自衛隊の海外派遣、恒久法検討。国際貢献に払う代償
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安倍内閣が来年の通常国会に恒久法案を提出する方向で検討
第二次世界大戦での敗戦後に制定された我が国の平和主義憲法の下では、自衛隊は「自衛のための必要最小限度の実力」としてのみ正当化され、海外派兵が許されないのは当然とされていました。にもかかわらず、平成3年の湾岸戦争を機に、国際貢献の名の下に自衛隊の海外派遣体制が構築されるようになり、平成13年にアメリカで同時多発テロが発生した後には、テロ対策特別措置法やイラク特別措置法が制定されたのみならず、平成19年には「防衛庁」が「防衛省」に昇格されて、自衛隊の海外出動も、自衛隊の本務とされる「我が国を防衛すること」や「公共の秩序維持」に準ずるものとされるようになりました。
しかしながら、自衛隊を海外派遣する際に制定されたこれらの特別措置法は、そもそも時限立法です。自衛隊を迅速に派遣できるようにするためには、このような特別措置法ではなく、恒久的な法律の制定が模索されるようになり、ここにきて遂に、安倍内閣が来年の通常国会に恒久法案を提出する方向で検討しているとの報道がなされました。
我が国が戦争に巻き込まれる恐れがあるのも否定できない
海外派遣された自衛隊の活動は、後方地域支援ないし協力支援活動であって、その活動地域も「非戦闘地域」などに限定されるとされてきたにもかかわらず、安倍内閣は平成25年7月に集団的自衛権行使を容認した上で「現に戦闘行為を行っている現場」以外でも支援活動ができるとの閣議決定を行っているため、恒久法案では、活動地域も拡大する方向で見直されることが見込まれています。
もちろん、これまで「非戦闘地域」と限定していたことにどれほどの意味があったのかは疑問なしとしません。もともとは、活動地域を「非戦闘地域」のみに限定することで、「自衛隊の活動が他国の武力行使と一体化するという問題は生じない、だから自衛隊の活動も武力行使には該当しない」などと無理矢理に解釈して、憲法問題を封じ込めていたに過ぎないともいえるからです。
ただ、そうはいっても、安倍内閣は、そのような限定を外してしまうことが予想されるため、自衛隊が他国の戦争に加担していると受け取られて、我が国そのものが戦争に巻き込まれる恐れがあるのも否定できないでしょう。第二次世界大戦の苦い経験を経て平和主義憲法が制定されたにもかかわらず、再び、戦前に逆戻りするのではないかといった懸念が出てくるのも無理からぬところです。戦後に築き上げてきた平和を台無しにしてしまうことのないよう願ってやみません。
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