児童に遺体映像、教育現場と世間に認識のズレ
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教師が遺体画像を児童に見せたことが問題に
2月に名古屋の小学校で、5年生の社会科の授業中に、20代の女性教諭が過激派組織ISILに殺害された日本人男性の遺体画像を修正なしに児童に見せたことが、多くのメディアで取り上げられました。全国の学校現場で同様のケースが相次いだことから、3月4日に文部科学省が40年前の通達に言及して「補助教材の適正な取扱い」について、あらためて注意を喚起する通知を出しました。
問題とされた名古屋の小学校のケースでは、「情報化が進むことの利点と問題点」を児童に討論させることが授業の目的だったようです。4年前の東日本大震災後、被害者に再び精神的苦痛を与えないよう考慮して津波関連の映像を極力流さないメディアが増えた一方、津波の恐ろしさや被害の大きさを世界に直接訴えるには、映像が非常に効果的であるためです。
テーマそのものは、メディアの存在意義を考えさせる非常に良い設定だったと思います。しかし、これを論じるために遺体の映像が必要不可欠であったのかは疑問です。ぼかし入りの写真や他の題材でも、授業の目的を達成することはできたでしょう。「見たくない人は下を向いているように」と指示したそうですから、不快と感じる子どもがいるであろうことを教諭も認識していたはずです。後に教諭自身が反省しているように、児童に対する配慮が足りなかったと言われても仕方ありません。
学校の「常識」と世間の考え方が一致しないケースが増加
授業で使う補助教材の選定は、現場の教師の裁量に任されています。今回の文科省通知でも「何が適切なのか」、具体的な基準が示されてはいません。ただ、補助教材は「児童生徒の心身の発達段階に即していること」としながら、同時に学習内容が学年(年齢)一律で規定され、一人ひとりの学力程度などは考慮していない「学習指導要領の趣旨に従っていること」を求めています。
また、教科書検定では異論を排除していながら、「特定の見方や考え方に偏った取扱いとならないこと」とも指示しています。これらは矛盾があり、混乱を招くようにも思えます。教員の大多数が、真面目で誠実な教育者であることに疑いはありません。本来であれば、わざわざ40年も前の通達を持ち出してあらためて注意を喚起しなくとも、現場の判断を信頼すれば済むことです。しかし、21世紀に入り情報が溢れる時代になり、人々の価値観が多様化し、学校の中の「常識」と世間の考え方が必ずしも一致しないケースが多くなってきたのかもしれません。
教育現場が必要以上に慎重になることは避けてほしい
学校という、子ども相手のある種特殊な空間に閉じこもるのではなく、一般民間企業との定期的な人事交流を制度化する、または一般社会人経験者の採用枠を拡大するなど、教育界でも現実社会の縮図となるような多様性を確保する仕組みが必要でしょう。
社会で生きる術を教えることが教育の目的の一つであるならば、数週間の教育実習だけで大学卒業後、すぐに教壇に立つことの是非や、教員のうち民間企業などの経験者の割合がわずか数%という現状を含め、現在の教員採用制度を再考する必要があると思われます。いずれにせよ、文科省や教育委員会から指示を受けた教育現場が、事なかれ主義から思考停止に陥り、必要以上に慎重になることは避けてほしいものです。
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小松健司さん(21世紀教育応援団 アイパル)
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