オーナー経営者は「年収」だけを見てはいけない|企業価値を資産に変える成長M&A戦略
目次
中小企業M&Aでよく使われる「株式譲渡」と「事業譲渡」は、まったく違う
株式譲渡の最大のデメリット 買い手は「会社の過去」も引き受ける
事業譲渡とは、「会社そのもの」ではなく「事業を選んで引き継ぐ」M&A
事業譲渡のメリット2 売り手会社がM&A後も事業を続けられる
事業譲渡のデメリット2 社員は自動的に買い手会社へ移るわけではない
中小企業M&Aでよく使われる「株式譲渡」と「事業譲渡」は、まったく違う
中小企業のM&Aを検討するとき、最初に理解しておきたい代表的な手法が、
株式譲渡
と、
事業譲渡
です。
どちらも、
「会社・事業を第三者へ引き継ぐ」
という意味ではM&Aですが、その仕組みは大きく異なります。
簡単に言えば、
株式譲渡
=会社そのものは存続したまま、その会社の株主を変更する
事業譲渡
=会社の中から特定の事業を切り出し、その事業に関する資産・契約等を別の会社へ移す
という違いです。
そして、この違いによって、
誰がおカネを受け取るのか。
社員はどうなるのか。
契約はどうなるのか。
借入金はどうなるのか。
許認可はどうなるのか。
簿外債務のリスクはどうなるのか。
M&A後に会社がどう残るのか。
が大きく変わります。
株式譲渡と事業譲渡は、「どちらが優れているか」で選ぶものではありません。
M&Aによって何を実現したいのかによって、適切な手法が変わります。
株式譲渡とは、「会社を残したまま株主を変える」M&A
株式譲渡は、現在の株主が保有している株式を買い手へ譲渡する方法です。
例えば、
オーナー社長が自社株式を100%持っている。
その株式100%をA社へ譲渡する。
すると、
会社そのものは存続しますが、
株主が、
オーナー社長
から、
A社
へ変わります。
つまり、会社の法人格そのものが別会社へ移るわけではありません。
同じ会社が、そのまま続きます。
そのため原則として、
会社が保有している資産。
会社が負っている負債。
従業員との雇用関係。
顧客との契約。
取引先との契約。
なども、その会社に残ります。
ここが、事業譲渡との大きな違いです。
株式譲渡のメリット1 会社の事業をそのまま継続しやすい
株式譲渡の大きなメリットは、
会社自体は変わらない
ということです。
例えば、
社員100名。
顧客500社。
取引先100社。
多数の契約。
店舗。
設備。
などを持つ会社をM&Aするとします。
事業譲渡であれば、承継する資産・契約等について個別の手続が必要になる場合があります。
一方、株式譲渡では、法人そのものは同じです。
したがって一般的には、
事業全体を一体として引き継ぎやすい
というメリットがあります。
株式譲渡のメリット2 社員との雇用関係を継続しやすい
株式譲渡では、
雇用主である会社そのものは変わりません。
変わるのは株主です。
したがって、通常は、
M&A前 株式会社A社の社員
↓
M&A後 株式会社A社の社員
という状態が続きます。
もちろん、
M&A後の組織再編。
人事制度変更。
役員変更。
などが行われる場合はあります。
しかし、株式譲渡そのものによって、従業員一人ひとりの雇用主を別法人へ移すわけではありません。
事業承継型M&Aで、
社員の雇用をできるだけ安定的に継続したい
という場合には、株式譲渡が使いやすい理由の一つです。
株式譲渡のメリット3 契約や許認可を維持しやすい
株式譲渡では法人そのものが存続するため、
顧客との契約。
仕入先との契約。
賃貸借契約。
許認可。
などについても、その法人に残ることが一般的です。
ただし、ここは注意が必要です。
契約書に、
株主や支配権が変更した場合には通知・承諾が必要
という、いわゆるチェンジ・オブ・コントロール条項が入っている場合があります。
また、許認可についても業種によっては、
株主変更。
役員変更。
支配関係変更。
について届出・承認等が必要になる場合があります。
「株式譲渡なら何の手続も必要ない」という意味ではありません。
個別の契約・許認可を確認する必要があります。
株式譲渡の最大のデメリット 買い手は「会社の過去」も引き受ける
株式譲渡が買い手にとって注意を要する最大の理由は、
会社そのものを取得する
という点です。
例えば、
未払い残業代。
未払税金。
訴訟リスク。
契約上の損害賠償リスク。
保証債務。
過去のコンプライアンス問題。
帳簿に現れていない債務。
などがあれば、その会社に残ります。
買い手が株主になった後も、会社はその問題を抱えています。
そのため株式譲渡では、
デューデリジェンスによって、会社の財務・税務・法務・労務・事業上のリスクを確認することが非常に重要です。
株式譲渡の買い手は、「現在の利益」だけを買うのではありません。
その会社が過去から積み上げてきた権利とリスクの両方を引き受けます。
事業譲渡とは、「会社そのもの」ではなく「事業を選んで引き継ぐ」M&A
一方、事業譲渡は構造が違います。
例えば、一つの会社が、
飲食事業。
不動産事業。
EC事業。
という3つの事業を行っているとします。
このうち、
飲食事業だけをA社へ譲渡する。
これが典型的な事業譲渡です。
売り手会社は、
不動産事業とEC事業を残して、
その後も存続できます。
したがって事業譲渡は、
会社全体を売却するためだけの手法ではありません。
むしろ、
事業ポートフォリオの組み替え。
選択と集中。
不採算・非中核事業の整理。
成長事業への資金集中。
などにも利用できます。
事業譲渡のメリット1 買う資産・事業を選びやすい
事業譲渡の大きな特徴は、
何を引き継ぐのか
を契約によって定める点です。
例えば、
店舗。
設備。
在庫。
商標。
顧客との契約。
特定の従業員との雇用関係。
事業上のノウハウ。
などを対象にします。
反対に、
不要な不動産。
特定の借入。
他事業に関する契約。
などを譲渡対象から外すことも検討できます。
そのため買い手側から見ると、
必要な事業を選択して取得し、不要な資産や負債を引き受けるリスクを抑えやすい
というメリットがあります。
事業譲渡のメリット2 売り手会社がM&A後も事業を続けられる
事業譲渡では、
会社全部を売却する必要はありません。
例えば、
A事業 売却。
B事業 継続。
C事業 新規投資。
という経営ができます。
これは、中小企業の成長戦略でも重要です。
例えば、
成熟した事業を売却する。
↓
その売却資金を会社が受け取る。
↓
その資金を成長事業へ再投資する。
という事業ポートフォリオの組み替えができます。
事業譲渡は「会社を辞めるためのM&A」だけではありません。
古い事業を資金化し、新しい事業へ経営資源を移すためにも使えるM&Aです。
株式譲渡と事業譲渡では、「誰がおカネを受け取るか」が違う
ここは、オーナー経営者に特に理解していただきたいところです。
通常の株式譲渡では、
オーナー株主が自分の持っている株式を売ります。
したがって、
株式譲渡
買い手
↓
株式譲渡代金
↓
売り手株主
となります。
原則として、そのおカネが会社へ入るわけではありません。
一方、事業譲渡では、
会社が保有している事業を売却します。
したがって、
事業譲渡
買い手
↓
事業譲渡代金
↓
売り手会社
となります。
この違いは非常に重要です。
オーナー自身の株式を資金化したいのか。
会社へ資金を残して次の事業へ投資したいのか。
によっても、選択する手法は変わります。
「株式譲渡」と「第三者割当増資」を混同してはいけない
ここは、成長企業M&Aを考える場合に特に重要です。
例えば、
オーナーが保有株式の30%をA社へ売却する。
これは、
株式譲渡
です。
売却代金は、基本的に株式を売ったオーナーへ入ります。
一方、
会社が新たに株式を発行し、A社がその株式を引き受けて出資する。
これは、
第三者割当増資
などによるエクイティファイナンスです。
この場合は、出資金が会社へ入ります。
つまり、
株式譲渡
=既存株主が持っている株式を売る
第三者割当増資
=会社が新たな株式を発行して資金を調達する
という違いがあります。
もちろん、
一部株式譲渡
+
第三者割当増資
を組み合わせることもできます。
これによって、
オーナー自身も一部株式を資金化する。
同時に会社にも成長資金を入れる。
という資本政策が可能になる場合があります。
事業譲渡のデメリット1 資産・契約を個別に移す必要がある
事業譲渡は、
「この事業を全部まとめてA社へ移します。」
と言えば、それだけで全てが自動的に移るわけではありません。
事業譲渡は、原則として個別に権利義務を承継する仕組みです。
そのため、
不動産。
設備。
知的財産。
顧客契約。
仕入契約。
賃貸借契約。
などについて、
何を譲渡するかを特定し、
必要な移転手続を行います。
契約相手の承諾が必要なものについては、
契約の引継ぎ。
新規契約。
承諾取得。
なども必要になる場合があります。
したがって、
会社全体を一体として引き継ぐ株式譲渡と比べ、事業譲渡の方が移転手続が多くなる場合があります。
事業譲渡のデメリット2 社員は自動的に買い手会社へ移るわけではない
ここは非常に重要です。
事業譲渡では、
売り手会社と社員との労働契約が、
自動的に買い手会社へ移るわけではありません。
事業譲渡によって労働契約を買い手会社へ承継させる場合には、原則として対象となる労働者本人の承諾が必要になります。
そのため、
「この部署を事業譲渡するので、明日から全員自動的に買い手会社の社員になります。」
というものではありません。
社員へ、
なぜ事業譲渡を行うのか。
新しい会社はどのような会社なのか。
どのような仕事をするのか。
勤務地はどうなるのか。
労働条件はどうなるのか。
などを適切に説明し、必要な手続を進めることが重要です。
事業譲渡では、「事業を移せるか」だけではなく、「その事業を支える社員をどう引き継ぐか」まで設計しなければなりません。
事業譲渡のデメリット3 許認可をそのまま引き継げない場合がある
事業に必要な許認可についても注意が必要です。
株式譲渡の場合、
法人そのものは同じなので、許認可を維持しやすい場合があります。
一方、事業譲渡では、
事業を行う法人そのものが、
売り手会社
から、
買い手会社
へ変わります。
そのため業種によっては、
買い手が許認可を新たに取得する。
届出する。
行政機関の承認を得る。
などの手続が必要になります。
M&A契約を結んでから、
「許認可が取れないので事業を開始できない。」
となれば大きな問題です。
そのため、許認可事業ではM&Aの初期段階から確認します。
株式譲渡と事業譲渡を比較すると、何が違うのか?
大きく整理すると、次のようになります。
【株式譲渡】
売るもの
株式
売却代金を受け取る人
原則として売り手株主
会社
そのまま存続する
社員
雇用主である法人は原則変わらない
契約
法人に残るのが基本。ただし変更支配条項等に注意
許認可
法人に残りやすいが、業種ごとの確認が必要
負債・リスク
会社の中に残るため、買い手もそのリスクを間接的に引き受ける
向いている場面
会社・事業全体を一体として承継したい場合
【事業譲渡】
売るもの
特定の事業・資産・権利等
売却代金を受け取る人
売り手会社
会社
売り手会社自体は残すことができる
社員
労働契約承継には原則として個別の承諾が必要
契約
個別移転・承諾等が必要になる場合がある
許認可
新規取得・承認・届出等が必要になる場合がある
負債・リスク
承継する対象を選択できるため一定のリスクを限定しやすい
向いている場面
特定事業だけを売却・取得したい場合
株式譲渡が向いているのは、どのようなM&Aか?
例えば、
後継者不在の会社を第三者へ承継したい。
社員・顧客・契約を含め会社全体を引き継ぎたい。
経営者は引退し、会社そのものは継続させたい。
買い手が事業全体を評価している。
といった場合には、株式譲渡が検討しやすいでしょう。
ただし、
過去の簿外債務。
訴訟。
税務。
労務。
コンプライアンス。
などについて買い手側は慎重になります。
そのため、
売り手企業としても、
M&Aを検討する前から会社の問題を整理し、「買い手が安心して会社全体を取得できる状態」にしておくこと
が重要です。
事業譲渡が向いているのは、どのようなM&Aか?
一方、
複数事業のうち一部だけ売りたい。
ノンコア事業から撤退したい。
売却資金を会社に残し、次の成長事業へ投資したい。
買い手側が特定の事業だけ欲しい。
会社全体を引き継ぐリスクを避けたい。
という場合には、事業譲渡が有力な選択肢になります。
例えば、
成熟したA事業を売却
↓
会社へ資金を入れる
↓
成長性の高いB事業へ投資
↓
事業ポートフォリオを組み替える
という戦略です。
これは、M&Aを、
「会社の終活」
ではなく、
経営資源を成長領域へ移す経営戦略
として使う方法です。
「どちらの税金が安いか」だけでM&A手法を決めてはいけない
株式譲渡と事業譲渡では、
売り手。
買い手。
それぞれの税務が大きく異なります。
例えば、
誰が売却代金を受け取るのか。
譲渡益を誰が計上するのか。
譲渡する資産に消費税がかかるのか。
買い手が取得する資産をどのように税務処理するのか。
などが変わります。
そのため、
「株式譲渡の方が税金が安い。」
「事業譲渡の方が得だ。」
と一律には言えません。
さらに、
税務だけを優先すると、
M&A後の事業運営が難しくなることもあります。
M&Aのスキームは、税金だけでなく、経営目的・企業価値・従業員・契約・許認可・リスク・資金使途を一体として設計する必要があります。
具体的な税務・法務については、税理士・弁護士等の専門家と連携して検討します。
株式譲渡と事業譲渡だけが、M&Aのすべてではない
中小企業M&Aでよく使われる代表的な方法として、
株式譲渡。
事業譲渡。
があります。
しかし、会社法上の組織再編や資本政策には、
合併。
会社分割。
株式交換。
株式移転。
第三者割当増資。
その他の方法もあります。
したがって、
「M&Aなら必ず株式譲渡か事業譲渡の二択」ではありません。
会社の規模。
資本構成。
株主構成。
M&Aの目的。
税務。
法務。
従業員。
許認可。
などによって、他の手法を検討することもあります。
M&Aの手法を決める前に、経営者が答えるべき7つの質問
株式譲渡と事業譲渡のどちらを使うかを考える前に、経営者は次の問いを整理してみてください。
1.会社全部を引き継ぎたいのか、特定事業だけなのか
2.オーナー個人が株式を資金化したいのか、会社へ資金を残したいのか
3.社員をどのような形で引き継ぎたいのか
4.重要な契約・許認可をどのように承継するのか
5.買い手に引き継いでもらう負債・リスクは何か
6.M&A後、売り手会社は存続するのか
7.M&A後、その資金を何に使うのか
この答えが明確になってから、
最適なスキームを検討します。
M&Aでは、「最初に株式譲渡か事業譲渡かを決めて相手を探す」のではありません。
まず経営目的を決め、その目的を最も実現しやすいM&A手法を選びます。
URVグローバルグループ「M&Aを正しく活用する時代」第5講
URVグローバルグループでは、
特集 M&Aを正しく活用する時代
を掲載しています。
その第5講では、
株式譲渡とは何か。
事業譲渡とは何か。
それぞれのメリット・デメリット。
会社全体を譲渡する場合。
一部事業を切り出す場合。
成長戦略としてM&Aを使う場合。
などについて解説しています。
M&Aを検討するオーナー経営者にとって、
手法の違いを理解することは、
価格交渉より前に必要な基礎知識の一つです。
特集 M&Aを正しく活用する時代
第5講 株式譲渡と事業譲渡、その戦略的な活用法
https://urv-group.com/manda/ma-05/
URVグローバルグループの成長企業M&A
会社の「終活」としてのM&Aだけではなく、事業承継、事業提携、資本提携、事業譲渡、株式譲渡などから、経営者の目的に適した方法を検討します。
企業価値向上、M&Aスキームの検討、候補企業の探索・交渉から、M&A成立後のPMIまで支援します。
https://urv-group.com/services/consulting/growing-manda/


