持ち帰り残業で自殺、労災認定の波紋
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持ち帰り残業による自殺で労災。ブラック企業はますます窮地に
先日、金沢市の英会話学校に勤務していた講師の持ち帰り残業による自殺に対して労災認定がなされたというニュースが流れました。このことは、企業の労務管理に一石を投じることになると考えています。
奇しくも、厚生労働省が「過重労働解消キャンペーン」と銘打って監督強化を始めたばかりです。現在、国も過重労働や過労死対策に本腰を入れているのは周知の通りです。国の方針や厚生労働省の動きを考えると、持ち帰り残業も残業とみなして認定し、ブラック企業をあぶり出していくという方向に向かうでしょう。
過重労働や過労自殺撲滅へ。労働基準監督署の本気度
今回の自殺を認定するにあたって、金沢労働基準監督署は新卒で入社後に短期間で自殺したことを重く見ました。そして、持ち帰り残業を把握するため、残っていたメールや関係者の証言から、自宅でイラスト入り単語カード2,000枚以上を作成していたことを突き止めます。そして、それを実際に監督署の職員が同じように作成してみて残業時間を推計しました。その結果は、自宅への持ち帰り残業分で80時間/月、会社での残業を合わせると100時間/月になると結論付けたのです。
今までは、持ち帰り残業は時間把握が困難であるとし、労災認定されないのがほとんどでしたが、今回のように証拠を集めて実証して認定したというのは、労働基準監督署や厚生労働省が過重労働や過労自殺を撲滅しようと本気であることを示していると言えます。
企業の労務管理意識の改革が急務
長時間労働による労災事案の発生は、全部とは言いませんが「多店舗展開」の業種に多く見られます。これは、各店舗の責任者が労働に関する法令に不案内であることと、本社へ耳触りの良い報告を上げようと事実を隠すからではないかと考えます。しかし、厚生労働省では平成23年12月26日の労災新認定基準において「長時間労働はうつ病等の発生原因となる」と心理的負荷を与える出来事であるとしています。
そこで、多店舗展開されている事業場では、特に現場責任者への教育と意識改革が必要になってきます。具体的には、これらのことを肝に銘じておかせておくことが大切です。
1、労働基準監督は警察権を有している役人であること
2、労働契約法第5条により、企業は労働者への安全配慮義務を負っていること
3、タイムカードの打刻以外の方法でも労働時間の算定をしていること(使用パソコンのログ記録、メール内容、SNSなどへの書き込み、関係者への聴取など)
4、明確な指示はしていなくとも「黙示の残業」(残業の黙認)があること
5、そもそも残業代は会社に対する損失であること(人件費や固定費の増大、労災リスク、訴訟リスクなど)
近時は、インターネットを検索すれば簡単に違法行為か否かは調べられます。そもそも「なぜ、残業が発生するのか?」を徹底検証して、「企業防衛」という観点から「適切な業務量」の把握に努めるべきです。ワークライウバランスや多様就業が叫ばれ、一段と企業のマネジメント能力が問われています。監督する立場の人間と現場で働く人間の双方に正しい労働法教育をしていく必要があると思われます。
「人財」を育て企業の健全な存続を支援するプロ
佐藤憲彦さん(さとう社会保険労務士事務所)
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