尊厳死を法制化することの是非
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尊厳死とは?
いわゆる「尊厳死」とは,不治かつ末期の患者が自らの意思に基づいて延命措置の不開始又は中止を決定し,自然の経過のまま死を迎えることを指します。生命維持装置などの機械による生存を否定し,人間としての尊厳を保って死ぬというところからこのような言葉が用いられるようになりました。
我が国の刑法第202条は,「人を教唆し若しくは幇助して自殺させ,又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は,6月以上7年以下の懲役又は禁錮に処する。」と定めており,自殺関与や本人の同意がある殺人でも処罰の対象としています。
もしも人間に死ぬ権利が認められるというのであれば,自殺関与や本人の同意がある殺人が処罰の対象となるのはおかしなこととなります。
医療従事者など第三者が関与する場合の法律がない現状
他方で,尊厳死の場合には,自然の経過のまま死を迎えることにするわけですから,これを直ちに自殺という概念で捉えるわけにはいかないところですが,ただ,医療従事者などの第三者が関与することとなった場合,生命維持装置で生存している患者の死期を早めることになりますので,その行為が処罰の対象とならない正当なものか否かの線引きは非常に難しい問題です。
尊厳死を認めるのか,どのような要件があれば認められて,医療従事者が責任を問われることがないのかについては,明確に定めた法律がありませんので,患者の治療に携わる医療従事者にとっては,非常に悩ましい問題となります。
1990年代から2000年代にかけて,患者に対する治療を中止した医師が検挙される事件が相次いだことを考えますと,尊厳死を認める場合の要件を明確に法律で定めておく必要があるというのも理解できなくはありません(厚生労働省が平成19年5月に「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」を定めたのも,そういったことが背景にあったのでしょう。)。
尊厳死を法制化するか否かは非常に難しい問題
しかしながら,2012年に尊厳死法案が国会に提出されようとしたとき,難病支援団体などは逆に法制化に反対しました。
尊厳死を法制化してしまうと,周囲からの圧力で「もっと生きていたい。」といった意思を表に出せなくなり,本来の意思が踏みにじられかねないといった危惧があることが理由です。
本人の意図しないところで尊厳死が強要されてしまうようでは,本来の尊厳死の概念とは相容れません。
尊厳死を法制化するか否かは,医療従事者の予測可能性の確保と患者側の真意の尊重といった異なる要請にどう折合いをつけるのかといった問題となりますので,そう簡単に結論を出せるものでないことに違いありません。
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