新旅券交付も制限あり!国に対する訴訟の行方
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外務省がイラクとシリアへの渡航を制限する旅券を発行
外務省は今月、新潟市のフリーカメラマン杉本祐一さんに対して、イラクとシリアへの渡航を制限する旅券(パスポート)を交付しました。杉本さんは、今年2月にシリアへの渡航を計画した際、一度旅券を返納させられており、今回の旅券は新たな旅券の発行ということになります。
しかし、杉本さんは今回交付された旅券に渡航先の制限があったことから、国に対して訴訟を検討しているようです。杉本さんが訴訟で争うことが予想されるポイントは、主に2つあります。
権利・自由の重要性とそれを制限する必要性
一つは、旅券法に基づく今回の渡航先の制限が、憲法22条2項で保障される海外渡航の自由を侵害するものとして、憲法違反ではないか。もう一つは、今回の渡航目的が取材目的だとして、表現の自由、知る権利などとの関係から憲法21条で保障されるべき取材の自由を侵害するものとして憲法違反ではないか、という点です。
まず前提として、海外渡航の自由は、確かに憲法22条2項の「外国に移住」する自由に含まれるものとして憲法で保障されています。しかし、その自由は無制限ではなく、公共の福祉のために合理的な制限に服するとされています(帆足計事件最高裁判決)。また、取材の自由も若干微妙な表現ながら、最高裁は憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値すると言明していますが、こちらもやはり無制限に保障されるわけではありません。
結局は、憲法で保障される権利・自由の重要性と、それを制限する必要性を何らかの基準により比較して憲法違反であるかを判断することになります。
渡航目的がどのようなものであったか
今回の事案は、取材を目的にシリアに渡航しようとした杉本さんに対し、シリアなど危険な国への渡航を制限した旅券を発行したというものです。他方で現在、国は全ての日本国民にイラク・シリアへの渡航を制限した旅券を発行しているわけではなく、現にシリアに渡航しようと思えば通常の旅券を使ってさまざまなルートで渡航し得る状況にあります。
つまり、今回の旅券の制限は杉本さんの渡航目的等を考慮し、特に危険性が高いと国が判断し、特別に一般旅券を発行しなかったものということです。だとすれば、杉本さんの今回の渡航目的がどのようなものであったかを考えることが重要ではないのでしょうか。
海外渡航や取材の自由に対する不当な制約ではないか
この点から、杉本さんは以前の会見の中で、実際にはシリアに入国するかは最終的に決めていなかった、あるいは過激派組織ISILの支配地域に入るつもりはなかったと回答しています。
杉本さんの渡航計画がどのようなものであったのかは、仮に訴訟になれば訴訟の中で事実認定されていくことになりますが、いずれにせよ、杉本さんの渡航目的について国がどのような調査を行ったのか、その上でどのような事実を認定し、どんな理由で渡航先の制限を決定したかという過程が重要になってくると思われます。
海外渡航や取材の自由が憲法で保障ないしは尊重されている以上、国が安易に制限することは許されません。単に、危険地域だと国が考えている場所に渡航する可能性がある、というだけで渡航が制限されてしまうというのは、さすがに行きすぎでしょう。
だとすれば、杉本さんが計画していた渡航内容が真に危険なものであり、その渡航計画が実施される蓋然性も非常に高かったということが、国による強制的な制約を正当化する上でのスタートラインになるように思われます。このあたりを含め、両者の主張に注目する必要があるでしょう。そして、実際の憲法判断では、それらの事実が前提とされたとしても、さらに本件が海外渡航や取材の自由に対する不当な制約ではないかが、検討されなければなりません。国に求められる主張、立証のハードルはそれほど低いものではないかもしれません。
交通事故と債務問題のプロ
永野海さん(中央法律事務所)
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