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生活保護費のプリペイド支給が抱える問題

プリペイドカードによる生活保護費支給のモデル事業の実施を発表

生活保護費のプリペイド支給が抱える問題

先日、大阪市が、プリペイドカードによる生活保護費支給のモデル事業を今年4月から実施する旨を発表しました。同市は、その理由として、「ギャンブルや過度な飲酒等に生活費を費消し、自立に向けた生活設計を立てることが困難な方等への支援」を挙げています。個人的には、受給者にとっても、税負担している国民にとっても、受給者の自立は最も大切なことだと考えています。その観点からすると、同市の言い分は、非常に真っ当なようにも思えます。

しかし、私は、このモデル事業は、手続面からも、また「受給者の自立」という目的からも、非常に問題の多い事業だと考えています。

現行の生活保護法では「金銭給付の原則」が定められている

まず、現行の生活保護法では、「生活扶助は、金銭給付によって行うものとする」という「金銭給付の原則」が定められています(同法第31条1項本文)。そして、プリペイドカードを「金銭」に含めて解釈することは、文言上、無理だと考えています。

集団的自衛権の話ではないですが、民主主義国家としては、現行法が不適切と考えるのであれば、行政による法解釈の変更ではなく、民意による法改正の手続を採るべきでしょう。

カード会社に利潤をもたらすという結論ありきでは弊害しかない

次に、私は、このモデル事業が三井住友カードらの提案によるということに引っかかりを感じました。すなわち、カード会社に巨額の手数料収入をもたらすことが、本事業の真の目的ではないのか、という勘ぐりです。

もちろん、誰かが得をしたとしても、保護受給者の自立が促され、win-winになるのであればそれで構いません。しかし、カード会社に利潤をもたらすという結論ありきで、受給者の自立支援が後付けの理由に使われるのであれば、そこには弊害しかない、というべきでしょう。

受給者の自立に向け「負担者」という当事者目線で考える契機に

さらに、私は、行政側が示す「アルコールやギャンブル依存問題への対応」という理由にも疑問を持っています。依存「症」というからには病気なのですから、カードによる管理というような底の浅い取り組みでどうにかなるとは思えません。

生活保護受給者は日本の全人口の2%以下といわれ、多くの人は「負担者」の側でこの問題を捉えています。「負担者」であれば、負担が軽くなるように考えるのは当然ですが、そのために最も有効なのは、目先の保護費の減額ではなく、受給者の自立のはずです

何が受給者の自立にとって大切なことなのか、「負担者」という当事者目線で、もう一度真剣に考える契機にすべきかもしれません。

個人と中小企業を支援する法律のプロ

佐々木伸さん(平野・佐々木法律事務所)

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