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「脱ゆとり」では変わらない日本の教育

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馳浩文科大臣が脱ゆとり宣言

図1

馳浩文科大臣が「教育の強靱化に向けて」と題するメッセージを発表し、2020年度から実施される学習指導要領のポイントを説明しました。まず、「『ゆとり教育』か『詰め込み教育』か、といった二項対立的な議論には戻らず、知識と思考力の双方をバランスよく確実に育むという基本を踏襲し、学習内容は削減しない」としています。

また、アクティブ・ラーニングを導入して議論形式の授業を増やすと知識獲得の軽視につながるとの懸念に対しては、学習知識の量は削減せずに学習過程の質的改善を行うとして、文科省として「脱ゆとり」を正式に宣言しました。

1980年からスタートしたゆとりカリキュラム

国の教育方針が示される学習指導要領は、各時代の社会背景を反映して、詰め込みとゆとりの間を揺れ動いてきました。
1971年改訂の学習指導要領では、60年代の高度経済成長に呼応して「現代化カリキュラム」といわれる過密な授業内容が導入されましたが、教科書をすべて消化できないまま進級・卒業させたり、大量の「落ちこぼれ」を生みました。

その反省から指導内容を大幅に精選して授業時間を減らしたのが、1980年からの「ゆとりカリキュラム」です。
次の1992年改訂では、学習過程や変化への対応力の育成などを重視する「新学力観」が登場し、教科の学習内容はさらに削減されました。

ゆとり制度の進展により日本の学力の大幅低下を招くことに

バブル経済が崩壊し、低迷する経済を背景に登場した2002年改訂版では、学習内容の一層の厳選、完全学校週5日制の実施、総合的な学習の時間の新設など、それまで段階的に拡大していたゆとり路線が強化され、一段と授業時間が減りました。

ところが、2004年と2007年に発表された「OECD生徒の学習到達度調査」(PISAテスト)では、日本の読解力と数学リテラシーの順位が2回連続で大幅に下がってしまいました。
いわゆる「PISAショック」を受けて改訂された2011年学習指導要領では、過去3回の改訂で減り続けてきた授業時間が30年ぶりに増加、「脱ゆとり」教育へと舵を切ったのです。

現代カリキュラムが導入された1971年とゆとり教育ピークの2002年の小学校の授業時間数を比べると、実に約14%もの違いがあります。これはほぼ一年分に匹敵する時間で、現在二十歳代の若者たちが「ゆとり世代」とレッテルを貼られ揶揄される一因でもあります。

彼ら自身がゆとり教育を望んだのではないにもかかわらず、実社会で通用しないという先入観で見られるうえに、今回の馳大臣による「脱ゆとり宣言」で自分たちが受けた教育を否定されたようで、複雑な感情を抱いた若者も多いようです。

現在の受動型集団一斉教育からの脱却が重要

「詰め込み vs. ゆとり」どちらの教育方針にしても、学習者自身に教育上の選択権が少ないことが問題の本質です。
文科省はここ20年近く通達や審議会等において、21世紀には「自ら学び主体的に判断し、自分の考えで行動し、よりよく問題を解決する」能力が必要で、「一人ひとりの個性に応じてその能力を最大限に伸ばす」教育が不可欠だと表明しています。

しかし実際には、年齢で学年が自動的に決まり、全員一律で小学生から指定された教科書を使い、決められた時間割に従って同じ授業を受け、年間授業時間数まで科目ごとに細かく規定されている「受動型集団一斉教育」のままで、教育の基本的な形は明治以来100年以上ほとんど変わっていません。

憲法26条では「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」とされ、「年齢に応じて」とは書かれていません。
学習指導要領の内容そのものは世界でも最高水準だと思いますが、その運用は非常に硬直的です。

21世紀は、LGBTの権利や選択的夫婦別姓制度など個人の趣味嗜好や多様な生き方が尊重される時代です。
教育においても、全員一律という時代錯誤の発想を捨て、子どもたち一人ひとりの能力や興味関心に合った柔軟な個別カリキュラムを導入することが不可欠です。

21世紀型個別+自律教育のプロモーター

小松健司さん(21世紀教育応援団 アイパル)

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