社長依存から脱却するには?中小企業が「社長がいなくても回る会社」をつくる方法

松本尚典

松本尚典

テーマ:組織マネジメント


会社は、経営者個人より長く続く仕組みを持たなければならない


企業会計には、「継続企業の前提(ゴーイングコンサーン)」という重要な考え方があります。

企業が将来にわたって事業活動を継続していくことを前提として、財務諸表などを考えるというものです。

僕は、この「継続」という考え方は、中小企業の経営そのものにも非常に重要だと思っています。

会社は、

社長が元気なときだけ動く。

社長が出社しているときだけ意思決定できる。

社長自身が営業しなければ売上が作れない。

という状態では、強い組織とはいえません。

社長が病気になる。

事故に遭う。

長期出張へ行く。

新規事業へ時間を使う。

あるいは、将来、事業承継の時期を迎える。

こうした場合でも、

顧客への対応が続く。

社員が判断できる。

売上が発生する。

支払いが行われる。

必要な経営判断が行われる。

という状態を作る必要があります。

本当に強い中小企業とは、「社長が倒れない会社」ではありません。

「社長が一時的にいなくても、会社そのものは倒れない会社」です。


社長ご自身で考えてみてください。


御社で、明日から社長が2週間会社へ来られなくなったと仮定してみてください。

会社は、通常通り動くでしょうか。

・重要案件の決裁が止まる
・大口顧客への対応ができない
・銀行との連絡ができない
・採用判断が止まる
・値決めができない
・クレーム対応が止まる
・社員が「社長に聞かないと分からない」となる
・取引先との条件交渉ができない
・経営数字を把握している人が社長しかいない
・特定のキーマンがいなくなると業務そのものが止まる

このような状態であれば、

売上や利益が現在順調だったとしても、

「社長依存リスク」

を抱えている可能性があります。

社長依存とは、

社長が熱心に仕事をしていること

ではありません。

会社に必要な情報、判断、顧客関係、ノウハウ、権限が、社長一人に集中している状態です。


社長依存経営は、創業期には強みになる


ここは重要です。

社長依存型の経営が、最初から悪いわけではありません。

創業期の会社では、

社長自身が営業する。

社長が商品を作る。

社長が顧客対応する。

社長が価格を決める。

社長が人を採用する。

という状態が、むしろ合理的です。

人数が少ない会社で、細かな組織や会議制度を作れば、かえって意思決定が遅くなります。

創業者の強い営業力。

商品へのこだわり。

意思決定の速さ。

顧客との信頼関係。

こうしたものによって、会社は成長します。

問題は、

会社が成長した後も、創業期と同じ経営方法を続けることです。

社員が10人。

30人。

50人。

と増えているのに、

すべて社長が決める。

すべて社長が確認する。

すべて社長が指示する。

という状態を続ければ、

いつか、

社長自身が会社の成長を止めるボトルネックになります。

「落下傘方式のマネジメント」になっていないか?


僕は、このような組織を、

「落下傘方式のマネジメント」

と呼んでいます。

通常の組織であれば、

社長



役員・部長



課長・責任者



担当者

という形で、それぞれが一定の権限と責任を持ちます。

しかし、落下傘型の会社では、

社長から、すべての社員へ直接指示が出ます。

組織図上は、

役員。

部長。

課長。

が存在していても、実際には重要な判断ができません。

担当社員も、

「上司に相談する」

のではなく、

「最後は社長に聞けばよい」

と考えます。

すると、

管理職は管理職として育たない。

社員は自分で考えなくなる。

社長には、あらゆる問題が集中する。

という状態になります。

意思決定が速いように見えて、実は会社全体を遅くする


社長が直接決めれば、その瞬間の意思決定は速いでしょう。

しかし、

30人の社員が毎日社長の判断を待つ会社

になれば、会社全体では遅くなります。

例えば、

見積金額。

値引き。

顧客対応。

採用。

発注。

経費。

休日。

契約条件。

まで、すべて社長確認。

こうなると、社員は、

「間違って怒られるくらいなら、社長へ聞こう」

と考えるようになります。

そして、ますます判断しなくなります。

社長依存型経営の最大の問題は、

「社長が忙しくなること」

だけではありません。

「社員が考えなくなること」です。


社長依存経営には、5つのリスクがある


社長依存が強い会社では、主に次のようなリスクが生まれます。

① 事業継続リスク


最も分かりやすいのが、社長自身に何かあった場合です。

病気。

事故。

長期療養。

家族の事情。

などによって社長が働けなくなると、

会社の意思決定そのものが止まる。

これは重大な事業継続リスクです。

② 成長限界リスク


社長が一日に判断できる案件数には限界があります。

社長が一日に会える顧客数にも限界があります。

したがって、

社長の処理能力=会社の処理能力

になっている会社には、成長上限があります。

年商数千万円では回っていた経営方法が、年商1億円、3億円、5億円となったときに機能しなくなる理由の一つです。

③ 幹部が育たないリスク


人は、判断を任されなければ判断力が育ちません。

管理職という肩書きを与えても、

部下を採用できない。

予算を決められない。

顧客対応を決められない。

値引きを決められない。

のであれば、その人は実質的な管理職にはなれません。

幹部育成には、

研修だけではなく、

実際に意思決定する経験

が必要です。

④ 優秀な人材が定着しにくいリスク


能力の高い人材ほど、

自分で考えたい。

判断したい。

仕事を作りたい。

責任ある役割を担いたい。

と考える傾向があります。

しかし、

「最後は全部社長が決める」

という会社では、裁量を持つことができません。

その結果、

優秀な社員ほど、

「ここにいても、自分の役割が広がらない」

と感じる可能性があります。

⑤ 事業承継できないリスク


事業承継で最も難しいのは、

株式を渡すこと

だけではありません。

経営機能を引き継ぐことです。

顧客との関係。

金融機関との関係。

値決め。

採用。

人事判断。

営業ノウハウ。

重要取引先。

経営数字。

これらがすべて現社長の頭の中にある会社では、後継者へ株式を渡しても会社を引き継げません。

完璧にできる人間はいないと自覚する


社長依存が強い経営者の中には、

「任せられる社員がいない」

とおっしゃる方がいます。

確かに、社長とまったく同じ能力を持つ社員はいないでしょう。

しかし、それは当然です。

社長自身も、

営業。

財務。

マーケティング。

人事。

法務。

IT。

製造。

海外。

のすべてにおいて、最高レベルの専門家ではないはずです。

人間は誰も完璧ではありません。

だからこそ組織があります。

権限委譲とは、「自分と同じことができる人を探して任せること」ではありません。

「その人が責任を持って判断できる範囲を決め、少しずつ広げていくこと」です。


「会社は自分のもの」から、「自分がいなくても成長する会社」へ


オーナー社長にとって、会社は特別な存在です。

自分で創業し。

自分で顧客を獲得し。

自分でおカネを入れ。

自分でリスクを取ってきた。

だからこそ、

「会社は自分が守らなければならない」

という意識が強くなるのは当然です。

創業期には、その責任感が強力な推進力になります。

しかし会社が成長すると、

経営者の役割も変えなければなりません。

自分が営業する。

から、

営業できる組織を作る。

自分が判断する。

から、

適切に判断できる幹部を育てる。

自分が顧客を管理する。

から、

会社として顧客関係を持つ。

自分が数字を見る。

から、

管理職が数字を使って事業を動かす。

へ変えていきます。

オーナー社長にとって最終的な経営責任は残ります。

しかし、最終責任を持つことと、すべての仕事を自分で行うことは違います。


まずヒトを認め、任せられるところから任せ、そのうえで仕組化する


では、社長依存からどう脱却すればよいのでしょうか。

「明日から全部社員へ任せる」

では、当然うまくいきません。

段階的に進めます。

① 社長の仕事を全部書き出す


まず、

社長自身が何をしているのか

を棚卸しします。

営業。

見積。

採用。

評価。

経費承認。

銀行対応。

クレーム。

商品開発。

Web。

契約。

仕入。

などです。

そのうえで、

A 社長にしかできない仕事

B 現在は社長がやっているが、将来は任せられる仕事

C 今すぐ他の人へ任せられる仕事

D そもそもやめてもよい仕事


に分けます。

社長依存からの脱却は、

「社長の仕事を減らすこと」から始まります。

② 権限委譲の範囲を数字で決める


「任せる」

という曖昧な指示ではなく、

どこまで自分で決めてよいか

を明確にします。

例えば、

10万円以下の仕入は課長決裁。

50万円以下は部長決裁。

それ以上は役員決裁。

値引き5%以内は営業責任者。

採用一次判断は部長。

というようにします。

これによって、

「どこまで自分で決めてよいのか分からない」

という社員側の不安が減ります。

③ 責任と権限をセットで渡す


売上責任だけ負わせて、

価格は決められない。

採用もできない。

広告費も使えない。

では、責任者は成果を出せません。

責任を負わせるなら、

その責任を果たすために必要な権限も渡す。


これがマネジメントの基本です。

④ 判断基準を仕組みにする


権限委譲すると、

「人によって判断がバラバラになる」

という不安が出ます。

そこで、

価格基準。

採用基準。

投資基準。

品質基準。

クレーム対応基準。

契約条件。

を言語化します。

さらに、

マニュアル。

チェックリスト。

テンプレート。

システム。

AI。

などを活用し、

社長の頭の中にあった判断基準を、会社の資産へ変えます。

⑤ 数字で管理する


権限委譲した後、

社長が再び細かく口を出せば、元に戻ります。

そこで、

売上。

粗利益。

受注率。

顧客継続率。

納期。

生産性。

人件費。

キャッシュ。

など、必要なKPIを決めます。

「どうやったか」を毎回監視する経営から、「どんな成果が出ているか」を数字で管理する経営へ変える。

これが重要です。

⑥ 会議体で情報を上げる


社長が全社員と個別に話すのではなく、

担当者



責任者



部門長



経営会議

という情報ルートを作ります。

もちろん、現場の情報を経営者が直接聞くことも大切です。

しかし、

日常的な指揮命令系統

と、

経営者が現場の声を聞くこと

は分けて考える必要があります。

⑦ 「社長不在」を想定した代行体制を決める


最後に、

万一、明日から社長が仕事をできなくなった場合、

誰が何を判断するのか

を決めておきます。

例えば、

銀行対応。

給与・支払い。

重要顧客。

契約。

人事。

緊急投資。

広報。

などです。

会社によっては、

緊急連絡網。

重要契約一覧。

主要取引先一覧。

金融機関担当者。

システム権限。

重要書類の保管場所。

なども整理しておく必要があります。

これは単なる組織論ではありません。

社長依存からの脱却は、BCP・事業承継・組織成長をつなぐ経営課題です。

「社長不在テスト」をしてみる


御社がどの程度社長依存なのかを確認する、非常に簡単な方法があります。

社長が1日いなくても回るか。



3日いなくても回るか。



2週間いなくても回るか。



1か月重要な意思決定に参加しなくても、通常業務が続くか。


もちろん、オーナー社長が1か月完全に経営から離れる必要はありません。

目的は、

「どこで会社が止まるか」

を発見することです。

例えば、

3日目で見積が止まる。

1週間目で採用が止まる。

2週間目で重要顧客への提案が止まる。

のであれば、

そこが御社の社長依存ポイントです。

年商1億円から5億円へ進む会社ほど、社長の仕事を変える必要がある


年商数千万円までであれば、

社長自身の営業力。

商品力。

行動量。

によって会社を伸ばすことができます。

しかし、年商1億円、その先へ会社を伸ばそうとすると、

社長自身がもっと働く

という成長方法には限界があります。

営業責任者を育てる。

管理職を育てる。

数字で管理する。

業務を標準化する。

意思決定を分散する。

経営者自身は、

事業戦略。

資本配分。

重要人材。

新規事業。

重要顧客。

外部ネットワーク。

といった仕事へ集中する。

年商5億円の壁を超える経営とは、

「社長がいなくてもよい会社」を作ることではありません。

「社長が、社長にしかできない仕事へ集中できる会社」を作ることです。


社長依存度 自己診断チェックリスト


御社の状態を確認してみてください。

☐ 社長が不在だと重要な値決めができない
☐ 大口顧客は社長しか対応できない
☐ 銀行との関係を社長一人しか把握していない
☐ 社長がすべての採用の最終判断をしている
☐ 管理職が、自分の部門の予算を決められない
☐ 重要業務の方法がマニュアル化されていない
☐ 社長しか把握していない顧客情報・取引情報がある
☐ 社員からの相談が、管理職を飛び越えて直接社長へ来る
☐ 社長自身が一週間休むことが難しい
☐ 「自分がやった方が早い」と思うことが多い
☐ 幹部候補に重要な意思決定を経験させていない
☐ 社長不在時の代行責任者が明確でない

当てはまる項目が多い場合は、

社長個人の働き方

ではなく、

経営体制そのものを見直す必要があります。

大切なのは、社長依存をゼロにすることではありません。

会社の存続や成長に重大な影響を与える領域から、順番に依存度を下げていくことです。


社長依存から脱却し、「組織で成長する会社」へ


「自分がいないと会社が回らない」

「幹部へ任せたいが、任せられる人材が育っていない」

「社員を増やしているのに、自分の仕事が減らない」

「管理職はいるが、結局すべて自分が判断している」

「事業承継を考えたいが、会社が自分に依存しすぎている」

「年商1億円までは来たが、その先へ組織をどう変えればよいか分からない」

こうした問題は、

単に社員へ仕事を任せるだけでは解決しません。

経営戦略。

組織設計。

役割。

権限。

評価。

会議。

数値管理。

業務標準化。

幹部育成。

を一体として作り直す必要があります。

年商5億円の壁を突破するための経営者伴走コンサルティング

年商3000万円から4億円程度のオーナー社長を対象に、2026年3月期・グループ総売上高48億円の企業グループを経営する現役オーナーCEOである松本尚典が、社長依存からの脱却、組織設計、幹部育成、権限委譲、経営管理体制から、経営戦略・マーケティング・財務まで、経営判断と実行に継続して伴走します。

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松本尚典
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松本尚典(経営コンサルタント)

URVグローバルグループ 

年商3,000万円から4億円程度のオーナー社長を対象に、次の成長ステージへの経営を伴走支援。現役オーナーCEOとして、経営者の意思決定を継続的に支え、年商5億円の壁の突破を目指します。

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