M&Aの秘密保持はなぜ重要?経営者が企業価値を守る「情報管理7つの鉄則」
目次
M&Aを考える中小企業経営者なら、EBITDAを理解しておきたい
ただし、EBITDAは「キャッシュ・フロー」そのものではない
買い手は、現在のEBITDAだけでなく「買収後のEBITDA」を考える
M&Aを考える中小企業経営者なら、EBITDAを理解しておきたい
会社を経営していると、
売上高。
粗利益。
営業利益。
経常利益。
税引前利益。
当期純利益。
といった数字を見る機会は多いと思います。
しかし、M&Aや資本提携の世界に入ると、これまであまり聞かなかった数字が登場します。
それが、
EBITDA
です。
買い手企業や投資家との交渉では、
「この会社はEBITDAの何倍くらいで評価できるか。」
「現在のEBITDAはいくらか。」
「調整後EBITDAはいくらになるか。」
という議論が行われることがあります。
一方、中小企業のオーナー経営者は、
「営業利益や経常利益なら分かるが、EBITDAは見たことがない。」
ということも珍しくありません。
しかし、将来、
会社をM&Aで譲渡したい。
資本提携をしたい。
自社の企業価値を把握したい。
他社を買収したい。
と考えているのであれば、EBITDAは理解しておきたい経営指標の一つです。
ただし、最初に重要なことを申し上げます。
EBITDAそのものが「企業価値」ではありません。
EBITDAは、会社・事業の収益力を比較しやすくするための指標であり、企業価値を考えるための材料の一つです。
EBITDAとは何か?
EBITDAは、
Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization
の頭文字を取ったものです。
日本語では一般に、
利払い前。
税引前。
減価償却前。
利益
などと説明されます。
それぞれを見てみましょう。
Interest
借入等に伴う支払利息など、会社の資金調達方法によって変わる要素。
Taxes
法人税等。利益水準や税務上の状況によって変わる要素。
Depreciation
建物、設備、機械、備品などの有形固定資産に関する減価償却。
Amortization
ソフトウエア、無形資産等に関する償却。
これらの影響を一定程度取り除くことで、
会社・事業が持つ収益力を比較しやすくしよう
という考え方です。
EBITDAは、どのように計算するのか?
EBITDAの基本的な考え方は、
当期純利益
+支払利息等
+法人税等
+減価償却費・償却費
=EBITDA
です。
一方、日本の中小企業M&Aの実務では、簡便的に、
営業利益
+減価償却費・償却費
≒ EBITDA
という形で概算することもあります。
なぜ営業利益から計算できるのでしょうか。
営業利益は、そもそも通常、
支払利息
や、
法人税等
を控除する前の利益だからです。
したがって、
「営業利益には支払利息が含まれているから、それを足し戻す」わけではありません。
ここは、EBITDAを理解するうえで重要なポイントです。
なお、実際のM&Aでは、
財務諸表。
勘定科目。
会計方針。
非経常的な収益・費用。
などを確認したうえで算定するため、単純な公式だけで最終的なEBITDAが決まるわけではありません。
なぜM&Aでは営業利益だけでなく、EBITDAを見るのか?
例えば、同じような事業を行っているA社とB社があるとします。
両社とも同じ程度の売上を上げています。
しかしA社は、
工場・設備を大量に保有しており、減価償却費が大きい。
一方B社は、
設備をあまり保有せず、外部委託を多く利用している。
とします。
すると、事業そのものの収益力が似ていても、
減価償却費の違いによって営業利益に差が生じます。
また、
借入金が多い会社。
無借金に近い会社。
では、支払利息も違います。
こうした、
資産構成。
資金調達構造。
会計上の償却負担。
などによる違いを一定程度取り除き、
事業そのものがどの程度の収益を生み出しているのかを比較しやすくする
のが、EBITDAを見る理由の一つです。
ただし、EBITDAは「キャッシュ・フロー」そのものではない
ここは非常に重要です。
EBITDAについて、
「実際に会社が稼いだ現金」
「会社のキャッシュ・フロー」
と説明されることがあります。
しかし、これは正確ではありません。
EBITDAには、
設備投資。
運転資金の増減。
借入金元本の返済。
法人税の支払い。
などが反映されていません。
例えば、
EBITDAが1億円ある。
しかし毎年8000万円の設備更新が必要。
という会社と、
EBITDAが1億円あり、
設備投資は毎年1000万円で済む会社
では、手元に残るキャッシュが違います。
また、
売上が急増し、
売掛金や在庫が大幅に増えている会社
では、EBITDAが伸びていても資金繰りが苦しくなる場合があります。
したがって、
EBITDAは「キャッシュを生み出す力を見るための参考指標」ではありますが、キャッシュ・フローそのものではありません。
EBITDAは、会計基準で決められた利益項目ではない
営業利益。
経常利益。
当期純利益。
は、財務諸表上で確認できます。
一方、EBITDAは、一般的な財務諸表に必ず表示される法定の利益項目ではありません。
そのため、
会社。
投資家。
金融機関。
M&Aアドバイザー。
によって、計算方法や調整方法が異なる場合があります。
さらにM&Aでは、
Adjusted EBITDA
調整後EBITDA
という数字が使われることがあります。
M&Aで重要になる「調整後EBITDA」とは?
中小企業の場合、決算書上の利益が、
将来も継続する事業の収益力
と完全に一致しているとは限りません。
例えば、
一度だけ発生した移転費用。
一時的な訴訟関連費用。
一時的な災害損失。
M&Aに伴う一過性の費用。
関連当事者との特殊な取引条件。
市場水準と大きく異なるオーナー役員報酬。
などが含まれている場合があります。
そこで、
M&A後にも継続すると考えられる通常の事業運営を前提に、
収益・費用を合理的に調整したEBITDA
を検討することがあります。
これが、調整後EBITDAです。
ただし、
「費用だから何でも足し戻せる」という意味ではありません。
例えばオーナー社長が退任するからといって、
社長の役員報酬全額を足し戻せる
とは限りません。
M&A後も会社を経営する人は必要です。
後任経営者へ支払う市場水準の報酬は、会社の経費として残ります。
したがって、
調整後EBITDAとは、「会社を高く見せるために利益を作り直す数字」ではありません。
M&A後にも継続すると考えられる正常な収益力を、合理的な根拠に基づいて確認するための数字です。
EBITDAと企業価値は、どう結びつくのか?
M&Aでは、
EV/EBITDA倍率
という考え方が使われることがあります。
EVとは、
Enterprise Value。
企業価値を意味します。
例えば、
EBITDAが1億円。
同種企業のM&Aで参考になる倍率が5倍。
であれば、
EBITDA 1億円
×
参考倍率 5倍
=
企業価値 概算5億円
という考え方です。
ただし、
「EBITDAが1億円なら必ず5億円で売れる」わけではありません。
倍率は、
業種。
成長率。
利益率。
事業リスク。
企業規模。
顧客構成。
市場環境。
競争優位。
M&A市場の需給。
などによって変わります。
また、同じ会社でも買い手によって、
期待するシナジー。
投資回収目標。
資金調達コスト。
が違うため、提示価格が異なることがあります。
「企業価値」と「オーナーが受け取る株式価値」も同じではない
ここも、中小企業経営者が理解しておきたいところです。
仮に、
EBITDA × 倍率
によって、
企業価値が5億円
と評価されたとします。
だからといって、
オーナー株主が必ず5億円を受け取れる
というわけではありません。
例えば会社に、
有利子負債1億5000万円。
現預金5000万円。
があるとします。
単純化すれば、
ネット有利子負債は1億円です。
すると、
企業価値5億円
から、
ネット有利子負債1億円
などを調整し、
株式価値を検討することになります。
企業価値
=事業全体の価値
株式価値
=そのうち株主へ帰属する価値
です。
実際のM&Aでは、
余剰現預金。
運転資金。
非事業用資産。
有利子負債。
簿外債務。
その他の調整項目。
も確認するため、より複雑になります。
EBITDA倍率は「投資回収年数」そのものではない
「EBITDA5倍なら、5年で投資を回収できる。」
という説明も見かけます。
感覚的な理解としては分かりやすいのですが、実際にはもう少し慎重に考える必要があります。
なぜなら、
EBITDAから、
税金。
設備投資。
運転資金。
などの資金流出が発生するからです。
また、
M&A後にEBITDAが伸びる。
反対に、落ちる。
場合もあります。
したがって、
EV/EBITDA倍率は企業価値を比較するための倍率であって、単純な投資回収年数とは同じではありません。
同じEBITDA1億円でも、企業価値が違う理由
例えば、A社とB社のEBITDAが、どちらも1億円だとします。
しかしA社は、
毎年10%成長している。
顧客が分散している。
継続契約が多い。
社長がいなくても営業できる。
設備投資負担が小さい。
とします。
一方B社は、
売上が毎年減少している。
一社の顧客が売上の50%を占める。
社長自身が売上の大部分を作っている。
毎年多額の設備更新が必要。
とします。
同じEBITDA1億円でも、
買い手から見たリスクと将来性はまったく違います。
当然、
適用される倍率も同じとは限りません。
M&Aで企業価値を高めるには、EBITDAを増やすだけでは不十分です。
「そのEBITDAが、将来も再現できるのか」が非常に重要です。
設備投資型の会社では、EBITDAだけを見ると危険
EBITDAが特に注意を要するのが、
大きな設備投資を継続的に必要とする事業です。
例えば、
工場。
ホテル。
運送業。
大型店舗。
機械設備。
などです。
減価償却費はEBITDAでは足し戻します。
しかし、
設備はいずれ更新しなければなりません。
つまり、
減価償却費は当期の現金支出ではなくても、
将来の設備更新に必要なキャッシュを考えるうえでは無視できません。
したがって買い手側は、
EBITDA。
だけでなく、
維持更新に必要な設備投資。
将来の大型投資。
も確認します。
運転資金が大きい会社も、EBITDAだけでは評価できない
もう一つが、
運転資金
です。
例えば、
売上が伸びるほど、
在庫。
売掛金。
が増える事業があります。
EBITDAが増えても、
その成長を支えるために多額の運転資金が必要であれば、
会社からキャッシュが出ていきます。
したがってM&Aでは、
EBITDA。
設備投資。
運転資金。
を合わせて見る必要があります。
「利益がある会社」と「キャッシュを残せる会社」は、必ずしも同じではありません。
M&Aで高く評価される会社は、「EBITDAの質」が高い
僕が経営者に特に意識していただきたいのが、
EBITDAの金額だけでなく、その質
です。
例えば、
一時的な大型案件によって出たEBITDA。
社長一人の営業力によって出たEBITDA。
特定顧客一社への依存によって出たEBITDA。
と、
毎年継続している契約から出るEBITDA。
複数顧客から安定して出るEBITDA。
組織的な営業によって再現できるEBITDA。
では、買い手から見た価値が違います。
そこで、
EBITDAはいくらか
↓
そのEBITDAは何から生まれているか
↓
来年も生まれるか
↓
社長が辞めても生まれるか
↓
買収後にさらに増やせるか
まで考えます。
中小企業経営者がEBITDAを高める7つの方法
M&Aを将来の選択肢として持ちたい経営者であれば、次のような経営改善を考えることができます。
① 粗利益率を高める
値決め。
商品構成。
仕入。
外注。
を見直し、売上からより多くの粗利益を残します。
② 不採算商品・事業を見直す
売上を作っていても、ほとんど利益を生まない商品があります。
売上規模ではなく、利益への貢献を確認します。
③ 継続収益を増やす
保守。
管理。
継続購入。
サブスクリプション。
顧問契約。
など、将来収益を予測しやすい構造を増やします。
④ 特定顧客依存を下げる
大口顧客一社を失うだけでEBITDAが大きく下がる会社は、買い手から見ればリスクがあります。
⑤ 社長依存を下げる
社長自身の営業。
社長だけが持つ顧客関係。
社長だけができる技術。
を、会社の組織・仕組みへ移します。
⑥ 生産性を高める
同じ人数・時間・資本から、より大きな付加価値を生み出せる会社にします。
⑦ 一過性の利益ではなく、正常収益力を高める
M&A直前だけ経費を削減して利益を作る
という発想ではなく、
毎年安定して利益を出せる会社を作ります。
M&Aで高い企業価値を目指す経営とは、「M&A直前に決算書をきれいにすること」ではありません。
数年かけて、再現性の高いEBITDAを生み出せる会社をつくることです。
EBITDAだけで会社を経営してはいけない
ここまでEBITDAの重要性について説明しました。
しかし、
「これからは営業利益やキャッシュ・フローを見ず、EBITDAだけを見ればよい。」
ということではありません。
経営者が見るべき数字には、
売上。
粗利益。
営業利益。
キャッシュ・フロー。
運転資金。
自己資本。
有利子負債。
ROIC。
などがあります。
EBITDAは、その中の一つです。
一つの数字ですべての会社を評価できる万能指標はありません。
企業価値評価には、EBITDA倍率以外の方法もある
企業価値評価には、
EBITDA倍率を使う方法
だけがあるわけではありません。
例えば、
コスト・アプローチ
会社が持つ資産・負債・純資産などを基礎に考える。
マーケット・アプローチ
類似企業・類似M&A取引の価格や倍率などを参考に考える。
インカム・アプローチ
将来生み出すキャッシュ・フローを現在価値へ換算して考える。
などがあります。
EV/EBITDA倍率は、
マーケット・アプローチの中で使われる代表的な考え方の一つです。
したがって、
EBITDAは、企業価値評価の「答え」ではありません。
企業価値を考えるための重要な「入口」の一つです。
買い手は、現在のEBITDAだけでなく「買収後のEBITDA」を考える
買い手企業にとって重要なのは、
現在EBITDAがいくらあるか
だけではありません。
買収後、
自社の販売網を使えば売上を増やせる。
仕入を統合すれば原価を下げられる。
管理部門を統合すれば固定費を減らせる。
海外ネットワークを使えば市場を広げられる。
商品をクロスセルできる。
というシナジーがあれば、
M&A後にEBITDAをさらに高められる可能性があります。
これは、買い手側が企業価値を考えるうえで重要です。
そして、この部分は、
PMI
と直結します。
M&Aは、「EBITDAを何倍で買うか」で終わる取引ではありません。
買収後、そのEBITDAをどう伸ばすかまで考えて初めて、M&A戦略になります。
年商1億円から5億円へ進む経営者も、EBITDAを「経営を見る補助線」として使う
EBITDAは、
会社を売ろうとしている経営者だけ
が見る数字ではありません。
年商1億円、その先の5億円へ会社を成長させようとしている経営者にとっても、
本業の収益力は改善しているか。
設備投資に対して収益が上がっているか。
借入依存が高くなりすぎていないか。
利益の再現性は高まっているか。
を考える一つの補助線になります。
ただし、
EBITDAだけを最大化する
ことを経営目的にはしません。
最終的には、
利益。
キャッシュ。
資本効率。
成長率。
財務安全性。
組織力。
を含めて会社を強くしていきます。
URVグローバルグループ「M&Aを正しく活用する時代」第7講
URVグローバルグループでは、
特集 M&Aを正しく活用する時代
を掲載しています。
その第7講では、
EBITDAとは何か。
EBITDAをどのように計算するのか。
なぜM&AでEBITDAが使われるのか。
EBITDA倍率をどのように考えるのか。
EBITDAだけで投資判断してはいけない理由。
ROICや成長率との関係。
ビジネスデューデリジェンス。
買収後のPMI。
まで、M&A実務の観点から詳しく解説しています。
M&Aによる会社売却を検討しているオーナー経営者だけでなく、
資本提携を検討している経営者。
将来的な企業価値向上を考えている経営者。
他社の買収を検討している経営者。
にも、ぜひ理解していただきたいテーマです。
特集 M&Aを正しく活用する時代
第7講 M&Aでは、なぜPL上の利益よりも、EBITDAを重視するのか?
https://urv-group.com/manda/ma-07/
URVグローバルグループの成長企業M&A
単なる会社売却・買収の仲介だけではなく、企業価値向上、EBITDA・正常収益力の分析、資本提携、候補企業の探索、デューデリジェンス、交渉から、M&A成立後のPMIまでを見据えて支援します。
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