司法試験「合格3000人」撤回。どうなる法曹改革
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新司法試験の合格率は2~4割。地方の法科大学院は募集停止へ
政府の「法曹養成制度関係閣僚会議」は7月16日午前、司法試験や法科大学院の在り方に関して司法試験合格者を年間3000人程度とする政府目標を撤回し、実績が乏しい法科大学院に定員削減や統廃合を促すことを改革方針として決定しました。
「社会のニーズに応えられる法曹を養成する」との旗印のもとに作られた法科大学院制度が、今、崩壊し始めています。制度が発足した当時は、法科大学院修了者の7~8割が新司法試験に合格するものと見込まれていましたが、実際の合格率は2~4割にとどまっています。また、合格者の多くは有名大学から輩出され、合格率の低い地方の法科大学院は志願者から敬遠されて定員割れを起こし、やがては募集停止へ追い込まれるというケースが目立つようになりました。
加えて、平成23年からは、法科大学院を経由しないでも新司法試験受験資格を与えられる「司法試験予備試験制度」が導入されたため、時間的・経済的負担の大きい法科大学院を回避して新司法試験を目指す受験生が増加したことも、地方の法科大学院の定員割れや募集停止に拍車をかけたと考えられます。
司法試験に合格しても失敗しても大きなリスクを伴うように
このことは、法科大学院への志願者そのものが減少しているという背景もあるようです。すなわち、新司法試験は、法科大学院修了後5年以内に3回の受験しか認められていないため、失敗した場合には、年齢的にも容易に就職できなくなるといったリスクが伴います。また、法科大学院制度が設立された当初に念頭にあった「法曹に対する需要の増加」が実際にはそれほどのものではなかったため、合格者の大増員が就職難を生み出しただけでなく、過当競争を引き起こし、経験豊かな弁護士の収入さえも奪ってしまいました。
仮に、試験に合格して司法修習生になったとしても、以前は給費制(国家公務員の給与に当たるもの)だったものが貸与制となってしまった結果、修習期間中に生活のために借金を重ねるだけでなく、弁護士資格が得られたとしても就職難が待ち構えているとなると、即時独立を強いられることになります。ただ、これに耐えられるだけの経済的基盤を有していなければ即時独立さえも叶わないことになるのです。
法曹は、人の一生を左右しかねない重要な仕事
こういった事情から、法曹という職業自体が、そのようなリスクを冒してまで志願するほど魅力のある職業といえるのか疑問を抱かざるを得なくなってしまったという声も聞かれます。法曹は、人の一生を左右しかねない重要な仕事です。質の高いサービスを提供して然るべきであるにもかかわらず、過当競争の結果、質の低いサービスしか提供できない法曹が毎年のように生み出され、増え続ければ、それこそ国民にとっては大きなマイナスとなります。現状を直視し、制度のどこに問題があったのかをしっかりと検証しなければ、よりよい法曹養成制度を作り上げていくことはできないでしょう。
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