ナンセンスな議論?「自撮り棒」で罰金・懲役の真相
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知らずに使っていれば「罰金・懲役」の対象になるという話も
スマートフォンやカメラで自分を撮影しようとする際、他人の手を借りなくても離れた位置から撮影できるグッズとして開発された「自撮り棒」が人気を集めています。欧米でも「セルフィー」との呼び名で注目され、米国のTIME誌では昨年のヒット商品として紹介されたようです。
通行人に頼んでシャッターを押してもらわなくても良いため、自分が気に入る場所やタイミングで何枚でも撮影できるなど便利な点は多いのですが、最近は普及に伴い、使用を規制する動きも出ています。
また、「自撮り棒」の中には違法なものもあって、それを知らずに使っていれば「罰金・懲役」の対象になるという話も出回っています。実際に使用している人にとっては、落ち着かない話題かもしれません。
リスク管理の問題で使用を禁止する動きも
規制する動きとしては、東京ディズニーリゾートが「自撮り棒」を禁止したという話があります。これは、人ごみの中で長い棒状の「自撮り棒」が他人に危害を与える恐れがあるからだと考えられ、何も規制せずに「自撮り棒」を使用している人が他人にけがを負わせるようなことがあれば、施設の側も管理責任を問われかねないというリスク管理の問題があるのでしょう。
北陸新幹線が開通した金沢駅などでも、「自撮り棒」が禁止されているということです。これは、「自撮り棒」が他人に危害を与える恐れだけでなく、列車に電気を供給する高圧電線に電気を通すものを近づけるだけで感電の恐れがあるという、より高度なリスク管理のためということです。
理論上は「罰金・懲役」のリスクもある
さらに、施設側のリスク管理とは別に、「自撮り棒」を使用することが犯罪になるという話も出回っています。「自撮り棒」の中のBluetoothという通信規格を利用するタイプのものが、電波法の規制対象になるからです。電波法4条によれば、小電力無線局は適合表示無線設備とされ、「技適マーク」が付いていない機器を使用することが電波法違反になります。外国で通信機器として適合されていても、日本の「技適マーク」がなければ違法なので注意が必要です。
そして、電波法4条違反は、電波法110条により1年以下の懲役又は100万円以下の罰金と規定されていますので、理論上は「罰金・懲役」のリスクがあるということになります。実際にそうした危険性に言及した記事などもネットで見かけますが、個人的な感覚としては、こんな議論はナンセンスでしょう。
有罪になることは、常識的には考えられない
刑事罰に処せられるためには、処罰法規に違反しているということを捜査機関が認識し、それを捜査・立件して検察庁に送致したうえ、検察官が処罰相当性を判断して起訴するという一連の流れが必要です。
多忙な警察官が、わざわざ「自撮り棒」の「技適マーク」をチェックして立件するかという問題もあり、検察官も違法であれば必ず起訴するわけではなく、違法であっても処罰の必要はないと判断した時には起訴猶予という処分をすることもあります。一般ユーザーが「技適マーク」のない「自撮り棒」を使っていただけで有罪になることは、常識的には考えられません。
ということで、「自撮り棒」を使っただけで懲役や罰金の恐れがあるという話は、ほかの事情が重なって処罰相当とされない限りは心配ないとは思います。しかし、理論上処罰の可能性がゼロではないので、君子危うきに近寄らずと考え、Bluetooth利用の「自撮り棒」購入を考えている方は、「技適マーク」をチェックした方が賢明かもしれません。
弁護士と中小企業診断士の視点で経営者と向き合うプロ
舛田雅彦さん(札幌総合法律事務所)
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