アイドル女性刺傷事件 ストーカー規制法の概要と「死角」は
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ネットストーカー行為に対して法的対処は可能か?
アイドル女性に対する刺傷事件で、Twitter等のSNSでの嫌がらせ行為(ネットストーカー行為)に対する法的対処が可能かどうか、が現在問われています。
ストーカーに対する規制としては,1990年代後半に「異常なつきまとい行為」が殺人にまで発展した事件を受けて、平成12年(2000年)に「ストーカー行為等の規制等に関する法律」(いわゆるストーカー禁止法)が制定されました。
ストーカー禁止法は、「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で」同法所定のつきまとい行為を本人や親族等に対し行い、当該行為が反復する可能性がある場合に、警察がストーカーに対し警告を行い、あるいは当該行為の禁止を命じることができると定めています。
また、ストーカー行為それ自体に罰則を設けるとともに、禁止命令に違反した場合には罰則を加重しています。
SNSなどを想定していない現行のストーカー規制法
しかし、同法で規制されるストーカー行為は、法律が定める特定の行為に限られています。
具体的には、恋愛感情等の目的で(1)つきまといや待ち伏せ、(2)監視していると告げること、(3)面会、交際の要求、(4)著しく乱暴な言動、(5)無言電話や連続メールなど、(6)汚物などの送付、(7)名誉を害することを告げること、(8)性的嫌がらせなどの行為に限定されます。
ところが、今回の事件ではSNSでの嫌がらせや、何らかの危害を及ぼすことを示唆するブログ等の書き込みがありましたが、これらはストーカー規制法で禁止対象とされている行為ではありませんでした。
そのため、これらの行為だけではストーカー規制法による措置が取れなかったことになります。
ストーカー規制法が制定された当時はまだSNSも普及しておらず、ストーカー行為といえば直接のつきまといのほか、電話やメールといった手段を規制すれば十分でした。
しかし現在ではコミュニケーション手段がメールからSNSに変化するなかで、ネットストーカー行為の増加が問題となっています。
警察庁でも約2年前からSNSによるストーカー行為の増加が見込まれるとして、速やかに法改正を行い、規制対象をすべきという報告書が出されていたとも報じられています。
しかし、法改正はまだなされていません。
法律を改正しない限りネットストーカー行為を規制できない現実
なお、読者の方には、法改正を待たずに解釈や運用でSNSを対象としてもいいのではないか、とお考えの方もおられるかもしれません。
しかし、ストーカー規制法は人の行為を規制し、違反した場合には刑罰が予定されている法律です。
憲法は31条において「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」と定めていますので、法律を改正しない限りネットストーカー行為を規制対象とすることはできません。
まどろっこしいようにも思えますが、時代や社会情勢によって刑罰法規の解釈が変わることは予想外の行為を処罰することにつながりますので、この原則を緩めるわけにはいかないのです。
また、今回の事件を受けて、ストーカー規制法のSNSへの対応が進むかもしれません。
しかし、ストーカー規制法によって一定の歯止めがかかるとしても、刑罰はその性質上「起こってしまった事件」に対処するものであり、ストーカー行為を完全に防ぐことは法律や刑罰では不可能です。
ストーカー行為から身を守るには、危険を感じた場合には身辺に十分な注意をするとともに、早めに警察や弁護士に相談していただき、取り得る手段を講じていくしかありません。
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