知っているにも関わらず!性病隠しての性交渉は罪?
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過去に最高裁での裁判例が存在
ロイター通信などによれば、先日、HIVへの感染を公表した米俳優チャーリー・シーンさんが、元交際相手の女性からHIVの感染を知らされずに性的関係を持たされたなどとして、損害賠償を求める訴訟を提起されているとのことです。
HIVやいわゆる性病に感染していることを知りながら、それを隠して性行為を行った場合、日本の法律では法的責任が問われるでしょうか。この点が争われた刑事事件に関しては、実は最高裁判所の裁判例があります。昭和27年というかなり古い裁判例ではありますが、この事件では病気治療のためとして被害者の承諾を得て性交類似行為をした結果、淋病を感染させたという事案で、傷害罪と性病予防法違反の成立が問題となりました。
傷害罪の成立には2つのポイントが存在
最高裁判所は傷害罪が他人の身体の生理的機能を毀損(きそん)するものである以上、その手段を問わないとした上で、いわゆる「暴行によらずに性病という病毒を他人に感染させる場合」にも成立するとしました。そして、この事件では被告人が性病を感染させる懸念があることを認識しながら性交類似行為を行い、それにより他人に病毒を感染させた以上、当然に傷害罪が成立すると判断しています。
この最高裁判所の判例は現在も変更がないと思われるため、日本の法律では自分がHIVや性病に感染していることを知りながら性行為などを行い、結果として他人に性病を感染させた場合には、傷害罪が成立し刑事的に処罰される可能性が高いといえます。ただし、ポイントが2つあります。1つは、傷害罪が成立するためには本人が性病に感染していることを「認識」している必要があること、もう1つは実際に他人に性病などを「感染」させた場合である必要があることです。
精神的苦痛に関する慰謝料が認められる可能性も
自分が性病に感染していることに気付いていない場合には、理論的には過失傷害罪の成否も検討されますが、感染に気付くべきだったという注意義務の違反(過失)というものはなかなか観念しにくく、また立証の困難さを考えても現実にこれを処罰することは難しいと思われます。また、結果的に相手を感染させなかった場合には、本人が他人に感染させる可能性を「認識」していても犯罪は成立しません。
以上は刑事事件の問題ですが、自分が性病に感染していることを認識しながら、これを隠して避妊具などを装着せずに他人と性交渉を行った場合には、不法行為(民法709条)が成立し、民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。冒頭で紹介したニュースは、この民事上の損害賠償を請求するものとなります。
民事上の損害賠償が争われた場合には、結果的に性病に感染しなかったとしても、特にHIVのように感染後にAIDS(エイズ)を発症した場合など、生命に重大な影響を及ぼす可能性がある場合には、HIV感染を隠して性行為をさせられたこと自体から、精神的苦痛に関する慰謝料が認められる可能性は十分にあると考えられます。
交通事故と債務問題のプロ
永野海さん(中央法律事務所)
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