化だけでなく、その地域ならではの独特な自然環境、地形、天候などがあると思います。その地域に住む人だからこそ、安全に楽しく旅してもらうための案内ができるのではないでしょうか?
各地域を外国語で案内できる人が増えることは、自治体としても海外へのアピールにもつながります。しかし何と言っても、地域に住む人が自分達の住む所の良さを見直す良いきっかけになる―それこそが、「地域通訳士制度」を創設する醍醐味だと考えます。
接客で必要な英語と心構えを教える講師
佐野なおこさん(横浜サワディーブリッジ)
関連するその他の記事
不正競争防止法の改正その2(後編)
得重貴史さん
国際法務・知財に豊富な経験とスキルを持つ弁護士
不正競争防止法の改正その1(メタバース規制も視野に)
得重貴史さん
国際法務・知財に豊富な経験とスキルを持つ弁護士
相続登記の義務化と手続きの簡略化で所有者不明土地の問題解決へ。放置物件の有効利用は進むか?
能登ゆかさん
相談者の心に寄り添う司法書士
あっせん団体「ベビーライフ」廃業で問題に。特別養子縁組とは?海外に比べ養子制度が浸透しないワケ
半田望さん
市民の法律問題を一緒に解決する法律のプロ