福岡市の「禁酒令」は人権侵害か?
勤務時間外の自宅外での飲酒は、自由権という基本的人権
福岡市の高島宗一郎市長が、全職員に公私を問わず自宅外飲酒を禁止する通知を発したこと、いわゆる「禁酒令」によって人権を侵害されたとして、市職員の男性が市に対し、慰謝料として「1円」の損害賠償を求め福岡地裁に提訴しました。
勤務時間外のことですから、私生活のあり方の問題です。私生活のあり方は、個人の自立や自己決定に関わる自由権であり、基本的人権の中心的位置を占めるものとして、国家の不干渉が原則的に保証されています。日本国憲法13条において、個人の自由は国政上最大限の尊重を要するものと規定されています。勤務時間外に自宅外で飲酒することは、自由権という基本的人権にあたります。
市職員に対する強制力を持っていたものと解することも可能
では、公権力である福岡市が発した禁酒令が、市職員の私生活を不当に干渉したといえるのでしょうか。まず、この通知が、強制力を持っていたものかどうかを検討します。福岡市は「単なる通知であって禁酒令違反があっても直ちに処分の対象とはならない」としながらも、市職員らに配布した「『自宅外での飲酒について』に関するQ&A」や、その後の福岡市長の口頭説明などでは、禁酒令に違反した場合には「不利益な制約」が加えられることとされています。このことから、禁酒令は、市職員に対する強制力を持っていたものと解することも可能です。
次に、強制力を持ったものとして、私生活への不当な干渉となるかを判断することになります。前述のように、基本的人権の中核である自由権に対する制約ですから、厳格な基準によるべきであり(1)目的の正当性(2)目的と手段の整合性及び目的達成のために必要最小限のものかという基準で判断されることになります。
(1)目的は、市職員らの飲酒による不祥事を未然に防止し市民の信頼回復を図ることとされていますから、正当なものといえるでしょう。しかし、飲酒運転の防止は、市職員全員の意識改革(研修等)などによって行うべきであり、(2)手段としての禁酒令は、整合性を欠き、目的達成のために必要最小限のものということはできないと考えられます。
公権力による私生活への不当な干渉として人権侵害に
以上のことから、公権力による私生活への不当な干渉として人権侵害にあたると解されます。福岡県弁護士会も本年3月に、福岡市に対し重大な人権侵害があるとして、二度とこのような通知はしないようにとの勧告をしています。
原告の市職員男性は、司法の場で、「福岡市の不法行為を正したい」という目的で訴訟提起をしたそうです。不法行為に基づく損害賠償請求という形のため、賠償額を設定する必要がありますが、禁酒令による精神的被害は金銭に換算できないということで賠償額を1円に設定したということです。