フィリピン進出・マカティ市場調査レポート Vol.2|アヤラ・センターで読む消費市場・夜間商圏・英語人材
「海外に出れば成長できる」は、本当なのか?
日本では人口減少が続いています。総務省統計局の人口推計でも、2026年10月1日現在の総人口は1億2269万人で、前年同月から53万人減少しています。
国内人口が長期的に減少していく以上、国内市場だけでは将来の成長余地が限られると考え、海外進出や輸出を検討する経営者が増えるのは自然な流れです。
実際、私のところにも、
「海外で販売できないか」
「海外企業と提携できないか」
「現地法人を設立するべきか」
というご相談が増えています。
しかし、私は、海外で事業を行い、日本企業の海外展開も支援してきた経験から、すべての会社に海外進出を勧めているわけではありません。
むしろ、今は海外へ出るべきではない会社を見極めることも、海外進出支援における重要な仕事だと考えています。
海外進出のご相談では、「英語を話せる社員がいません」という話もよく伺います。
もちろん、語学力は重要です。
しかし、現在は通訳、現地スタッフ、翻訳サービス、生成AIなどによって、言語上の障壁を下げる方法は以前より増えています。
一方で、契約交渉、採用、マネジメント、文化的なニュアンスなど、言葉を翻訳するだけでは解決できない問題もあります。
つまり、海外進出の難しさの本質は、英語が話せるかどうかだけではありません。
より重要なのは、
「誰に、何を売るのか」
「なぜ現地で自社が選ばれるのか」
「いくらで売れるのか」
「その価格で利益が残るのか」
「誰が事業を運営するのか」
を説明できることです。
海外進出そのものは、成長戦略ではありません。自社を成長させるという経営戦略を実現するために、海外市場を使うという一つの選択肢です。
この順序を逆にしてはいけません。
海外進出は「国内で売れない会社の逃げ道」ではない
海外進出や輸出についてご相談をいただく中で、時折、「国内ではなかなか売れないので、海外なら売れるのではないか」というお話を伺います。
もちろん、国内市場では十分な需要がなくても、海外では異なる需要が存在し、成功する商品はあります。
日本ではニッチな商品でも、海外では文化、所得水準、食習慣、ライフスタイルなどの違いによって、大きな市場が存在することがあります。
したがって、「日本で成功していなければ、海外でも成功できない」という話ではありません。
しかし、国内で売れない原因が、商品そのもの、価格、品質、販売方法、顧客設定、マーケティング、事業モデルにあるのであれば、その問題をそのまま海外へ持っていっても、基本的には解決しません。
むしろ、海外では物流、関税、法規制、現地パートナー、言語、採用、管理などの問題が加わります。
国内で抱えている経営課題に、新たな海外リスクが重なるだけになる可能性があります。重要なのは「国内で売れているか」だけではなく、「なぜ海外の顧客が、自社の商品・サービスを買うのかを説明できるか」です。
そこから海外進出の検討は始まります。
うちの会社は、海外進出をすべきか? それを判断する5つのポイント
私は、海外進出を検討する場合、少なくとも次の5つを確認します。
海外進出すべき会社① 国内市場の先に、明確な海外需要がある
最初に確認するのは、自社の商品・サービスを必要とする顧客が、本当に海外市場に存在するかという点です。
「アジアで売りたい」では十分ではありません。
どの国の。
どの都市の。
どの所得層の。
どのような顧客が。
どのような場面で。
なぜ自社の商品・サービスを必要とするのか。
ここまで具体化する必要があります。
分からなければ、現地へ行くことも有効です。
しかし、海外視察の目的は、街を見て、「ここなら売れそうだ」と感じることではありません。
現地の商品を見る。
価格を見る。
競合を見る。
顧客と話す。
販売事業者と話す。
流通構造を確認する。
そして、自分が現地で感じた仮説を、調査によって検証します。市場調査は、数字を見ることと現場を見ることの両方が必要です。
海外進出すべき会社② 海外でも「選ばれる理由」がある
海外需要が存在しても、競合がすでにその需要を満たしているのであれば、自社が進出する理由はありません。
必要なのは、「なぜ現地の商品ではなく、日本の他社商品でもなく、あなたの会社の商品を買うのか」という問いへの答えです。「Made in Japanだから売れるだろう」だけでは、海外進出の戦略にはなりません。
日本製であることが価値になる市場もあります。しかし、日本製であるだけでは差別化にならない市場もあります。
海外進出を判断する際には、自社の競争優位を現地市場の視点から定義し直す必要があります。
海外進出すべき会社③ 成功を「再現」できる
例えば、日本国内で一店舗の飲食店を経営し、社長自身が調理、接客、仕入れ、顧客対応のほとんどを担っている会社を考えてみましょう。
その社長が持っている技術や顧客対応力が極めて高かったとしても、そのまま海外へ移すことはできません。
社長自身が海外店舗へ常駐し続けるわけにはいかないからです。
必要なのは、
レシピ。
調理工程。
仕入基準。
接客。
品質管理。
採用。
教育。
店舗管理。
数値管理。
を、他の人でも一定水準で実行できる状態にすることです。
これは飲食業だけではありません。
営業。
製造。
コンサルティング。
サービス業。
あらゆる業種に共通します。
社長個人の能力で成功している会社と、事業の仕組みで成功している会社は、海外展開のしやすさがまったく違います。
国内で再現できないものを、言語も文化も商習慣も異なる海外で再現することは、さらに難しくなります。
その場合には、海外進出を急ぐより、まず国内で事業の標準化を進めることが先です。
海外進出すべき会社④ 海外でも利益が残る
これは非常に重要です。
海外で売上が立つことと、海外事業で利益が出ることは、まったく別です。
商品を輸出する場合には、
国際物流費。
保険。
関税。
通関。
現地流通マージン。
販売手数料。
為替変動。
在庫。
各国の規制対応。
などが加わります。
現地法人や店舗を設ける場合には、さらに、
法人設立。
専門家費用。
賃料。
人件費。
採用費。
本社からの管理コスト。
出張費。
現地税務・法務対応。
などが発生します。
したがって、「日本で1万円で売っている商品だから、海外でも1万円前後で売れるだろう」という考え方では事業計画は成立しません。
海外で必要になるすべてのコストを積み上げ、そのうえで利益を確保できる現地価格を算出する。
そして、その価格を現地顧客が本当に払うのかを確認する必要があります。海外市場が大きくても、利益が残らないのであれば、その海外進出を行う意味はありません。
海外進出すべき会社⑤ 人・資金・経営者の時間を投資できる
海外事業には、人、資金、そして経営者の時間が必要です。
特に中小企業の場合、ここを軽視してはいけません。
JETROの2025年度調査では、海外事業に関心の高い中小企業でも、海外展開人材について、人数面で84.7%が不足または確保できておらず、能力・適性についても88.5%が不足または期待水準を満たしていないと回答しています。
海外進出では、
市場調査。
現地訪問。
取引先との交渉。
契約。
物流。
現地法人設立。
採用。
教育。
資金管理。
本社との連携。
など、多くの仕事が発生します。
もちろん、専門家や外部支援会社へ業務を委託することはできます。
私たちも、市場調査から進出準備、現地法人設立、販路開拓、現地組織づくりなどを、実務まで含めて支援することがあります。
しかし、外部に委託すれば、経営者が関与しなくてよくなるわけではありません。海外事業について最終的に責任を負い、重要な意思決定を行う人は、自社の中に必要です。
社長自身が関与できない。
担当者も置けない。
投資余力もない。
国内事業にも大きな経営課題が残っている。
この状態で海外進出を急ぐことは、私はお勧めしません。
まだ国内市場に集中すべき会社とは?
海外進出を考える経営者にとって、「今は海外へ行かない」という判断も、立派な経営戦略です。
特に、次のような会社は、まず国内事業を強くすることを検討すべきです。
国内市場に集中すべき会社① 自社の勝ち方がまだ確立していない
誰が顧客なのか。
なぜ買ってもらえるのか。
どの商品が利益を生んでいるのか。
どの営業方法が有効なのか。
これがまだ明確になっていない場合には、まず国内で事業モデルを磨いた方がよいでしょう。
海外へ出れば、分からないことがさらに増えるからです。
国内市場に集中すべき会社② 社長への依存度が高すぎる
社長が国内を離れると会社が回らないのであれば、海外事業を増やす前に、国内組織を整える必要があります。
海外進出は、経営者の仕事を減らすものではありません。むしろ、進出初期には仕事を増やします。
国内組織が社長に依存している状態で海外事業まで社長が抱えれば、国内と海外の双方が不安定になる危険があります。
国内市場に集中すべき会社③ 利益とキャッシュに余力がない
海外事業は、計画どおりに売上が立つとは限りません。
当初想定よりも立ち上がりに時間がかかることもあります。
追加投資が必要になることもあります。
そのため、「海外事業が予定より1年遅れても耐えられるか」という視点が必要です。
資金余力がない状態で海外進出を行うと、海外事業を育てる前に資金が尽きてしまいます。
国内市場に集中すべき会社④ 海外へ行く目的が「何となく成長できそう」になっている
海外進出は目的ではありません。
国内市場でもまだ十分に成長余地があり、海外へ出る理由が明確でないのであれば、国内に経営資源を集中した方が、投資効率が高いこともあります。
海外へ出ないことは、消極策ではありません。限られた経営資源を、最も勝てる市場へ集中するという経営判断です。
私は海外進出の相談を受けたとき、最初に「どの国へ行きたいですか」とは聞かない
海外進出のご相談を受けるとき、私は最初から、「どの国へ進出したいですか」とは聞かないようにしています。
国は、経営目的を達成するための選択肢だからです。
最初に確認するのは、
「なぜ海外なのですか?」
「どんな顧客に売りたいのですか?」
「その顧客は、なぜあなたの商品を買うのですか?」
「海外へ出なければ実現できないことは何ですか?」
「国内では、まだどこまで成長できますか?」
「誰が海外事業を担当しますか?」
「いくらまで投資できますか?」
「いつまでに、どの状態をつくりますか?」
「うまくいかなかった場合、どの時点で撤退しますか?」
ということです。
それを確認した結果、
輸出から始める。
現地ディストリビューターを探す。
ライセンスやFCで展開する。
現地企業と提携する。
越境ECで小さく検証する。
現地法人を設立する。
海外M&Aを検討する。
あるいは、「今は海外へ行かない」という結論になることもあります。
重要なのは、最初から手段を決めないことです。
海外進出のGo/Waitを判断する7つの質問
海外進出を検討している経営者の方は、一度、次の7つの質問をご自身に問いかけてみてください。
海外へ行く明確な経営上の理由があるか
現地で買う顧客を具体的に説明できるか
自社が選ばれる理由があるか
その強みを現地で再現できるか
海外コストを含めても利益が残るか
人・資金・経営者の時間を投入できるか
失敗した場合の撤退基準を決められるか
5~7個YES → Goを具体的に検討
3~4個YES → 小規模検証
0~2個YES → まず国内事業・事業モデルの強化
ただし、これはあくまで簡易的な目安です。
特に、
「海外でも利益が残るか」
「人・資金・経営者の時間を投入できるか」
「撤退基準を決められるか」
という3点に重大な問題がある場合には、YESの数だけでGoと判断するべきではありません。
海外進出で大切なのは、勢いよく始めることではありません。
進出前に「勝てる条件」と「撤退する条件」の両方を決めておくことです。
海外進出・貿易を検討する中小企業経営者向け|初回120分海外事業カンファレンス
海外進出を考えるとき、最初に必要なのは、現地法人の設立でも、物件探しでも、海外パートナー探しでもありません。
「そもそも今、自社は海外へ出るべきなのか」を経営戦略から判断することです。
海外進出は、国内事業から逃げるための方法ではありません。
国内で培った経営資源を、より大きな市場、新しい顧客、新しい成長機会へ展開するための経営戦略の一つです。
初回120分の海外事業カンファレンスでは、進出ありきでお話を進めるのではなく、現在の事業、商品・サービス、海外市場での競争力、投資余力、人材、国内事業とのバランスまで確認したうえで、Go/Waitを含めて海外事業の方向性を整理します。
https://direct.mbp-japan.com/menu/detail/1587


