病院を苦しめるモンスターペイシェント急増、対処法は
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医療スタッフに対する執拗なクレームから土下座の要求まで
教育現場で教師や学校を苦しめる「モンスターペアレント」については、用語としてもかなり浸透してきているように思いますが、最近では、医療の現場で医師・看護師などの医療関係者に理不尽な要求をする「モンスターペイシェント(患者)」が増えていると報道されています。
モンスターペイシェントといっても一様ではなく、(1)医療側の小さな落ち度を取り上げて不当な要求をする(2)患者として自分が望むような医療行為を受けられないことに対する不満を一方的にぶつける、などが挙げられます。
具体的な行動としては、医療スタッフに対する執拗なクレームから、「訴える」「刺す」などといった脅迫や暴力から、土下座などの度を越した謝罪の要求までありますが、ここではその法的意味と対策を考えてみます。
日本の場合、賠償額は被害者が被った損害の範囲に限定される
例えば、上の(1)のパターン。医療側の落ち度が医療契約に基づく債務不履行や不法行為に当たるのであれば、損害賠償が必要になる場合もあります。しかし、日本の場合には、その賠償額は被害者が被った損害の範囲に限定されますので、小さな落ち度があったとしても賠償額として大きなものになることはほとんどありません。
それを、金銭的な要求はしないで、執拗なクレームをつけたり脅したりするというのは、根負けをした医療機関側が、本来の賠償義務の範囲を超えて、自発的に何らかの支払いをするようにさせたいと思っていることが多いと考えられます。これは、恐喝、強迫といった犯罪ととられても仕方がないものですが、具体的な金銭の要求がなければ恐喝罪を認定することは難しいので、患者側は金銭的な請求をせずに、長時間、医療機関側を非難するという行為を続けるわけです。
自覚的なモンスターペイシェントには毅然と対応
このような行為は、一見対応が難しいように思うかもしれませんが、患者側も目的があって行っていることがほとんどなので、いくら頑張っても達せられないとわかれば、その時点で諦めて次のターゲットを探すようになるでしょう。したがって、毅然と対応することです。例えば、小さな落ち度を取り上げて、「監督官庁に言うぞ!」などとすごまれたとしても、過ちは元には戻らないため、「言われてもしょうがない」と腹をくくることで不当な要求を回避できます。窓口などで大声を上げるようであれば、業務妨害として警察に協力を求めることもできます。
また、このような自覚的なモンスターペイシェントの場合には、自分が理不尽な要求をしていることの証拠が残ることを嫌がりますので、「今後この件に関する認識に齟齬(そご)があるといけないので、対応を記録させていただきます」などと告げて、現場の状況の撮影や録音をすることをお勧めします。自分が無理難題を言っていると自覚しているモンスターペイシェントは、たいていは捨て台詞を吐いて退散します。
自己の正当性を信じ込んでいる患者にはカウンセリングの手法を
難しいのは(2)の場合で、このような患者は、自分が適正な要求をしていると信じ込んでいることが多く、「撮影・録音をする」と告げたところでひるむことはありません。このような場合には、対応に当たる職員は「この患者のカウンセリングをしている」というような意識を持つ必要があります。
カウンセリングで用いられる、相手の話をよく聞く「受容」、相手の気持ちに寄り添う「共感」といった基本的な技法は、自らが受けている医療に対して不満を抱いている患者に対して、自らの要求が適切なものなのかということを冷静になって振り返ってもらうために有効な手段となります。
そのためにはそれなりの時間を要するため、医療機関側にとって負担になります。ただ、これらの問題を抱えた患者を排除するだけでは、根本的な解決につながらず再発の恐れも否定できませんので、きちんと時間をかけてでも本人に自らの行動を省みる機会を提供する方が結果として負担が少ないことになります。
医療機関はトラブル対策やリスク対応を事前に定めておくべき
医師法第19条第1項は、「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と定め、正当な事由がない限りどんな患者でも診察・治療の求めを拒めないことになっています。
そのため、医療機関としてはモンスターペイシェントだったとしても門前払いはできませんので、その前提でトラブル対策やリスク対応を定めておく必要があります。何事も、事前の準備があれば不安にならずに対処できるものです。折を見て、このようなモンスターペイシェントに対する対応の訓練を行っておくことも必要な時代なのだと思います。
弁護士と中小企業診断士の視点で経営者と向き合うプロ
舛田雅彦さん(札幌総合法律事務所)
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