首長の多選は制限すべきか?
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いくつかの自治体で首長の他薦自粛を定めた条例が制定
首長の多選は地方部を中心に古くから問題となっており、首長自身が引退を宣言するか、在職中に死亡するなどして職務が遂行できなくなるまで何期も首長が変わらない、ということは現在も珍しいものではありません。
これについては、昭和29年に都道府県知事の連続3選を禁止する法案など、国会においても過去3回、多選禁止の法案が提出されていますが、いずれも廃案となっています。地方においては、いくつかの自治体で首長の他薦自粛を定めた条例が制定されていますが、このような条例の取り扱いを巡って議論がなされています。
首長の多選禁止は、立法裁量を逸脱したものでない限り可能
首長の多選が是か非かを考える前に、首長の多選を禁止することがそもそも可能なのか、という点から考えてみましょう。
首長の多選制限については、住民の直接選挙により選出される長のあり方の基本に関わる事項となります。憲法93条2項は、地方公共団体の長を住民による直接選挙によって選ぶ旨の規定を設けていますが、多選の制限の可否について明文の規定を置いていません。また、多選制限が法の下の平等(憲法14条)、職業選択の自由(憲法22条)などの憲法の他の規定に違反する可能性もない、とするのが一般的な考え方であろうと思います。
そうすると、首長の多選の制限を法律や条令で規定することは、2選禁止のような極端な規制や、特定の政党・候補者を狙い撃ちするような場合など、立法裁量を逸脱したものでない限り可能である、ということになります。
多選制限にはメリット・デメリットのいずれもある
それでは、首長の多選を制限すべきでしょうか。首長の多選禁止を推進する立場からは、多選により権力の腐敗・硬直化や施策のマンネリ化などの実害があると指摘されます。確かに、常に同じ人物がトップに立つ組織は、官民問わず、癒着や腐敗の温床になることは否定できません。他方、多選には施策の一貫性や長期的計画の実現を容易にするという側面もあり、いわゆる「長期政権」が必ずしも悪いとは言い切れない部分もあります。
また、多選が望ましくないのであれば、選挙で現職以外を当選させれば良く、あえて法律や条令で多選制限を設ける必要が無い、という反論も考えられます。しかし、これに対しては、今の選挙が事実上圧倒的に現職有利になっているという反対意見があります。また、首長の多選が続く自治体では、「投票率が下がる」=「どうせ現職が当選する」と考えて投票に行かない人が増える以上、選挙のみで多選を制限することは困難であるとの指摘も予想されるでしょう。
このように多選制限にはメリット・デメリットのいずれもあるため、単純な利害得失のみでは決めることができない、高度な立法政策に属する問題であって、簡単に答えを出すことはできません。まさに「民主主義の在り方」を巡る問題として、最終的には当該自治体の有権者、あるいは広く国民全体の判断に委ねられるべきでしょう。今後の選挙等を通じてしっかり議論された上で決めるほかないと思います。
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