ホテルや飲食店のキャンセル料は払う必要があるか?
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ホテルや飲食店などのキャンセル規定
中国人客の予約を拒否したと一部メディアで報じられた東京・銀座の高級すし店に、差別的な意図があったのではないかとする報道がありました。店側は予約時のルールについて外国語で説明できるスタッフが不在だとし、「人数に合わせてネタを仕入れているし、断る客もいる。それで来ないということになるとこちらも困る」と説明しています。
ホテルやレストランを予約したものの、後に都合が悪くなってキャンセルすることはよくある話かもしれません。ネット上でも、キャンセル料について払う必要があるのかなどの質問が数多く見られます。そこで、ホテルや飲食店などのキャンセル規定について、その法的効力を考えてみましょう。
客側に損害賠償責任が生じるのは当然
キャンセル料の詳細については、通常、予約を取る際に事前に説明があったり、宿泊約款や料金表などに記載されていたりすることが多いようです。一旦、宿泊契約ないし飲食契約が成立した以上、これを一方的に破棄して契約の相手方に損害を生じさせた場合には、破棄した側に相手方(ホテルやレストラン)に対する損害賠償責任が生じるのは当然です。
その場合の損害額を予め合意(これを「賠償額の予定」といいますが、「違約金」も通常は損害賠償の予定です)しておけば、相手方は、実際に生じた損害の立証をしなくても、これを請求することができます。
つまり、事前に説明されているキャンセル料は、この「賠償額の予定」ということになり、かつてはこれが暴利行為と評価されなければ、公序良俗に反して無効とされることはなく、裁判所もその額を増減することができませんでした(民法420条)。
平均的な損害額を超える請求はできない
しかしながら、消費者と事業者との間には、取引に関して「情報の量及び質並びに交渉力の差」があるため、契約をした消費者に単純に自己責任を求めることが適当でない場合があることが認識されるようになりました。
そこで、平成12年に消費者を保護するための消費者契約法が制定され、民法の基本原則が修正されています。その消費者契約法9条1号によれば、キャンセル料を定めた条項も、消費者側のキャンセルによって相手方たる事業者に通常生ずる平均的な損害額に相当するキャンセル料の支払義務を負わせるところまでは認めるものの、それを超える部分は認めないものとされています。
ホテルやレストランのキャンセル料も、キャンセルによりホテルやレストランの側に通常生ずる平均的な損害額が限度となり、それを超える部分を支払う必要はありません。極端なことをいえば、代わりの予約を獲得できる時期のキャンセルであれば、キャンセル料を一切支払う必要はないということになるわけです。
言いなりで支払わないよう注意を払うことも肝要
この「相手方たる事業者に通常生ずる平均的な損害額」を超える部分が無効であることについては、最高裁により、業界の事情に詳しいわけではない消費者側が立証しなければならないものとされてしまったため、消費者保護を目的とする法律の趣旨に照らせば疑問は残ります。
それでも、実質的に「損害賠償の額を予定」又は「違約金」であれば、解約金、キャンセル料、事務手数料など、名目の如何を問いませんので、ホテルやレストランの側の言いなりで支払わないよう注意を払うことも肝要でしょう。
ちなみに、この消費者契約法は、あくまでも消費者と事業者との契約に適用されるものですので、ホテルやレストランを利用する顧客の側も事業者であった場合には、適用されないことを付言しておきます。
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