生成AIで作った事業計画は使えるのか?「カタチだけの経営計画」にしない7つの条件

松本尚典

松本尚典

テーマ:事業目標 設定の仕方


生成AIで、事業計画は驚くほど簡単に作れるようになった


生成AIの進化によって、経営者が事業計画や中期経営計画を作成するために必要な時間は、大きく短縮できるようになりました。

例えば生成AIに会社の情報をディープラーニングさせたうえで、「当社の3年間の中期経営計画を作ってください。」と依頼すれば、市場分析、SWOT分析、経営戦略、売上計画、マーケティング戦略、組織戦略、KPI、実行計画まで、短時間でそれらしい内容を作成できます。

文章も整っています。見出しもきれいです。場合によっては、そのまま社内会議へ出せそうな資料まで作れます。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。それらしい「事業計画書を作れること」と、「実行できる事業計画を作れること」は、まったく違います。

生成AIによって最も簡単になったのは、経営そのものではありません。経営について書かれた「文書」を生成することです。

だからこそ、AI時代の経営者は、立派な計画書を作ったことと、経営戦略を立てたことを混同してはいけません。

生成AIを使い始めた経営者が陥る、「事業計画の大量生産」という罠


生成AIを使えば、新規事業案を次々に作ることができます。

「この市場へ進出した場合の事業計画を作って。」

「この商品を海外で販売する事業計画を作って。」

「AIを使った新規事業を10案出して。」

こうした指示を出せば、短時間で大量の案が出てきます。

これは、アイデアを広げる段階では非常に有効です。

問題は、「案が出たこと」と、「経営者としてその事業を選択したこと」を混同することです。

経営資源には限りがあります。人、モノ、カネ、時間。すべて有限です。生成AIが100個の新規事業を提案できても、会社が100個の新規事業を実行できるわけではありません。

むしろ経営者の仕事は、100の可能性から、3つを検討し、1つを選び、99を捨てることです。

生成AIは、選択肢を増やすことが得意です。
経営者は、選択肢を減らし、経営資源を集中することが仕事です。


この役割の違いを理解する必要があります。

「見栄えのよい事業計画」と「使える事業計画」は何が違うのか?


生成AIが作った事業計画が実務で機能しない最大の理由は、文章がAIで書かれているからではありません。その会社に固有の情報が不足しているからです。

例えば、現在の顧客は誰なのか、なぜ顧客から選ばれているのか、営業利益はいくらあるのか、キャッシュはいくら使えるのか、誰が事業責任者になるのか、既存社員にどんな能力があるのか、現在の主力事業とのシナジーはあるのか、どの程度まで失敗を許容できるのか、という情報です。

一般的な情報からAIが作った計画は、「正しそう」には見えます。しかし、「御社が実行できるかどうか」までは、別の問題です。

生成AIで「カタチだけの中期経営計画」を作ってはいけない


私が中期経営計画で特に問題だと思うのは、3年後の見通しとそれに基づく売上、利益などがきれいに並んでいるにもかかわらず、「なぜ、その数字になるのか」が説明できない計画です。

例えば、現在年商2億円の会社が3年後5億円という計画を作る。

しかし、顧客を何社増やすのか、単価はいくらにするのか、どの商品で増やすのか、営業担当者を何人増やすのか、一人当たり売上はいくらなのか、マーケティングへいくら投資するのか、設備投資はいくら必要なのか、資金調達はどうするのか、という各論が詰まっていなければ、それは実行不可能な画にかいた餅です。

それでは、「5億円」という数字は経営計画ではありません。

単なる希望、夢です。

中期経営計画とは、「3年後こうなりたい」という願望を書く文書ではありません。現在から3年後まで、どの経営資源を、いつ、どこへ投入するかを決める意思決定文書です。

生成AIで作った事業計画を「使える計画」にする7つの条件


では、生成AIを使って、実務で機能する事業計画を作るには何が必要でしょうか。

① 経営者自身が「なぜ、この事業をするのか」を決める


AIに、「儲かりそうな事業を考えて。」と聞く前に、経営者自身が、なぜ新規事業を行うのかを明確にします。

既存事業が縮小しているのか。

新しい収益源が必要なのか。

既存顧客へ新商品を販売したいのか。

海外市場へ進出したいのか。

余剰資金を成長投資へ回したいのか。

目的によって、選ぶ戦略は違います。

AIに事業目的まで決めさせてはいけません。事業目的を決めるのは、経営者の仕事です。

② 一般情報ではなく、自社の事実を入力する


生成AIへ、「中小企業が成長する戦略を考えて。」と入力しても、一般論しか返ってきません。

それより、現在の売上高、粗利益、営業利益、顧客構成、商品構成、営業人数と質、社員一人当たり売上、市場動向、競合、現在の強み、経営課題、投資可能額などを整理します。

生成AIのアウトプットの質を決めるのは、文章としてのプロンプトの巧さだけではありません。AIへ渡す経営情報の質です。

③ AIに「答え」を聞くより、「反対意見」を出させる


経営者が生成AIを使うとき、非常に有効なのが、自分の仮説を反証させる使い方です。

例えば、「この新規事業へ進出しようと思う。成功する理由を教えて。」だけではなく、この事業計画が失敗するとしたら、考えられる原因を10個挙げてくださいと問いかけます。

これは非常に有効です。

AIを「自分の意見を肯定してくれる部下」にするのではなく、「反対意見を出してくれる壁打ち相手」にする。この方が、経営者の意思決定の質を高められます。

④ 必ず数字へ落とす


事業計画は、文章だけでは完成しません。

例えば、「Webマーケティングを強化する。」では不十分です。

広告費はいくらか。月間問い合わせ数はいくつ必要か。商談転換率はいくらか。成約率はいくらか。平均受注額はいくらか。粗利益率はいくらか。このような数字へ落とします。

新規事業であれば、初期投資、固定費、変動費、売上、粗利益、損益分岐点、資金繰り、投資回収期間まで検討します。

経営は、「国語で考え、算数で検証する」。これは生成AIを使う時代になっても変わりません。

⑤ 「誰がやるか」を決める


AIが作った計画には、「営業体制を強化する。」「海外展開を推進する。」「新商品を開発する。」という文章が並びます。

しかし、誰がやるのでしょうか。ここが決まらなければ、計画は動きません。

What 何をするか

Who 誰がやるか

When いつまでにやるか

How much いくら使うか

KPI 何をもって進捗を確認するか


まで決めます。

⑥ KPIと撤退条件を決める


事業計画では、成功した場合だけでなく、うまくいかなかった場合も考える必要があります。

例えば、

6か月後までに顧客20社。

1年後までに月商1000万円。

粗利益率40%以上。

広告獲得単価5万円以内。

といったKPIを設定します。

そして、一定期間を過ぎても目標へ到達しない場合、

追加投資するのか。

戦略を変更するのか。

撤退するのか。

まで、あらかじめ考えておきます。本当の事業計画には、「成功する方法」だけでなく、「失敗したときの判断基準」も必要です。

⑦ 計画をPDCAではなく、「経営の運用」に変える


計画を作ったら実行します。そして、月次、四半期、半期で、数字、顧客、競合、組織、資金を確認します。

計画との差が出たら、「計画通りではない。」で終わるのではなく、なぜ違ったのかを検証します。必要なら計画そのものを変更します。中期経営計画は、「守るための予定表」ではありません。現実との差を確認し、経営判断を修正するための基準です。

「プロンプトが命」ではなく、「問い・データ・検証」が命


以前の僕は、生成AI活用について、「プロンプトが命」という表現を使っていました。

もちろん、AIへ明確な指示を出すことは重要です。

しかし、現在はそれだけでは不十分だと考えています。

大切なのは、

  1. 経営者が何を考えたいのかという「問い」
  2. 自社の現状を示す正確な「データ」
  3. AIが出した結果を疑う「検証」
  4. 最終的に何を選択するかという「経営判断」


です。

優れたプロンプトを書いても、入力する数字が間違っていれば結果も間違います。経営者自身の前提が間違っていれば、AIがその前提に沿った精緻な計画を作るほど、かえって危険なこともあります。AI時代に重要なのは、「AIへ上手に命令する能力」だけではありません。AIと一緒に、自分の仮説を疑い続ける能力です。


AIが作った計画で部下が動かないのは、「AIだから」とは限らない


「AIで作った経営計画だから、社員は実行してくれない。」という問題でもありません。

社員から見て重要なのは、誰が文章を書いたかよりも、その計画が本当に会社の経営判断として決まっているかです。

例えば、なぜこの戦略なのか説明できる。経営者自身が意思決定している。必要な人・予算が用意されている。責任者が決まっている。KPIが決まっている。経営者自身も進捗を確認している。のであれば、AIを使って作成した計画であっても問題ありません。組織から信頼を失う原因は、「AIを使ったこと」ではありません。経営者が計画に責任を持たず、実行と検証を続けないことです。

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年商3000万円から4億円程度のオーナー社長を対象に、2026年3月期・グループ総売上高48億円の企業グループを経営する現役オーナーCEOである松本尚典が、中期経営計画、新規事業、生成AI活用から、経営戦略、組織、マーケティング、財務まで、経営判断と実行に継続して伴走します。

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松本尚典
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松本尚典(経営コンサルタント)

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