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ドイツで偽ニュース放置企業に59億円罰金へ 日本でも可能性はあるのか? 

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ドイツで偽ニュース放置企業に膨大な罰金を科すことに

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ドイツでは,今般,フェイク(偽)ニュースを放置したソーシャルメディア企業に対し,最大で5000万ユーロ(約59億円)の罰金を科す法案が閣議決定されたとの報道がありました。
しかも,この法案では,企業のみならず,企業の責任者に対しても,最大500万ユーロ(約5億9000万円)の罰金を科すことができるようになっているとのことです。
日本でも,同じような法案が審議されて成立する可能性があるのでしょうか。

日本でも同じような法案が成立する可能性はあるのか

この問題は,憲法21条で保障された「表現の自由」との調整をどのように図っていくのかという極めて重大な課題を抱えているため,単純に法案化できるような代物ではありません。
「表現の自由」には,「知る権利」が含まれています。
より良い社会の仕組みを作って行くためには,国民が様々な情報に接することができ,それに基づいて判断し,これを社会の仕組み作りに反映させることが不可欠であり,メディアは情報を社会に流通させる,すなわち国民の「知る権利」に奉仕する役割を担っています。
もちろん,「表現の自由」といえども絶対的に保障されるものではなく,他の人権との衝突を回避する必要があるなど,「公共の福祉」のために一定の制約を受けるものですが,これが行き過ぎて情報統制が行われるようになると,政権が独善的に国家を運営することが可能となってしまい,却って国家権力により憲法の究極の価値である基本的人権を過度に侵害されることに繋がりかねません。

我が国では,虚偽の情報を流布する行為は,名誉毀損罪(刑法230条),信用毀損罪(同法233条)あるいは偽計業務妨害罪(同条)などで処罰の対象とされていますが,それが公共の利害に関する事実の場合であって,公益を図る目的に出たものである場合には,表現の自由との調整を図るため,真実であると信じるに足りるだけの根拠があれば,実際に虚偽であったとしても違法性はないとされたり,あるいは犯罪の故意がないものとして無罪とされます。

「表現の自由」の価値を蔑にしてしまう危険性に十分配慮した議論が必要

気軽に情報を入手できるインターネット時代においては,情報の真実性をよく確認しないままSNSなどで爆発的に情報を拡散させてしまう危険性があることは否定しませんが,だからといって,ドイツのような法案を成立させてしまうことは,莫大な罰金を科されることを恐れて国民の間に本来広く知らしめるべき情報の提供さえ控えるといったメディアの萎縮的効果を生み出しかねず,健全な民主主義社会からは遠のくことになります。
全体としてみた場合には,そのことの方がよっぽど重大で見逃せない問題なのです。

他の国がどのような動きを見せようとも,我が国においては,新たな刑罰法令を作って罰則を強化するまでの必要性があるのかどうか,「表現の自由」の価値を蔑にしてしまう危険性に十分配慮した議論が必要です。

田沢剛

法的トラブル解決の専門家

弁護士

田沢剛さん(新横浜アーバン・クリエイト法律事務所)

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