法廷通訳人 誤訳は冤罪の危険性をはらむ
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日本の裁判に外国人が関係するとき不可欠な法廷通訳人
我が国の裁判所では日本語を用いることが法律によって決まっています。
日本の裁判に外国人が関係する場合には、外国人が適正に裁判に関与できるよう、法廷通訳人の存在が不可欠です。
例えば、刑事裁判の被告人が外国人の場合、裁判官や検察官、弁護人あるいは証人などの言葉を外国語に通訳し、被告人の言葉を日本語に通訳しなければなりません。
証人が外国人というパターンもあり得ます。
言葉はコミュニケーションのための大切な道具ですから、日本語がわからない外国人が裁判に適正に関与するためには、法廷通訳人がたいへん重要な役割を果たすことになります。
そのため、法廷通訳人は中立かつ公正な立場から、法廷で発せられた言葉を誠実かつ正確に通訳することが求められます。
そうでなければ、被告人の人権を保障し、適正な裁判を実現することができないからです。
法廷通訳人の誤訳から冤罪を生む危険性も
ところが、このほど、東京地方裁判所で殺人未遂罪などに問われた「元日本赤軍メンバー」の被告人に対する裁判員裁判において、法廷通訳人がたいへん多くの「誤訳」をしていた事実が判明しました。
被告人は、インドネシアのジャカルタで日本大使館に向けて爆発物を発射したなどとして起訴されましたが、公判では、現地ジャカルタで捜査に当たった警察官やホテル従業員らが検察側証人として尋問が行われました。
その際、日本人の法廷通訳人が、証言内容を極端に短く通訳するなどインドネシア語の不自然な通訳が目立ったとされています。
その後、法廷での「録音」を基にして東京地裁があらためて「鑑定」を実施した結果、法廷通訳人の「誤訳」や「通訳漏れ」が数多く見つかりました。
しかし、裁判所は、「鑑定によって誤訳等は補正された」として、証人尋問のやり直しを行いませんでした。
裁判員裁判に限らず刑事事件では、法廷における証人尋問等のリアルな受け答えが重視されますので、法廷通訳人の言葉のひとつひとつが、裁判員や裁判官の心証形成に大きな影響を与えます。
すなわち、法廷通訳人の「誤訳」には、被告人の防御権を著しく阻害したり、場合によっては「冤罪(えんざい)」すら生みかねない危険性が隠されているのです。
法廷通訳人の資格制度を早急に整備すべき
最大の問題点は、法廷通訳人になるためには何らの「資格」も不要であり、「語学力」に関する試験制度も存在しないことです。
通訳人の「語学力」はあくまで「自己申告」に過ぎず、裁判官が面接を実施し、その裁判官の判断で法廷通訳人の名簿に搭載されれば、「実力」の有無にかかわらず、法廷に立つことが出来てしまうのです。
如何なる「実力」の持ち主が法廷通訳人になるかによって、被告人の命運がわかれてしまうという重要な局面なのですが、被告人が法廷通訳人を選任する自由はなく、まさに「運を天にまかせる」ほかないのです。
平成27年に第一審が終結した刑事事件中、外国人の被告人のうち約2700人に法廷通訳人がつき、39種類の言語が日本語に通訳されました。
しかし、これらの事件においてすべて正しい通訳がされたかどうかをチェックするシステムはありません。
今回の東京地裁の場合は、通訳内容がかなり不自然だったため、あらためて「鑑定」という手法を用いて「誤訳等の補正」を実施することが出来ました。
しかし、通常の場合は、不幸にして「誤訳」があったとしても、誰にも知られることなく「スルー」されてしまうのが現状なのです。
アメリカやオーストラリアなどには法廷通訳人の資格制度があると聞きます。今回の東京地裁事件を機に、諸外国を見習って我が国でも法廷通訳人につき試験に基づく資格制度を導入し、一定の語学水準及び通訳能力を保障する仕組みを策定することが急務と言うべきでしょう。
そろそろ最高裁も「重い腰」を上げるべき時期が来たと言わなければなりません。
職人かたぎの法律のプロ
藤本尚道さん(「藤本尚道法律事務所」)
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