認知症患者が起こした事件、家族が損害賠償責任を負う可能性は?
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責任能力がなければ、加害者に損害賠償責任は発生しない
平成27年10月28日、認知症を患った73歳の男性が宮崎市の中心部の歩道上で軽自動車を700メートルも暴走させ、多数の死傷者を出した事件は記憶に新しいところです。しかし、民法713条は、「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。…」と定めているため、加害者に責任能力がなかった場合には、加害者自身が損害賠償責任を負うことはありません。
では、認知症を患った加害者が責任無能力者であるがゆえに被害者に対する損害賠償責任を負わない場合、加害者の家族が損害賠償責任に問われることがあるのでしょうか。加害者の家族が被害者に対して損害賠償責任を負う根拠として考えられるのは、民法714条です。その第1項は「…責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。但し、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、またはその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りではない」、第2項では「監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う」と定めています。このため、加害者の家族が法定監督義務者、または代理監督義務者であった場合には、責任を負う可能性があります。
扶養義務があるからといって法定監督義務者にはならないが…
これまでの裁判例を見てみると、加害者の配偶者については民法752条が夫婦の同居協力扶助義務を定めていることから、他方配偶者が認知症等の精神疾患に罹患した場合には、基本的にはその生活全般について配慮ないし監督する義務があるものとして法定監督義務者とされています。
他方、それ以外の家族については、親族としての扶養義務があるからといって、直ちに法定監督義務者とされるわけではありません。それは同居をしていた場合でも同じです。認知症等の精神疾患に罹患した者と同居し、事実上監督し得る立場にあったというだけでは、法定監督義務者として重い責任を負わせるわけにはいかないからでしょう。もちろん、家庭裁判所から成年後見人に選任されているということになると話は別です。
実際の判例から見る加害者家族の責任
加害者の家族がそもそも責任を負うのか、あるいはどのような場合に責任を負うのかについても、実際の裁判例から見てみます。平成19年12月に愛知県大府市で認知症の男性がJRの駅構内の線路に立ち入り、列車と衝突して死亡した事故がありました。JR側は男性の遺族に対して損害賠償請求事件を起こしましたが、現在も裁判所にて係属中であり、名古屋高裁の控訴審判決は男性の配偶者の責任を認める一方で、同居はしていなかったものの男性の介護等に継続的に関与していた長男の責任を否定しました。
しかしながら、最高裁の上告審では、口頭弁論が予定されており、控訴審判決が見直される公算が高いとされています。最高裁判決において具体的な判断枠組みが示されるものと見込まれているため、高齢化社会における家族の責任ないし、リスクを考える上で極めて注目されるところです。
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