大手銀による「債務者の口座情報開示」がもたらす意義
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大手銀、確定判決や和解成立を条件に、照会に回答する方針
三井住友銀行は今年3月、大阪弁護士会との間で、判決が確定する等、強制執行が可能な状態になっていることを条件に、債務者の口座情報について弁護士法23条の2に基づく照会(弁護士が所属する弁護士会を通じて公私の団体に対し事実関係の照会を求めることができる旨を定めたもの)に応じるとの協定を結びました。
また、こうした協定は結んでいないものの、ゆうちょ銀行は2012年、三菱東京UFJ銀行も2013年から、確定判決や和解成立を条件に、照会に回答する方針に転じていると報じられています。
現在の強制執行手続きの運用では、権利の実現としては不十分
まず、なぜこのような対応がニュースになるのか、そこから説明します。
日本では、裁判で判決が確定しても、その内容を強制的に実現するためには、民事執行法が定める強制執行手続き(いわゆる「差し押さえ手続き」)によらなければなりません。そして、強制執行の運用では、判決内容の実現を求める側(債権者)において、強制執行の相手方(債務者)の差し押さえ対象財産を特定して申し立てを行うことが求められています。ところが、現在の強制執行手続きの運用では、費用や手続き負担のハードルが一定存在し、また強制執行が空振りに終わることも多く、権利の実現としては不十分だと言われてきました。
強制執行手続きは、大きく分けて、預金や給与等の債権を対象とした債権執行、土地建物等の不動産を対象とした不動産執行、それ以外の財産を対象とした動産執行の3種類が用意されています。しかし、これらの手続きには、いずれも難点があると言われています。
強制執行が空振りに終わった場合、費用は債権者が負担することに
債権執行については、債権の存在を特定しないといけないのですが、例えば銀行預金を差し押さえる場合「●●銀行」という程度の特定では足りず、支店・出張所レベルでの特定が必要とされています。そのため、取引銀行がわかっていても取引支店がわからないと網羅的に差し押さえを行わざるを得ず、空振りのリスクが高いのです。
また、不動産執行、動産執行については手続き費用がそれなりに必要な反面、不動産がオーバーローンの場合にはそもそも差し押さえができず、動産も現金が発見されない限り、差し押さえても二束三文でしか売却できないことがほとんどです。
もちろん、最終的に強制執行が成功すれば、執行費用は債務者の負担として差し押さえた債権や売却代金等から回収できますが、空振りに終わった場合や費用倒れに終わった場合、費用は債権者が負担する結果となります。
大手銀の口座情報開示は、執行制度の弱さを補い権利実現に寄与
このように、現在の強制執行制度では、強制執行に必要な情報の収集や空振りのリスクは全て債権者側の負担にされています。そのため、情報不足による空振りのリスクや費用対効果、赤字になるリスクを考慮して強制執行に踏み切れないケースも多数存在します。訴訟制度と執行制度は権利実現のための「車の両輪」とも評されますが、少なくとも現在の日本では執行制度が弱い部分があったのです。
このような中で、大手銀行が弁護士会照会に応じて債務者の取引支店等を開示することは、この執行制度の弱さを補うものであり、高く評価できます。このような動きが一部銀行だけではなく、すべての金融機関に広がることを期待します。
また、あくまで民間の実務レベルの対応で終始するのではなく、これを機により権利の実現に資する、利用しやすい強制執行制度の整備がなされることが望ましいでしょう。
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