猛威をふるう海賊版、問われる著作権の存在意義
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海賊版による被害増額を受けて著作権法が改正
インターネットとデジタルコンテンツの普及に伴い、海賊版の電子書籍が横行するようになってきました。日本書籍出版協会と電通総研が実施した試算によれば、平成23年の1年間で漫画(コミック)の海賊版の被害額は224 億円にも上るとされています。
また、電子出版された漫画をコピーしたものがインターネット上に流出したのではなく、紙媒体の漫画雑誌からスキャンしたものが海賊版の大半を占めているとされ、ネット漫画が無料で読めるようになり、著作権の存在意義が問われています。このような背景から、平成26年4月25日に著作権法の一部が改正され、平成27年1月1日から施行されています。改正された著作権法の第79条第1項には、次のように規定されています。
「第21条又は第23条第1項に規定する権利を有する者(以下この章において「複製権等保有者」という)は、その著作物について、文書若しくは図画として出版すること(電子計算機を用いてその映像面に文書又は図画として表示されるようにする方式により記録媒体に記録し、当該記録媒体に記録された当該著作物の複製物により頒布することを含む。次条第2項及び第81条第1号において「出版行為」という)又は当該方式により記録媒体に記録された当該著作物の複製物を用いて公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあっては送信可能化を含む。以下この章において同じ)を行うこと(次条第2項及び第81条第2号において「公衆送信行為」という)を引き受ける者に対し、出版権を設定することができる」
著作権者と契約を締結している出版社にも出版権が認められる
著作権法の2条1項9号の4には、「自動公衆送信」とは、「公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く)をいう」と規定されています。インターネット上のサーバに電子書籍を格納し、利用者がアクセスすることによって電子書籍が送信されるような場合が「自動公衆送信」に該当します。
従来、漫画の海賊版をインターネット上で発見しても、電子書籍の出版権が認められていなかったため、差し止めなどの請求訴訟を起こせるのは著作権者に限られていました。今回の著作権法の改正によって、著作権者と契約を締結している出版社に出版権が認められることになり、今後は出版社が主体となって海賊版漫画などの電子書籍発行者への差し止めなどを請求できるようになりました。改正された著作権法の運用の仕方によって、著作権の存在意義も発揮できるようになるかもしれません。
著作権者と出版社の関係に変化が表れる可能性も
一方、今回の著作権法の改正に対して、日本ペンクラブは「経済原理にのみに則ってでき上がった電子出版権は、インターネット空間における言論表現の自由のあり方を揺るがしかねず、既存の紙メディアにおける出版行為にも重篤な影響を及ぼすものと考えられます。デジタル環境下のトラブルは多様に存在するにもかかわらず、議論の形跡も見られない」と、平成25年10月17日に意見表明を出して反対していたことも留意しておく必要があるでしょう。
例えば、著作権者が自分の判断でインターネット上に電子書籍を販売する「自由」を妨げられるなどの事態を懸念してのことでしょう。タブレットなどの情報端末のさらなる普及と発展により、今後、著作権の存在意義とともに、著作権者と出版社の関係が多様に変わる可能性があります。
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